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夕方。
ニュースはさらに一段進んだ。
今度は、国内の科学系メディアが、かなり真面目なトーンで記事を出した。
近地球空間の未確認構造物、複数機関が解析へ 既知の人工衛星とは異なる可能性
コメント欄はもうひどかった。
宇宙人。
陰謀。
軍事実験。
フェイク。
終末。
全部ある。
だが、そのノイズの下に、確かなことが一つある。
複数機関が解析へ。
つまり、もう国や研究機関のラインが本格的に動き始めている。
「……」
恒一は記事を閉じた。
『地球側の反応速度は、あなたの想定より速いですか』
ルイゼが訊く。
「いや」
「たぶん、こんなもんだと思う」
『そうですか』
「観測データが積めるなら、一気に来る」
「むしろ一般向け発信をまだ抑えてる感じもある」
『……』
『それは、私たちにとっては良くありません』
「だろうな」
情報が整理され始める。
地球は本気になる。
そうなると、“近くにあるもの”への理解も速くなる。
そして、それはルイゼたちにとって、安全ではない。
「なあ」
『はい』
「お前ら、今の時点で地球側と直接接触する選択肢ってないのか」
『あります』
「……」
『ただし、現状では高リスクです』
「どういう意味で」
『地球側が脅威認定を先に行う可能性が高い』
「……」
『そして、私たちも追跡側の位置を完全には掴めていない』
つまり。
先に顔を出すと、地球にも追手にも座標を渡しかねない。
最悪だった。
「……詰んでるな」
『まだ、ではありません』
「まだ?」
『はい。“まだ”です』
その“まだ”の響きが、妙に不吉だった。
◇
夜。
恒一の私用メールに、今度はもっと露骨な連絡が入った。
件名。
業務提携の可能性について(至急ではありません)
差出人は、別の会社。
聞いたことのない技術コンサルティング会社。
だが、本文に一文だけ、明らかに引っかかるものがあった。
御社のような立ち上がりの速い個人支援事業者に、弊社は以前から関心を持っていました。
特に、前職での運用知見が現在の案件獲得へどう接続しているか、大変興味深く拝見しています。
「……」
恒一は画面を見つめる。
「御社って言ったな」
『はい』
「サイトなんか、ほぼ名刺代わりの一枚しかないのに」
『現在の案件獲得へどう接続しているか、という文面も不自然です』
「……」
『普通の提携打診ではありません』
分かる。
かなり。
今までの小さな成功の流れを、表からではなく、“接続”として見ている。
それは、かなり嫌な視点だ。
「整理する」
恒一が低く言う。
正しい点
•複数の外部が、自分の前職と現在の伸びを接続して見ている
不確実な点
•同じ筋か、別々の筋か
不明な点
•何を疑っているのか
•何を知りたいのか
•どこまで見えているのか
『良いです』
ルイゼが言う。
『そして、もう一つ』
「何だ」
『あなた自身が、“仕事が増えた”を喜ぶより先に、“誰が見ているか”を気にする段階へ入った』
恒一はその言葉に、しばらく返事ができなかった。
その通りだったからだ。
前なら、依頼が増えれば素直に嬉しかった。
今は違う。
嬉しいより先に、線を疑う。
紹介元を気にする。
見られ方を気にする。
世界が変わる前触れは、たぶんこういうところから来る。




