表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【日刊上位ランクイン】チャネリングしたら宇宙船の美少女艦長に繋がったので、ブラック企業を辞めて人生を取り戻すことにした  作者: ハイカラな人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/76

58

 速報が出た日の夜。

 恒一は仕事を早めに切り上げた。


 顧問先案件の初期整理は進んでいる。

 先輩案件の定着支援も順調。

 会計事務所案件の一覧修正も、かなり効いている。


 だが今日は、もうそれだけではなかった。


 ニュースになった。

 国内で。

 小さくても。

 もう、戻れない段階だ。


 部屋は暗い。

 水を置く。

 金属片。

 呼吸。

 受信を許可します。


 深い藍。

 星。

 《巡界避難艦アウルム》。


 ルイゼは、今日はすぐ現れた。

 整っている。

 だが、硬い。


「ニュースになった」

 恒一が先に言う。


『確認しています』

「そっちでも?」

『地球側公開情報として』

「……」


 なんか変な言い方だな、と思う。

 だが、今はそこを突っ込む気力が薄い。


「ここからどうなる」

『複数の可能性があります』

「聞かせろ」

『一。観測誤差として一度沈静化を試みる』

「うん」

『二。追加観測で沈静化不能になり、各国の研究・安全保障ラインが前面に出る』

「……」

『三。私たち自身か、追跡側の何らかの動きで、公開速度が跳ね上がる』

「……」


 三番が嫌だった。

 かなり。


「追跡側って、地球に何をする可能性がある」

『現時点では不明が多い』

「それでも言え」

『最悪を言えば、地球近傍を戦域として認識する可能性があります』


 戦域。


 その一語は、あまりにも重かった。


「……」

「それ、地球側からしたら最悪どころじゃないだろ」

『はい』

「なんで、そんな場所に」

 言いかけて、止まる。


 それはもう、半分答えが出ている。

 亡命先候補だったからだ。


 でも、その候補地に、自分の星を巻き込むような形で来ている。


「……」

 恒一はゆっくり言う。

「俺、知らないままでいたかったかもな」

『……』

「お前らが何者で、何を背負ってて、地球をどう見てたか」

『……』

「知らないまま、ただ助けられて、ちょっと惹かれて、人生立て直してるだけの方が、たぶん楽だった」


 ルイゼは何も言わなかった。

 ただ、その沈黙の奥に、深い痛みがあった。


『はい』

 やがて彼女は言った。

『その方が、あなたは楽だったと思います』


 否定しない。

 それがきつい。


『でも』

「……」

『もう遅い』

「……」

『あなたは見てしまった。知ってしまった。観測してしまった』

「……」

『だから、私は今、あなたに選ばせることしかできません』


 恒一は眉を寄せる。


「選ぶ?」

『はい』

「何を」

『ここから先も、接触を続けるか』


 その言葉で、空気が一段変わった。


 接触を続けるか。


 つまり。

 今までは、流れの中で続いていたものを、ここからは意識的に選べと言っているのだ。


「……」

 恒一はしばらく黙る。


 怒りはある。

 疑念もある。

 裏切られた感覚も消えない。

 でも、助けられたことも本当だ。

 惹かれているのも、たぶん本当だ。

 そして、自分はもう、かなり深くここに関わってしまっている。


「……条件付きだ」

 恒一は言った。


 ルイゼの目が、わずかに動く。


「続ける」

「……」

「でも、もう“俺を守るために伏せた”は、かなりの部分で通らない」

『……はい』

「必要な危機は先に言え」

『はい』

「地球側の判断材料に俺の情報を使うなら、その線も前より明示しろ」

『……はい』

「あと」

『あと?』

「俺のことを、ただの観測対象として見た瞬間、たぶん終わる」

『……』


 長い沈黙。

 その沈黙の中に、張り詰めた何かがあった。

 やがて、ルイゼは深く頷いた。


『受け入れます』

「……」

『それが、今のあなたに対して私が出せる、最低限の誠実さだと思います』


 最低限。

 その言い方は、嫌なくらい正確だった。


 十分ではない。

 でも、ゼロでもない。


 恒一は少しだけ目を閉じる。

 まだ全部は許せない。

 でも、ここで切ることも、たぶんできない。


 それが今の自分の本当だった。


     ◇


 そこで話が終わるかと思ったが、ルイゼの方から、もう一つだけ来た。


『私も、一つ言います』

「何だ」


『あなたに情報を渡したのは、利用価値だけではありません』

「……」

『そこは、軽く扱われたくない』


 恒一は返事に詰まった。


 ずるい。

 そういうタイミングで、そういうことを言うなと思う。

 でも、本音なのも分かる。


「……分かった」

 ようやくそれだけ返す。


 ルイゼは少しだけ視線を逸らした。

 珍しく、本当に少しだけ照れたような温度がある。


『それで十分です』

「そうかよ」


 そのやりとりのあと、また少し沈黙が落ちた。

 今度の沈黙は、さっきより少しましだった。

 全部は解けていない。

 でも、切れてもいない。


 たぶん、それが今の限界だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ