57
接続を切ったあと、恒一は机に向かい、今の状況を紙に書き出した。
地球側
•観測コミュニティで非自然構造の可能性
•小規模な報告が増加
•元勤務先に外部問い合わせ複数
•技術系の探りあり
•不審メール継続
異星側
•ルイゼたちは避難船
•地球は亡命と再建の候補地
•自分の提供情報は判断材料の一部
•艦内でも接触継続が問題視され始める
•追跡勢力の走査痕跡が再確認
自分
•小さな成功が続いている
•仕事は増えている
•でももう個人の再起だけでは済まない
•ルイゼへの信頼と疑念が同時にある
書き終えて、恒一は長く息を吐いた。
「……ひどいな」
自分で言う。
仕事は前に進んでいる。
人生も、少し取り戻している。
なのに、その土台の下では、もっと大きい地層が動き始めている。
これが現実だとしたら、かなりひどい。
でも、もう目を逸らす段階でもなかった。
◇
その翌朝。
とうとう、国内の大手ニュースアプリの速報欄に、小さな見出しが出た。
海外観測網、地球近傍の未確認構造物の可能性を報告 専門家は慎重姿勢
恒一は駅前のカフェでそれを見て、指先が少し冷えるのを感じた。
記事を開く。
まだ慎重。
まだ断定は避ける。
だが、複数観測点。
既知の人工衛星では説明しきれない。
詳細確認中。
もう、SNSの与太話ではない。
「……来たな」
恒一は小さく言った。
『はい』
ルイゼの声が返る。
「正しい点」
「世界はもう、空の異常を“話題”ではなく“報告”として扱い始めた」
『はい』
「不確実な点」
「これがどこまで一気に広がるか」
『はい』
「不明な点」
「政府、軍、研究機関が、今どの段階にいるか」
『はい』
その時、カフェの後ろの席から、サラリーマン二人の会話が耳に入る。
「見た? 宇宙のやつ」
「どうせ誤観測でしょ」
「でも珍しいよな」
「まあな」
まだ、その程度だ。
冗談半分。
現実味半分。
でも、この“半分”がもう危ない。
恒一はカップを持つ手に少し力を入れた。
世界は動き始めた。
まだ遅い。
まだ曖昧。
だが、確実に。
そして、自分はもう、その外にいる人間ではない。




