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午後。
会計事務所の牧野から、かなり落ち着かないメッセージが飛んできた。
所長がガチの顔で天文台の人に電話してるんですけど
何か知ってます?
「何で俺に聞くんだ……」
恒一は思わず呟いた。
『あなたが“空に違和感を見た人”だからでは』
ルイゼが言う。
「雑な接続だな」
『ですが、人間はそういうものです』
恒一は短く返した。
俺も断片しか見てません
ただ、冗談では済まない流れには見えます
すぐ返事。
ですよね
所長がこんな顔するの初めて見ました
恒一は少し考えてから、もう一つだけ送る。
仕事に支障が出るレベルになったら、早めに情報整理した方がいいです
不安が広がると、現場は余計に崩れるので
これは、半分は仕事の助言だった。
半分は、自分自身への言い聞かせでもある。
すると牧野から。
そういう時でも整理の話になるんですね
「……」
少し詰まる。
ルイゼが先に言った。
『事実として、あなたの強みはそこです』
「分かってるけど、本人に言われると何か変な感じだな」
恒一は、少し迷ってから返した。
たぶん、こういう時ほどそうです
混乱すると、人は余計に散らかるので
送ってから、自分でも少しだけ苦笑した。
「なんか、俺、だいぶ整理屋っぽくなってきたな」
『はい』
「嬉しいような、微妙なような」
『妥当です』
◇
夕方。
元勤務先の三島から、さらに嫌な連絡が来た。
総務が、今後は外部からのお前関連問い合わせは全部法務通すってさ
「……」
恒一は画面を見つめる。
そこまでですか
堂本の件もあるし
変なタイミングでお前に興味持つ外部が増えてるからだと思う
会社が守ってるっていうより、自分たちが余計なこと言いたくない感じ
それでも十分に重い。
法務を通す。
つまり、“単なる在籍確認”の範囲を超え始めたということだ。
『具体性が増しましたね』
ルイゼが言う。
「うん」
「会社側も、“なんか変だ”と思い始めてる」
『はい』
「正しい点」
「俺への外部の関心は、もう会社側が管理したがる水準に入った」
『はい』
「不確実な点」
「それが俺個人への関心なのか、堂本案件込みなのか」
『はい』
「不明な点」
「問い合わせてる相手同士が繋がってるかどうか」
『はい』
そこで、ふと、恒一の中で一つの嫌な仮説が立った。
「……なあ」
『はい』
「技術系の会社とか、投資筋とかが、ただ“整理屋として有能か”を見てるだけなら」
『はい』
「前職の総務法務ルートまで探る必要、あんまりないよな」
『……』
『そうですね』
つまり。
単なる採用や営業より、もう少し別のものを疑う余地がある。
堂本の件。
内部不正。
退職した相馬。
そして、その後の異様な立ち上がり。
「……気持ち悪いな」
『はい』
『その感覚は、まだ保持しておいた方がいい』




