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【日刊上位ランクイン】チャネリングしたら宇宙船の美少女艦長に繋がったので、ブラック企業を辞めて人生を取り戻すことにした  作者: ハイカラな人


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帰宅後。

 恒一は靴も脱ぎ散らかしたまま、部屋で簡易同調に入った。


 水。

 金属片。

 深呼吸。

 受信を許可します。


 意識が引かれる。

 深い藍。

 星。

 巨大な《巡界避難艦アウルム》。


 そして、今日は最初から空気が違った。


 張っている。

 艦内全体が。


 ルイゼはすぐ現れた。

 いつもの整った姿。

 でも、瞳の奥が硬い。


『確認します』

 開口一番、彼女は言った。

『あなたが観測した異常は、時刻、方角、感覚ともにかなり限定的です』

「何だったんだ」

『現時点では仮説です』

「仮説でいい。言え」

『……地球近傍宙域の境界で、位相撹乱に近い反応がありました』

「……」

「つまり?」

『追跡、あるいは長距離走査の可能性があります』


 頭の中が、少しだけ白くなる。


「追跡って」

『私たちを追っている側です』

「……」

『まだ地球側観測域に明確に乗るほどではありません』

「でも」

『でも、無関係だと切るには近すぎる』


 静かな言い方だった。

 だからこそ、深く刺さる。


 恒一はしばらく何も言えなかった。


 目の前の仕事。

 紹介。

 不審メール。

 元勤務先からの探り。

 そういう地球側のざらつきとは、明らかに別のスケールの話が、急に足元へ降りてきた感じがした。


「……それ、前からあったのか」

『可能性はありました』

「は?」

『……』

「おい」

『確度が低かったので、あなたには出していませんでした』


 胸の奥が冷える。


「またそれか」

『……』

「目的だけじゃなく、そういうのもか」

『……ごめんなさい』


 謝罪はすぐ来た。

 でも、きつかった。


 恒一は息を吸って、吐く。


「整理する」

『はい』

「正しい点」

「お前らを追ってる側がいる可能性は、前からあった」

『はい』

「不確実な点」

「それが今日の違和感と同じものか」

『はい』

「不明な点」

「そいつらがどこまで来てるか。地球に見えるのか。こっちへ何が起きるのか」

『はい』


 ルイゼは静かに頷いた。


『その通りです』

「……」

『怒っていますか』

「怒ってる」

『はい』

「あと、普通に怖い」

『それも当然です』


 恒一は目を閉じた。


 そうだ。

 当然だ。


 自分は今まで、小さい仕事を増やし、人生を取り戻し、ルイゼとの関係に少しずつ熱を持ち始めていた。

 その土台の下に、もっと大きい逃避行の影が前からあった。


 それを、今、改めて突きつけられたのだ。


「……なんで今言った」

『あなた自身が観測したからです』

「……」

『もう、“あなたを巻き込まないために伏せる”という段階ではなくなりました』


 その言葉は、嫌なほど本気だった。


「……最悪だな」

『はい』

「でも、ちゃんと分かった」

『……』


 ルイゼの方から、少しだけ張り詰めた安堵が返る。


 恒一は眉を押さえた。


「これで、仕事の話だけしてる場合じゃなくなったか」

『まだ、地球側で公に動く段階ではありません』

「でも、俺の中では変わる」

『はい』


 その通りだった。


 今日までの不穏は、個人の成功まわりのざらつきだった。

 でも今のは違う。

 もっと上の層だ。


 世界はまだ動いていない。

 ニュースもない。

 観測もされていない。

 ただ、空だけが少し変だった。


 それだけ。


 それだけなのに、今までの全部の意味が、少しずつ変わり始めていた。


 最初に違和感が来たのは、ニュースではなかった。


 SNSだった。


 翌朝。

 恒一はいつものように、起き抜けの頭でスマホを流していた。

 仕事の連絡。

 会計事務所案件のメモ。

 顧問先案件の初期診断項目。

 それから、どうでもいい動画と、どうでもいい炎上と、どうでもいい誰かの飯。


 その中に、妙な投稿が混ざっていた。


北西の空に変な光見えたやついない?


いや光っていうか、ノイズみたいな……


天文クラスタざわついてる?


「……」


 恒一の指が止まる。


『見つけましたか』

 ルイゼの声は低かった。


「これ、昨日のと関係あるか」

『断定はまだ』

「でも?」

『無関係と切るのは早い』


 恒一はさらに遡る。


 似たような投稿が、少数だがある。

 夜空の一角の違和感。

 撮れなかった。

 カメラには残らない。

 でも何か変だった。


 バラバラだ。

 誰も確信していない。

 だからこそ、逆に嫌だった。


「……ニュースにはなってないな」

『まだ、小さい』

「“まだ”って言ったな」

『はい』


 嫌な言い方だった。

 でも、たぶん正しい。


 恒一は起き上がり、カーテンを開ける。

 朝の曇り空。

 何もない。

 普通だ。


 なのに、胸の奥だけが普通じゃない。


「整理する」

『はい』

「正しい点。少数だけど、昨夜の違和感に近い報告が他にもある」

『はい』

「不確実な点。それが同じ現象かどうか」

『はい』

「不明な点。どこまで観測されてて、誰がもう気づいてるか」

『はい』


 ルイゼは静かに頷いた。


『地球の公的観測網がまだ拾っていない可能性はあります』

「まだ」

『あるいは、拾っていても公開段階ではない』

「……」


 それもありそうだった。


 天文学者でも、軍でも、観測機関でも。

 何かが曖昧な段階では、すぐには出さないこともある。


 恒一はスマホを置き、しばらく天井を見た。


「……嫌な始まり方だな」

『はい』

「ニュースになる前のざわつきって、こういう感じなのか」

『あなたの文明では、そういうことも多いのでしょう』

「たぶんな」


 冗談みたいな顔をして始まる。

 でも、後から見返すと、あれが最初だったと分かる。

 そういう始まり方。


 今はまだ、たぶんその段階だ。


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