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翌日。
元勤務先から、意外な連絡が来た。
送ってきたのは三島だった。
短いメッセージ。
変な話だけど
お前のこと、外から問い合わせ来てるっぽい
「……は?」
恒一は画面を凝視した。
すぐに返信する。
どういう意味ですか
すぐ返ってくる。
人事じゃなくて総務ルートらしいから詳細は知らない
でも“元在籍確認”とかじゃなくて
“どういう業務してた人か”を探ってる感じ
嫌な汗が出る。
『判定』
ルイゼの声が低い。
『妥当。外部からの関心が具体化しました』
「うん」
『不確実。どの筋か』
「……」
『不明。単一の会社か、複数か』
三島からさらに来る。
堂本の件と絡めて見てるのかもな
余計なこと言わないようにって総務がちょっとピリついてた
恒一は深く息を吐いた。
堂本。
不正。
退職した相馬。
その後の小さな成功。
点が、少しずつ線になり始めている。
「……くそ」
『今の感情は?』
ルイゼが訊く。
「気持ち悪い」
『妥当です』
「あと、ちょっとだけ怖い」
『それも妥当です』
恒一は三島にだけ短く返した。
教えてくれてありがとうございます
余計なことは言わないでください
俺のことを聞かれても、今何してるかは答えなくて大丈夫です
三島の返事は短かった。
了解
俺も詳しくは言わない
そのやりとりだけで、少しだけ助かった。
まだ、こちら側に完全な敵しかいないわけではない。
◇
夜。
顧問先案件の準備を進めながら、恒一は明らかに落ち着かなかった。
資料は読める。
論点も切れる。
でも、頭の奥にずっと別の線がある。
誰が探っているのか。
技術系受託会社か。
投資筋か。
それとも、ただの転職スカウトに近いものか。
どれにしても、タイミングが嫌だった。
「……成功に酔うには、周りが不穏すぎるな」
恒一はぽつりと言った。
『良い整理です』
ルイゼが答える。
「嬉しくない名言だな」
『ですが、今の段階に必要です』
「だな」
少しの沈黙。
「なあ」
『はい』
「もし、お前の側の事情と、こっちの不穏が、どっかで繋がってたらどうする」
『……』
「仮定の話だ」
『仮定として答えます』
ルイゼの声は静かだった。
『その場合、あなたの現在地は“個人の成功”の範囲を超え始めていることになります』
「……」
『だからこそ、今の違和感は無視しない方がいい』
正しい。
たぶん、かなり。
恒一は椅子にもたれ、天井を見上げる。
まだ世界は動いていない。
ニュースにもなっていない。
政府も軍も、遠い。
でも、静かなところで、少しずつ空気が変わっている。
その予感だけは、はっきりあった。




