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【日刊上位ランクイン】チャネリングしたら宇宙船の美少女艦長に繋がったので、ブラック企業を辞めて人生を取り戻すことにした  作者: ハイカラな人


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翌日。

 顧問先案件の初回打ち合わせは、所長同席でオンラインになった。


 画面には三人。

 会計事務所の所長。

 顧問先の社長。

 そして恒一。


 社長は四十代後半。

 日焼けした顔。

 声が大きい。

 悪い人ではなさそうだが、自分の感覚で押し切るタイプの匂いがする。


「牧野さんから聞いてます」

 社長が言う。

「なんか、事務の流れ見るのがうまいとか」

「うまいというより、詰まり方を見るのが比較的得意です」

 恒一は答える。


「同じようなもんでしょ」

 社長は笑う。

「うちは、まあ、回ってるようで回ってなくて」

「資料の範囲では、かなり混線してるように見えます」

「直球だなぁ」

「今の段階で濁しても意味が薄いので」


 所長が少しだけ口元を緩めた。

 社長も一瞬黙ってから、また笑った。


「いいね。分かりやすい」

「ありがとうございます」

「で、どこが一番やばいと思う?」

「現時点の仮説でいいなら三つです」

「うん」

「営業が持ってる納期感覚と、現場が見てる着手可能タイミングがズレている」

「……」

「部材発注の責任が曖昧で、“誰かがやってるはず”が起きている」

「……」

「あと、進行遅延が見えても、“どこで誰が止まってるか”が一覧で見えない」


 社長の顔が、少しだけ変わる。


 言い返そうとしていない。

 むしろ、“図星を食らった時の黙り方”だった。


「……そこ、見える?」

「資料の時点でかなり」

「へぇ」


 所長が口を挟む。


「相馬さんは、今のところ“全部直せる”とは言っていません」

「そうですね」

 恒一は答える。

「今回やるなら、まず“どこで何が止まってるか”を見える形にするところまでです」

「そこまで?」

 社長が訊く。

「その後に運用定着まで行けるかは、今の時点では不明です」

「……」

「なので、最初は診断と初期整理。そこまでで切ります」


 少しの沈黙。


 社長はそこで、腕を組んで考えた。

 この沈黙は悪くない。

 押し売りしていない時の沈黙だ。


「いくら?」

 社長が訊く。


 金額。


 恒一は少しだけ息を整える。

 今までより一段、重い案件だ。


『範囲を先に固定』

 ルイゼの声。

『初回ヒアリング二回。現状整理。進行可視化の初期フォーマット。詰まり箇所の診断メモ』

「……」


「初期診断と整理の叩き台までで、八万円です」

 恒一は言った。

「運用に入るなら、その後は別で切ります」


 社長は黙る。

 所長も黙る。


 長い。

 結構長い。


 高かったか。

 いや、でも、これ以下は危ない。

 そう思う。


 やがて社長が言った。


「安いとは思わない」

「はい」

「でも、今の説明聞く限り、分からなくはない」

「……」

「ただ、一個条件」

「何でしょう」

「ちゃんと“現場が嫌がるポイント”も見て言ってほしい」

「できます」

「じゃあ一回やろう」


 決まった。


 八万円。


 今までで一番大きい。


 恒一は表情を崩さないようにしながら、内心でかなり動揺していた。


『心拍が上がっています』

 ルイゼが言う。

「黙れ」

『成功の初動です』

「分かってる!」


 通話後、恒一は椅子に深く沈み込んだ。


「……でかいな」

『はい』

「ちょっと笑えてくる」

『語彙がまだ弱いですね』

「うるせぇ……」


 でも、本当にそうだった。


 嬉しい。

 怖い。

 少し信じられない。

 それが全部同時に来る。


     ◇


 その夜。

 恒一は案件整理の前に、まず深呼吸をした。


 嬉しさで突っ走ると危ない。

 それは、もう分かっている。


 メモ帳を開く。


顧問先案件

•初期診断 8万円

•範囲は初期整理まで

•運用定着は別契約

•社長の感覚依存が強い

•現場の嫌がる点の可視化が必要


「……ちゃんと怖がっとくか」

『妥当です』

 ルイゼが言う。


「正しい点」

「大きい案件だけど、範囲を切って受けられた」

『はい』

「不確実な点」

「顧問先の社長が、整理された結果を本当に受け入れるか」

『はい』

「不明な点」

「この案件が次の紹介を呼ぶか、それとも逆に警戒を呼ぶか」

『……』

『そこは重要です』


 重要だった。


 小さいネットショップや会計補助の整理とは違う。

 製造業の社長案件は、周囲の見方も変わる。

 “便利な個人”ではなく、“何者だ”が少し強くなる可能性がある。


「……目立つな、これは」

『少しずつ』

「少しずつってのが嫌だよな」

『急激な悪化より対処はしやすいです』

「宇宙的すぎる発想だな」

『艦長ですので』

「便利ワード禁止」


 だが、その軽口のあと、ルイゼの方から少しだけ別の温度が流れた。


 緊張。

 そして、何かを測っている感覚。


「……どうした」

『いえ』

「いや、今、仕事の顔だったろ」

『……』

「おい」

『艦内でも、あなたとの接触継続について意見が増えています』

「……またか」


 前にも少し出た話だ。

 だが、今回は温度が前より重い。


「どんな?」

『地球情報の取得効率は高い』

「うん」

『ただし、接触対象――あなた――の影響度が上がりすぎていないか、という懸念』

「……」

『要するに、“一人の地球人に寄りすぎていないか”です』


 それは、かなりまっとうな懸念だった。


 だからこそ、きつい。


「お前は何て返してる」

『現時点では有用性が上回る、と』

「……」

『ただし、完全に私の裁量だけでもなくなりつつあります』


 部屋の空気が少しだけ冷えた。


 つまり。

 今のこの関係は、ルイゼ個人の判断だけでは守り切れなくなるかもしれない。


「……それ、最悪だな」

『はい』

「俺としては、かなり」

『分かります』

「お前は?」

『私も、好ましくはありません』


 その返答には、迷いがなかった。

 それだけは少し救いだった。


「……」

 恒一はしばらく黙り、やがて言った。

「やっぱ、お前の目的の件もそうだけど」

『はい』

「今の関係、俺が見えてないところ多すぎるな」

『……』

「地球側でも探られてる感じあるし、そっちでも監視っぽい」

『そうですね』

「なのに、俺は仕事して、お前と話して、ちょっと浮かれてる」

『……』


 そこで、ルイゼは珍しくすぐに返さなかった。


『浮かれている、だけではありません』

 やがて彼女は言う。

『あなたはかなり慎重です』

「でも足りてるかは分かんないだろ」

『はい』

「だよな」


 恒一は目を閉じる。


 成功は確かに来ている。

 でも、その周りの空気も確かに変わり始めている。

 それを、無視できない段階に入ってきた。

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