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【日刊上位ランクイン】チャネリングしたら宇宙船の美少女艦長に繋がったので、ブラック企業を辞めて人生を取り戻すことにした  作者: ハイカラな人


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午後。

 会計事務所案件では、牧野から少し変わった相談が来た。


仕事整理の件とは別で、

所長が「その人、何者?」って気にしてます


「……は?」

 思わず声が出た。


『外部評価の次段階ですね』

 ルイゼが言う。

「嫌な言い方すんな」

『事実です』


 恒一はすぐにオンライン通話を繋いだ。

 牧野が疲れた顔で出る。

 だが今日は少しだけ、前より目がましだ。


「今の、どういう意味ですか」

「そのままです」

「所長が?」

「はい」

「悪い意味で?」

「半分は違います」

「半分は?」

「“なんでそんなに現場の詰まりどころ分かるの”って」


 恒一は一瞬だけ黙る。


 来た。

 その問い。


「……会計事務所やったことないのに、ってことですか」

「それもあります」

「なるほど」


 牧野は少しだけ苦笑した。


「私としては助かってるんで、別にいいんですけど」

「うん」

「ただ、所長は仕事柄、“急に便利な人”をそのまま信用しないタイプで」

「健全ですね」

「かなり」


 健全だった。

 少なくとも、悪い反応だけではない。


「何て答えればいいと思います?」

 牧野が訊く。


 恒一は少し考える。


 正直には言えない。

 当然だ。

 だが、嘘も長持ちしない。


「……“ブラック寄りの現場で、整理されないまま無理やり回す仕事を長くしていたので、詰まり方には見覚えがある”」

「……」

「そのくらいですかね」

「それ、かなり説得力あります」

「事実なので」

「そうですね」


 少しの沈黙。


「所長、会ってみたいとも言ってます」

 牧野が言う。

「いきなり営業とかではなく、一回話だけでも」


 恒一の背筋が少しだけ伸びる。


 これは大きい。

 まだ受注ではない。

 でも、小さな会計事務所の所長に話を聞かれる。

 それは一段上だ。


『判定』

 ルイゼが言う。

『妥当。興味を持たれている』

「うん」

『不確実。好意的か、警戒混じりか』

「たぶん両方だな」

『はい』


 恒一は牧野に答えた。


「会うのは大丈夫です」

「ほんとですか」

「ただ、今受けてる範囲の延長線で、相談ベースなら」

「十分です。たぶん所長もそのくらいです」


 通話後、恒一はしばらく机に両肘をついていた。


「……ちょっとずつ上がってるな」

『はい』

「目立ちたくないのに」

『目立たないように勝つのは難しいと、先ほど理解したばかりでは?』

「覚えてるなぁお前」

『当然です』


     ◇


 夕方。

 恒一はソウマ・ワークスの簡易ページを少しだけ更新した。


 実績を三行に増やす。

 業務整理。

 締切・確認フロー整理。

 問い合わせテンプレ整備。


 書いていて、自分でも少しだけ違和感があった。

 増えている。

 確かに。


 まだ大きくはない。

 でも、“元ブラック企業の消耗品”だった男のページにしては、少し整いすぎている気もする。


「……」

『今、また自分を疑っていますね』

 ルイゼが言う。

「うん」

『理由は』

「順調すぎる感じが少し怖い」

『妥当です』

「だからそれやめろって」

『やめません』


 恒一は苦笑しながら、メモ帳に整理する。


正しい点

•実際に案件が増えている

•成果も出ている

•紹介が回っている


不確実な点

•この流れがいつまで続くか

•今の評価が継続的な信用に変わるか


不明な点

•周囲がこの成長速度をどう見るか

•どこから“違和感”が“警戒”に変わるか


「……」

『良いです』

「自分で整理できるようになってきたな」

『はい。学習しています』

「それ、お前の影響大きいぞ」

『半分くらいは認めます』

「半分かよ」


 でも、その半分が大きいことは分かっていた。


     ◇


 その夜。

 恒一は久しぶりに外へ出て、少しだけまともな服を買った。


 高くない。

 でも、安すぎもしない。

 会計事務所の所長と会うかもしれないからだ。


 鏡の前でシャツを合わせながら、ふと思う。


 前の自分なら、こういう出費に罪悪感があった。

 今は違う。

 必要な投資だと思える。


 それが少しだけ新鮮だった。


『似合っています』

 ルイゼの声。

「……見てんのか?」

『輪郭です』

「絶対今ちょっと見たろ」

『少しだけ』

「おい」


 向こうから、微かな笑い。

 最近、本当に遠慮がない。


「なあ」

『はい』

「お前の方でも、誰かと会う前に服とか気にするのか」

『あります』

「へぇ」

『制服規格がありますので』

「つまんねぇ」

『ですが、装飾や整え方で意思表示はします』

「例えば?」

『重要交渉前は、無駄な威圧が出ないように調整します』

「……」

『艦長が強く見えすぎると、相手が萎縮することがあります』

「お前、自分で強いって分かってんだな」

『はい。職務上必要なので』

「便利ワードだなほんと」


 でも、その会話の奥で、ふと別の映像が混ざる。


 ルイゼが、鏡のような反射面の前で襟元を整える気配。

 ほんの少しだけ、髪に触れる指先。

 軍規の中で許される範囲の微調整。


 それは地味なのに、妙に生々しかった。


「……」

『今、少し黙りましたね』

「……」

『また、くだらない感想の領域へ入りましたか』

「入ってない!」

『では、なぜ顔が熱いのですか』

「うるさい!」


 店の中で小さく言ってしまい、慌てて口を閉じる。


 危ない。

 最近この通信、本当に危ない。


『境界線の再確認が必要ですか』

 ルイゼが言う。

「いらん!」

『そうですか』


 明らかに面白がっていた。

 最悪だった。

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