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【日刊上位ランクイン】チャネリングしたら宇宙船の美少女艦長に繋がったので、ブラック企業を辞めて人生を取り戻すことにした  作者: ハイカラな人


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四件目の相談が来たのは、恒一が「新規受付を二週間止める」と決めてから、まだ三日も経っていない頃だった。


 朝。

 安い食パン。

 インスタントのスープ。

 机の上のノートPC。

 その画面の右上に、通知が一つ。


以前ご相談した牧野さんから聞きました。

小さな会社で事務と進行の整理に困っていて……


「……」

 恒一は無言で画面を見つめた。


『新規受付停止の三日目ですね』

 ルイゼの声。

「言うな」

『事実です』

「分かってるよ」


 四件目。


 正直、嬉しい。

 かなり。

 だが、同時に胃も少し縮む。


 今の自分は、もうゼロではない。

 仕事が続いている。

 紹介も回り始めている。

 それは良いことだ。


 でも、それはつまり、“断る必要”も出てきたということだった。


「……どうする」

『判定しますか』

「してくれ」

『妥当。今のあなたに四件目同時進行はやや過剰』

「うん」

『不確実。頑張れば回る可能性はある』

「それが一番危ないやつだな」

『はい』

『不明。受けた場合、既存三件の品質がどこまで落ちるか』

「……」


 その整理は、見事に嫌なところだけ正確だった。


 頑張れば回るかもしれない。

 でも、その“かもしれない”で無理をして壊れるのが、今までの自分だった。


 恒一は食パンを置き、メモ帳を引き寄せた。


事実

•紹介は回っている

•四件目相談が来た

•現在三件進行中

•二週間停止ルールを自分で決めた


感情

•嬉しい

•逃したくない

•でも怖い


結論候補

•今すぐ受けない

•ヒアリングだけ後日に回す

•待ってもらう


「……待ってもらう、か」

『それが現実的です』

 ルイゼが言う。

「嫌がられないか?」

『嫌がる相手もいるでしょう』

「うん」

『ですが、無理に受けて崩す方が悪い』

「……」


 言い返せない。


 恒一は少し考え、返信を書いた。


ご連絡ありがとうございます。

現在、既存対応が立て込んでいるため、すぐの着手は難しいです。

ただ、来週後半以降なら一度状況を伺えます。

それでもよろしければ、概要だけ先にいただけると助かります。


 送る。


 送ったあと、少しだけ息が詰まる。

 断っていない。

 でも即受けもしていない。

 この半端さが、正しいようで、少し怖い。


『今の不快感は何ですか』

 ルイゼが訊く。


「……機会損失っぽさ」

『はい』

「たぶん、前の会社で“来た仕事は断るな”の圧が強すぎた」

『……』

「だから、止める判断に、ちょっと罪悪感がある」


 言葉にした瞬間、自分で少しだけ納得した。


 そうだ。

 断ることに慣れていない。

 選ぶことにも慣れていない。

 来たものを全部飲んで、潰れるまで回すのが“真面目”だと思わされていた。


『では修正します』

 ルイゼが言う。

『今あなたがしたのは、“断る”ではなく、“着手順を管理した”です』

「……」

『事実誤認の修正です』


 その一言で、妙に腹のあたりが静かになった。


 断ったのではない。

 順番をつけた。

 それだけだ。


「……助かる」

『はい』


     ◇


 午前中、先輩案件の継続支援で、問い合わせテンプレの修正版が正式に採用された。


 返信文の文面を、状況別に四種類へ分ける。

 在庫あり。

 入荷待ち。

 発送遅延。

 確認中。


 ただそれだけだ。

 地味。

 本当に地味。


 でも、それだけで先輩からメッセージが来た。


返信の判断時間がめちゃくちゃ減った。

これだけでかなり楽。


「……」

 恒一は画面を見ながら、少しだけ目を細めた。


 大したことじゃない。

 たぶん、外から見れば。

 でも、現場ではこういうのが効く。


 迷う回数が減る。

 判断疲れが減る。

 返答の質が揃う。

 クレームも減る。


『成功の質が見えてきましたね』

 ルイゼが言う。

「質?」

『あなたの仕事は、“劇的に変える”ではなく、“迷いを減らす”方向で効いている』

「……ああ」


 その言い方は、しっくり来た。


 自分は天才的な発明家じゃない。

 一撃で全部をひっくり返すわけでもない。

 でも、現場の“迷い”を減らせる。

 それはたぶん、今の自分の価値だ。


「……地味だな」

『地味で十分です』

「そればっかだな」

『あなたが派手に行きたがるので、釘を刺しています』

「くそ……」


 でも、笑ってしまう。

 悔しいが、今の自分にはこの地味さが必要だった。

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