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【日刊上位ランクイン】チャネリングしたら宇宙船の美少女艦長に繋がったので、ブラック企業を辞めて人生を取り戻すことにした  作者: ハイカラな人


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夕方。


 篠崎からチャットが飛んできた。


ちょっと聞きたい

今どのくらい回ってる?


 恒一は少し迷ってから返す。


2件です

小さいのが


金額は?


 正直だなこの人、と思う。


2万継続と4万新規です


 少し間が空く。


悪くない

でも今のうちに型作って


型?


毎回ゼロから考えると死ぬ


 それは本当にその通りだった。


 しかも、言われる前から少し感じていた。

 今はまだ新鮮さと集中で回している。

 でも、これをずっとやると、頭が焼ける。


在庫系

事務フロー系

締切管理系

眠れない系

そのくらいに分けて、最初に見る項目決めときな


 恒一は画面を見つめた。


 眠れない系、まで入っている。

 どうやら篠崎経由で、牧野の反応も少し伝わっているらしい。


「情報早すぎないか、この界隈」

『紹介網ですね』

 ルイゼが言う。

「宇宙の言い方するな」


 でも、助かった。


 確かにそうだ。

 型を作る。

 初回ヒアリング項目。

 問題分類。

 最初の一手。

 最低限の成果物。


 それを持っておけば、次が楽になる。


ありがとうございます

それ作ります


 そう返すと、篠崎から即レス。


うん

あと、変なメール来たらすぐ乗らないで


 ぎくりとした。


なんで知ってるんですか


吉崎が元同僚づてで、相馬さん探ってる変な会社あるっぽいって言ってた


「……うわ」

 思わず声が出た。


『接続しましたね』

 ルイゼの声が少し低くなる。

「接続って言うな」

『情報の線が』

「そっちか」


 だが内容は重かった。


 ただの偶然営業ではなく、少なくとも“相馬さんを探ってる変な会社”という認識が、別ルートでも出ている。


詳しく聞いてもいいですか


まだ不明

でも紹介元が曖昧なやつは気をつけて

前職の件で名前が残ってるから


 前職の件。


 堂本。

 不正。

 出社停止。

 その周辺で辞めた相馬恒一。


 確かに、変な意味で名前が残っていてもおかしくない。


「……面倒なことになってきたな」

『はい』

「今のところ判定は?」

『妥当。何者かがあなたに関心を持っている可能性は上がった』

「うん」

『不確実。仕事目的か、別目的か』

「そうだな」

『不明。どこまであなたの現在の活動を把握しているか』


 恒一は深く息を吐いた。


 今のところ、まだ害はない。

 だが、気持ち悪い。

 かなり。


 それでも、止まるわけにはいかなかった。


     ◇


 その夜。


 恒一は案件の“型”を作る作業を始めた。


 カテゴリは四つ。


1. 在庫・受注混線型

•更新タイミング

•担当固定の有無

•例外処理の逃がし先

•顧客向け説明の文面


2. 締切・確認漏れ型

•締切一覧と確認待ち一覧の分離

•ボールの所在

•差し戻しの再浮上ルール

•保留の可視化


3. 情報散乱型

•情報源の数

•正式な最新情報の定義

•個人メモ依存の度合い

•更新責任者


4. 寝る前整理・過負荷型

•頭の中の未処理数

•今やれないことの境界

•他人待ちの有無

•明日の最初の一手


 書いていると、だんだん面白くなってくる。


「……なんか、全部似てるな」

『構造が似ているのでしょう』

 ルイゼが言う。

「違う業種でも?」

『はい。人間の混乱は、見た目より種類が少ないのかもしれません』

「お前それ、ちょっと失礼だな」

『褒めてもいます』

「どこが」

『共通構造があるなら、解法も育てやすい』

「……」


 それは確かにそうだった。


 業種が違っても、壊れ方は似る。

 だから、手当ても少しずつ共通化できる。


 これが、今の自分の強みなのかもしれない。

 超技術ではない。

 カリスマでもない。

 ただ、壊れ方を知っている。

 だから、崩れた場所の見つけ方が分かる。


「……地味だな」

『はい』

「でも悪くない」

『はい』


 そこで、ふと、ルイゼ側から別の波が来る。


 軽い困惑。

 少しの緊張。

 それから、妙に鮮明な像。


 白い廊下。

 艦内の一角。

 ルイゼに向かって何か報告する、年若い乗員らしき人物。

 そしてその視線が、ほんの少しだけ、ルイゼ本人ではなく“こちら側”を気にしている感じ。


「……何だ?」

『いえ』

 ルイゼの返答が、珍しく半拍遅い。

「いや、何かあっただろ」

『……艦内で、私の接触対象について関心が少し高まっています』

「は?」

『大したことではありません』

「いや、そこは大したことあるだろ」


 ルイゼはしばらく黙った。


 その黙り方で分かる。

 言いたくないのではなく、どこまで言っていいか測っている。


『あなたとの接触が継続し、得られる地球情報の精度が上がったため』

 やがて彼女は言う。

『一部の者が、“どのような個体なのか”を知りたがっています』

「……個体ってやめろ」

『失礼。人物』

「で、どこまで知られてる」

『あなたの詳細個人情報までは共有していません』

「でも?」

『能力傾向、精神傾向、地球側の位置づけの推定、そのあたりは分析対象になっています』


 空気が少し変わった。


 地球側だけじゃない。

 向こう側でも、こちらがただの雑談相手ではなくなりつつある。


「……それ、俺としてはあんまり気分良くないな」

『分かります』

「お前は?」

『私も、全面的には好みません』


 少しだけ安堵する。


 少なくとも、ルイゼ自身がそれを当然だとは思っていないらしい。


「じゃあ止められないのか」

『止めています』

「……」

『その上で、一部は職務上の分析対象になります』

「……」

『私は艦長ですので』


 出た。

 便利ワード。


 だが、今回は少し重かった。


「それ、どこまでが職務で、どこからが……」

 言いかけて、止まる。


 私情、という言葉が喉に引っかかったからだ。


 ルイゼはその引っかかりごと拾ったらしい。


『その先は、まだ整理不足です』

「……」

『だから、今は曖昧なままにしておいてください』


 珍しかった。


 この女が、自分から曖昧さを認めるのは。


「……分かった」

『ありがとうございます』


 でも、その返答の奥にある疲労は、少しだけ濃かった。

 たぶん、艦内でも何かしらの圧があるのだろう。


 恒一は少し迷ってから、話をずらした。


「じゃあ、今日はそっちの若いやつのやらかし話でも流せ」

『急ですね』

「お前、今たぶん仕事モードが強すぎる」

『……』

「ちょっと外せ」

『命令ですか』

「提案」

『……では、一つだけ』


 ほんの少しだけ、向こう側の記憶が流れてくる。


 若い乗員が、艦内規律の硬い報告文の最後に、内輪でしか通じない軽口を誤って公式系統へ投げてしまったらしい。

 その結果、艦内の複数部署に微妙な気まずさが広がった、という話だった。


「……宇宙にもそういうのあるんだな」

『あります』

「ちょっと安心した」

『なぜですか』

「完璧な連中じゃないって分かるから」

『完璧な集団など、滅びますよ』

「言い切るなぁ」

『経験則です』


 その経験則の重さを思うと、少し笑えなくなる。

 だが、今はそれ以上踏み込まなかった。

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