224、夜ご飯は腸詰肉
「腹ペコっす〜」
宿を出たところでサシャが腹に手を当てた。その顔には悲壮感が漂っており、マルティナはさっそく美味しそうなお店を見つけるために辺りを見回す。
欲しいものをお預けにされる辛さは良く分かるのだ。
「あ、あそこは食堂みたいですよ」
マルティナの目に入ったのは、薄暗くなり始めた街中でオイルランプに照らされた看板が目立つ食堂だ。おしゃれな雰囲気ではないが、先ほど開いた扉から見えた店内には客が割と入っており、繁盛している様子だった。
外にはメニューが書かれた黒板も置かれていて、名物料理が自家製の腸詰肉らしい。
皆で近づいてみると、いい匂いが漂ってくる。鼻をクンクンと動かしたサシャが、ぱぁぁっと分かりやすいほどに顔を輝かせた。
「美味い匂いがするっす!」
「よし、ここにしよう」
ディアスが即決して扉に手をかけた。ディアスの中で、食事関係に関するサシャへの信頼度はかなり高い。
「いらっしゃい!」
中に入ると笑顔の眩しいふくよかな女性が声をかけてくれた。手には二つのトレーを持っている。
「五、六、七人でいいね?」
「ああ」
「じゃあ奥の大テーブルを使いな。メニューはそこの壁に書いてあるやつだよ」
「分かった」
ちょうど八人がけの大きなテーブルが空いていたようで案内された。マルティナの左右にサシャとロラン、そしてサシャの向かいにディアス、マルティナの向かいにハルカ、ソフィアン、フローランという順で座る。
メニューは腸詰肉を使った様々な料理と、お酒がメインの飲み物みたいだ。
「私は腸詰パンにします」
マルティナが選んだのは細長く焼いたパンに切れ目を入れて、腸詰肉を挟んでソースをかけたものだ。他の皆もマルティナと同じものを選び、さらにサシャとディアスはボイルしたもの、焼いたもの、野菜と共に煮込んだスープも頼んでいた。
少し待っていると、すぐに料理が運ばれてくる。
「おお、美味しそうですね」
他の席を見て料理が大きめだと思って腸詰パンのみの注文にしたのだが、両手で持つほどの大きさだった。しかしこの大きさでも食べ切れる心配はいらないほどに美味しそうだ。
スパイスが練り込まれているらしい太めの腸詰肉はパリッと焼かれており、その上にパンから溢れそうなほどのソースがかけられている。
ソースはいくつもの野菜を細かく刻んで煮込んだ、トマトベースのものみたいだ。
「これは美味そうだな」
「さっそく食べましょう!」
サシャの言葉を合図に皆で腸詰パンを手に持ち、端からガブリとかぶりついた。ソフィアンは手で持って食べるのは問題ないのかと視線を向けると、抵抗ない様子で食べている。
その様子を少し不思議に思っていると、ハルカが横のソフィアンを見て言った。
「ソフィアンさんもこういうものを食べるのが上手になりましたよね」
「ハルカに鍛えられたからね」
「なんだかそれ、わたしのせいみたいじゃないですか」
「ふふ、そうじゃなくて感謝してるんだよ」
二人の笑顔の会話で、ソフィアンはハルカといるうちに庶民的な食事にも慣れ親しんだのだと分かる。ソフィアンの隣のフローランも問題なく食べているようで、こちらも同じだろう。
小柄なマルティナは口も小さく、必死に大きな腸詰パンを食べ進めていると、まだ三分の一も食べ終わらぬうちに、ディアスとサシャは一つ目を食べ終えていた。
とはいえ二人は三つ頼んでいたので、すぐに次だ。
「これは美味いな」
「美味いっすね!」
二人の前にあるスープなどもどんどん消えていき、見ているだけでなんだか気持ちがいい。
「俺ももう一つぐらいいけるかもしれないな」
隣のロランもかなり気に入ったようだ。
「腸詰肉って最初に作ったやつは天才だな」
ロランの呟きに、マルティナはグルッと横を向いた。
「ロランさん! 腸詰肉の歴史についてまとめられた本がラクサリア王国の王宮図書館にありますよ。あと私の部屋にある昔の旅人の旅行記だろう本に、腸詰肉発祥の地じゃないかと言われている場所を巡った記録があって、凄く興味深い食文化を知ることができます!」
最近少し本に興味を持ち始めているロランを、本の沼に引き摺り込みたいマルティナである。やりすぎると引かれて逆に本への興味を失ってしまうかもしれないと、マルティナとしてはかなり控えめに我慢しているのだが、どうしても我慢できない時があった。
キラキラした眼差しでロランを見つめていると、優しいような気の抜けたような笑みを浮かべたロランがマルティナを向く。
「じゃあ、王宮に戻ったら読んでみるかな。どの本か教えてくれるか?」
「もちろんです!!」
グイッと顔を近づけたマルティナに、ロランが笑みを困ったようなものに変えた。
(王宮に戻ったらすぐに本を渡さないと。読んでもらって他の本にも興味を持ってもらえたら、腸詰肉の歴史繋がりでまた別の本をお勧めしようかな。次は料理の歴史に関する本にする? それともお肉の歴史とか? また別の旅行記とかもありかな!?)
内心で大歓喜しているマルティナだ。マルティナとしてはロランの負担にならないようにと、この嬉しさは全て自分の中で留めているつもりであるが、おそらく瞳のキラキラした輝きで、その嬉しさは全てロランにバレているだろう。
「ほら、今は食べるぞ」
ロランに促されて食事を再開させたマルティナに、今度はハルカが言った。




