223、歩きながらの研究と街へ
明らかにマルティナが歩いていた時よりも全体の進む速度が上がり、それでも皆は普通に会話をしながら歩いていた。
(本当に皆さんの体力が凄すぎる……私ももうちょっと頑張りたいけど、どんなに頑張っても絶対に追いつけない気がするのは気のせいかな……)
おそらく気のせいではないだろうと思いつつ、マルティナは遠くを見つめる。
「帰還の魔法陣、本当に実現するかもしれませんよね」
現実逃避をしたくなっていたマルティナの耳にハルカの言葉が入り、続けてディアスも言った。
「少しずつ実現可能性が見えてきてるからな。感知魔法をどうにか組み込むことができれば、まずは我が本当に帰れるかもしれない」
その会話に、マルティナも帰還の魔法陣研究の進捗について脳内に思い描く。
「あとの問題は転移先指定の感知魔法の組み込み方ですよね。一度適当なところに転移先座標を決めて、そこから感知魔法でディアス様の故郷を示すという二段階にする方向性はいいと思いますが、問題はその適当な最初の座標の指定方法と場所と、あとは安全性などですね」
マルティナはディアスの肩の上で右手を自身の顎に当て、真剣な表情で言った。
「そうだな。それから感知魔法がしっかりと魔法陣の中で発動しなければいけないのだが、我らの力はこの世界の魔法とかなり近いものだが感知魔法は固有魔法のようなもので、魔法陣に落とし込むのがやはり難しいな」
「そこは問題ですよね……」
街に着くまでは時間もある上に、マルティナは座っているだけなので、時間の有効活用とばかりに脳内で研究を進め始める。
いくつもの参考になりそうな魔法陣に関する書物を思い描いていると、ディアスが質問した。
「そういえば、この世界の中での転移魔法陣で、人物指定のものはあったか?」
「座標指定のものよりは主流ではなく、かつ難しいようでしたが、一応それに関する記述はいくつかの書物にありました。迷いの古代遺跡の研究室にあった書物の、通し番号二十一番とかはかなり参考になります。ただ成功している研究成果はなかったのですが……」
「そうか。まだ読んでいないから、王宮に帰ったら読んでみよう」
「ぜひ。特に六十七ページ以降のところですね」
すらすらと欲しい情報が書かれた書物のそのページまで出てくるマルティナを、ディアスは関心の表情で見上げる。いつもは見上げているディアスに逆に見上げられているという状況は、マルティナにとってかなり新鮮だった。
「やはりマルティナのその力は凄いな」
嬉しげな笑顔のディアスに、マルティナも嬉しくなる。
「ありがとうございます。皆さんのお役に立てるのなら嬉しいです」
それからもハルカ、そしてソフィアンなども加わりながら、マルティナの脳内で帰還の魔法陣研究を進めていると、すぐに街が見えてきた。
「そろそろ着くっすね」
サシャの声に皆の視線が前を向く。
「結構大きな街ですね」
ハルカが呟いた。上空から見た時よりも、下から見た方が大きく感じられるのだ。
旅人ということで問題なく街に入ることができて、マルティナはディアスの肩から降りて、まずは宿探しである。
今回は気軽な浄化の旅にしたいということもあり、基本的には聖女一行であることをわざわざ喧伝するつもりはないため、普通に旅人としての宿探しだ。
一応各国の代表者によって発行された、これを見せればどこでも高待遇が受けられる、というような証書はあるのだが、出したらすぐにその街の代表者が来て騒ぎになり歓待を受けること間違いなしなので、それは宿などがどうしてもない場合の最終手段と決めていた。
「部屋の空きを考えて大きめの宿を見つけようか」
「そうですね」
ソフィアンを先頭に皆で街中を歩く。この街は焼き物で有名であり、そこかしこに皿などがたくさん置かれた店があった。
「おしゃれなお皿がたくさんありますね」
この街の焼き物の特徴である模様が描かれながらも、それぞれに特徴があって見ているだけで楽しい。事前にこの街に寄るかもしれないと聞いて、マルティナは簡単な情報だけは事前に本で得ていたが、やはり現地に来なければ分からないこともたくさんあった。
「作り手や絵付けをする人の個性が出ますね」
「これはじっくり選んで買いたくなるな」
マルティナとロランがある店の店先で足を止めていると、ハルカもその隣の店を楽しそうに眺めている。
「こっちはカラフルだよ」
「あ、本当だ」
フローランも気に入った様子で、いつも通り無口ながらも、視線が頻繁に店先に向いていた。ディアスはマルティナが両手を広げてやっと持てるぐらいの大皿を見ている。
繊細な模様がとても美しい皿で、おそらく食べ物を載せて使うというよりも、飾る用の、美術品としての価値がある皿だろう。
「そのお皿が気になりますか?」
ディアスも美術品に興味があるのかとマルティナが問いかけると、予想外の答えが返ってきた。
「いや、竜の時の装飾品に良いと思ってな。首下あたりにペンダントトップのような形で付けたら洒落ているとは思わんか?」
一瞬何を言われたのか分からず固まってしまった。しかしすぐに、竜の姿の時のお洒落の話だと思い至る。
「人型でない時にも、アクセサリーなどをつけるのですか?」
「あまりないが、祝い事や何かの式典などの時には付けることもある」
「そうなのですね……」
驚いたが、想像してみると巨大な竜の姿にこの繊細な模様の皿は割と合うのかもしれないと思った。とはいえ、それにしては陶器の皿は脆すぎるだろう。
「もう少し頑丈な素材の方が良いと思うのですが」
控えめにロランが伝えると、ディアスは眉間に皺を寄せる。
「む……確かにそうか。この世界のものは色々と脆いからな」
「ディアス様が身につけるなら、金属で円を作ってもらって、そこに絵をつけてもらった方が良さそうですよね」
ハルカの提案にディアスが頷く。
「確かにその方が良いな」
そうして話はまとまったが、マルティナたちの会話を聞いていた店の店主は困惑を露わにしていた。かなりの値段がする皿に興味を示した客ということでこちらへやってきていたのだが、結局声をかけられることはなかった。
それからも楽しく商品を見て回りながら歩いていると、ソフィアンが一つの宿を見つけた。
「この宿はどうだろう。聞いてくるよ」
「あ、それなら俺が」
ロランが申し出たが、ソフィアンは首を横に振った。
「こういうことは任せてくれて構わないよ。私はハルカの側近のような立場だからね」
ゆるりと微笑みながらそう言われてしまえば食い下がるわけにもいかず、マルティナたちはソフィアンに任せることになった。
宿の空室確認のような雑用を王子殿下にさせているのはどうなのだろうと思いつつ、深く考えないことにする。考え始めたらキリがないのだ。
「皆、空いていたよ。ディアス様、こちらでよろしいでしょうか」
宿の外で待っていたマルティナたちの下に、ソフィアンが半開きの扉から顔を出すような形で告げた。
「我はどこでも構わんぞ。美味い飯が食べられればいい」
「ご飯は急な準備が難しいようなので、外に食べにいく形になります」
「それならば宿はどこでもいい」
ディアスが了承したことで、宿はここで決定だ。皆で中に入って手続きをして、部屋を軽く確認したらさっそく夜ご飯を食べに行くことになった。




