4.誰もが意見を言える学園に。
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「生徒会長……貴音が?」
「ふふふ。驚いて声も出ないようですわね、悠」
「あー、いや。驚いたというか――」
――この人で、本当に大丈夫なの?
そう思ったのだが、言葉に出すのはグッと堪えた。
だって、独断で食堂をなくそうとか、そんな発言をする人物だ。転校初日以来、彼女がそのような強権を振るう場面には遭遇していないけど、いつまた癇癪を起すか分からない。そもそも、理事長の孫という時点で権力の塊のような存在なのに……。
「まぁ、些事は置いておきましょう。今日は悠――貴方にお願いしたいことがあって、お呼びしたのです」
「お願いしたいこと?」
「えぇ、そうです。単刀直入に言いますわ。貴方――」
貴音は、立ち上がってポーズを決めながら言った。
「わたくしの下僕に――」
「お断りします」
「まだ最後まで言ってませんことよ!?」
ボクは、それを最後まで聞かずに拒否。
するとさすがの貴音も、驚いて涙目になっていた。
というか今、この人なんて言った。下僕とか聞こえたよ。
「いや、どうせろくなものではないですし」
「それにしても、最後まで聞きなさい!」
「えー……?」
貴音はそう続けて、一つ咳払い。
そして、仕切り直すように言葉を選んでこう口にした。
「篠宮悠、副会長になりなさい」――と。
ピッと、こちらの顔を指さして。
ボクはそこに至って、改めて眉をひそめた。そして訊ねる。
「副会長、って。――生徒会の?」
「えぇ、その通りです。それ以外にあり得ませんわ」
すると彼女は座り直し、いつの間にあったか分からない紅茶を啜った。
いきなり転校生を呼びつけて、副会長になれ、とはどういうことか。貴音の考えていることは、さっぱり分からない。
というか、どうして――。
「なんで、ボクなの?」
そう。そこが問題だった。
当然のことながら、転校間もないボクは立花学園のことを詳しく知らない。そんなボクに対して、貴音はなぜこのような発言をしたのか。
その真意を聞きたかった。
「そうですわね。まず編入試験の点数がずば抜けていたことが、一つ」
「えぇ……。そういうのって、機密事項じゃないの?」
「わたくしの前に、機密などありませんわ」
「………………」
苦笑いしかできない。
このお嬢様、どうにかしないと駄目だろ。
ボクは頬を伝う汗を拭うこともできなかった。そうしていると、
「でも、次が本当の理由ですわ」
貴音はゆっくりと立ち上がり、ボクのもとへと。
そして、その整った顔でこちらの顔を覗き込んで言った。
「この学園のことを知らず、わたくしに対して意見を述べたこと」
「意見……?」
それを聞いて、首を傾げる。
それというのは、もしかして初日にあった食堂の件だろうか。でも、あの程度の意見を述べることくらい、他の学生でもしそうなものだった。
そう考えていると、貴音はふっと笑んで続ける。
「この学園にいる学生はみな、わたくしの権力に屈服しています。――いえ、正確に言えば。タチバナグループという大きな力に逆らってはならない、そんな考えが根付いているのです」
――すなわち、自身を咎める者が誰もいない。
貴音はそう言って、詰まらなさそうにため息をついた。
そして、窓の外を見てこう漏らす。
「わたくしは、独裁がしたいのではありません。あくまで平等に、誰もが自由な意見を述べ合える学園なのです」
「貴音……」
「ですから、先日の一件は賭けでした」
つまり、誰も文句を言わなければ諦めようとしていた――か。
その意味を汲んで、ボクは少し考えた。
誰もが自由に意見を言える学校。それは、以前いた学校とは真逆。
もしかしたら、ボクの理想とも呼べる環境かもしれなかった。だから、
「…………うん」
この時、ボクは腹を括ったのだ。
「分かった。ボク、副会長になるよ」――と。
以前のボクのような人を増やしたくはない。
そのために、できることがあるのなら協力したかった。
「……ありがとう、悠」
ボクの答えを聞いて、貴音は笑った。
その笑みは、今までのような高圧的なものでなく――。
「なんだ。そんな笑い方もできるんじゃないか」
とても、少女らしい微笑みだった。




