2.お隣さんはお隣さんだった。
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「まさか、引っ越してきた部屋が安藤さんの隣だったなんて」
「あはは! わたしもこの間、偶然に気付いたんだっ!」
「で、今日は勇気を出して声をかけた、と?」
「……うん!」
ボクの質問に、安藤さんは少し恥ずかしそうに頷いた。
なんということか。隣の席のクラスメイトである彼女は、住んでいる家もまたお隣さんだったらしい。彼女の口振りからして、本当に偶然のようだった。
安藤さんは嬉しそうに鼻歌を口遊んでいる。
だが、ボクからしたら苦笑いだ。
「いや、まぁ……いいけどさ」
ボクは一つ息をついて、そう納得する。
以前の学校でイジメてきたあの子とは違って、安藤さんからはボクに危害を加えようという雰囲気は、微塵も感じ取れない。
だったら、そこまで警戒する必要もないだろう。
「えへへ! やっぱり、運命なんだよ!」
「…………運命、ねぇ」
とはいうが、しかし昨日の一件もあった。
安藤さんは運命といって喜んでいるが、ボクにはその気がない。なにやら他の二人と同様に、ボクのことを彼氏だと思い込んでいる。
これについては、どうしてそうなったのかハッキリしておかなくては。
「ねぇ、安藤さん。昨日のって、どういう意味なの?」
だからボクは、ほんの少しだけ緊張しながらそう訊ねた。
すると彼女は小首を傾げて、考え込む。そして、
「うーん、簡単に言うと……」
「簡単に言うと?」
「うん! わたしの、一目惚れなのです!」
数歩先を行って振り返り、明るい笑顔でそう言うのだった。
なんとも清々しい。あまりにも堂々とした告白に、ボクは呆けてしまった。
「……一目惚れ、って」
「悠くんの笑顔を最初に見た時、こう――ビビビッ! って、きたの!」
「ビビビ、っと……?」
「うん!」
なんだろう。
安藤さんの笑みには、不思議な魅力があった。
とても感覚的で、理屈が通用しない。――いいや、だからだろうか。感覚的だからこそ、ボクは彼女の告白を否定することはできなかった。
むしろその気持ちを否定するのは駄目だと、そう思わされる。
「悠くんは、まだそんな気持ちじゃないよね。分かってるよ」
すると、そんなボクの考えを読んだかのように。
安藤さんは、静かな口調で言うのだった。
「だから、今はまだ返事しなくてもいいの。ただ――」
そこで、すっと隣にやってきて。
彼女は優しく腕を絡ませた。そして、こう言うのだ。
「いつか、振り向かせてみせるから。それまでは『自称彼女』を続けるのを、許してほしいかな……」――と。
潤んだ瞳をこちらに向けながら。
まるで、懇願するように。
ボクはその真っすぐな態度に対して、沈黙を貫くしかできなかった。
でも、いつまでも黙っていては男らしくない。
だから、一つ息をついてから答えた。
「……分かった。でも、他の人に迷惑をかけたら駄目だよ?」
自分にしか影響が出ないなら、それでもいい。
ボクはそう考えて、安藤さんの申し出を受け入れた。
「悠くん……! ありがとう!」
すると、そんなに嬉しかったのか。
彼女はまた駆け出して、喜びを身体で表現した。そして、こう言う。
「これで、わたしは『公認』の自称彼女だね!」――と。
……うん、なんだろう。
間違ってはいない。
だけど、どうしてだろうか。
ボクはこの判断が、また一波乱起こしそうな気がしてならなかった。




