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土色の青春  作者: あん
13/25

13 条件その2

 弓弦は明美が何を発言しても対応出来るつもりでいた。


 重要なのは売上であり、その他は二の次。出される条件が無理難題であっても肯定だけしておいて、先に商品を購入させれば、こっちのもの。


 実現不可能な条件であったとしても、弓弦が明美に対して、ある程度の納得出来る理由を話して引き下がらせる。


 そういった考えの上で弓弦の発言は、「判った。この士道、に対して何でも言ってみるといい」と明美に発言の先を促した。


「遥ちゃんにスポーツウェアを着て欲しいって思ってるの」

「よしっ、判った。その条件、この士道、飲んでやろう……えっ?」


 基本的に肯定するのが前提として置かれたのが今の会話である。


 しかし、それであっても弓弦の発言の最後には疑問符が浮かび上がった。


 理由を確認する為に、口を開く。しかし、それよりも明美の発言が早かった。


「遥ちゃん、いっつも裸にマワシで寒そうだから。私、遥ちゃんの為にスポーツウェアを購入してあげたいの」

「いやっ、明美キミ。あれは相撲をする時の正装なのだよ。それを変更する事は出来ないと言っても過言ではない。この士道、そこに対しては疑問を呈する」


「そうなの? う~んっ。遥ちゃんもスポーツウェアでおしゃれしたいって思っているはずだよ」

「いやっ、アレと言う男は相撲をする事以外何も考えていないと思うぞ。長い付き合いのボクが言うのだから間違いは無い。この士道、それ以外の条件なら受け付けよう」


「それ以外か~。う~んっ、どうしようかな~……」


 考え込む明美。その明美を見て士道も考える。


 勘違いはともかくとして、新道明美、彼女は紛れもなく、『他者の事を第一に考える』人間のようだ。


 通常であれば自分の利益になる条件を出せる状況であるにも関わらず、遥にスポーツウェアを購入したいと思っているのがその証拠である。


『いやっ、待て。スポーツウェアを遥が着用する。その事を考えれば少しおかしい話ではある。しかし、この一点こそボクが肯定する場所ではないのか? 遥と明美のスポーツェア、明美のマワシを購入させる事によって店の売り上げが増える事になるだろう。とすれば、ボクのノルマを大幅に達成する助けになるんじゃないのか?』


「いやっ、よく考えれば、前例が無いのであればボク達で作ればいいんじゃないのか? この士道、明美キミの為に一芝居売ってやらん事も無い」

「弓弦ちゃん、どうしたの?」


「遥がスポーツウェアを着用するのもありかな? そう思っただけだ。確かに相撲と言う競技は男に限って言えば、裸にマワシ。これが正装だ。だが、必ずしもそれが正しい訳ではない、と言っているのだよ。この士道、間違った事は言っていない」

「そうなの? じゃあ、遥ちゃんがスポーツウェアを着用しても問題ないよね」


「男子は裸にマワシ、そう明文化されている大会もあるのだけれども」


 弓弦と明美の会話に口を挟んだ吹雪だったが、二人はまったく聞いてないようで更に会話は進んでいく。


吹雪キミの意見も最もだが正式な大会と練習の時は違う。学生力士によっては練習用、大会用と二つのマワシを持っている。この士道、売上ノルマ達成の為なら手段を選ばない」

「つまり、何が言いたいわけ?」


 吹雪の訝しげな視線を受けても物怖じしない弓弦。

アレには大会時は裸にマワシ。練習時にはスポーツウェアにマワシとなって貰う。この士道、名案だと考える」


「高見君がその言い分を飲むと思うかしら?」


 首を傾げる吹雪。その意見も最もだが、「飲ませるのさ。この士道、その程度できないわけはない」


「その手段を聞かせて貰えるかしら?」


 詰め寄る吹雪に視線を向ける弓弦。ここで視線が合う事は無い。弓弦の視線から逃げるように顔を背けたのは吹雪だ。その所作を追求はせず、弓弦は大きく背を反らして伸びながら立ち上がる。


「こういった事は、その瞬間まで内緒にしているから楽しいんじゃないか? この士道、サプライズは当日のお楽しみに取っておく。と、言うよりかもっと名案が思い浮かぶかもしれないからな」


 ニチャア、と唇を開くと不気味とも言える微笑みで吹雪を見つめる。


「んっ、もう話終わった?」


 二人の会話をまるで聞いていなかった明美の発言に吹雪も、さしもの弓弦も驚いた。


「今、明美キミの為に話をしていたのだが? この士道、驚きを隠せない」

「聞いてたよぉー、やだなぁー」

 唇の端からてろ~んっ、と涎が垂れてきており、「んぅ、いけない、いけない」制服の袖を近づけていく。


「折角の制服が汚れてしまうぞ。この士道、ハンカチぐらいもっておる」


 純白で、一輪の花が刺繍されているハンカチで明美の涎を拭う。


「弓弦ちゃん、ありがとぉ」


 明美は弓弦の頭を撫でる。透き通った頭髪に差し込まれた白く長い指。髪の毛の上から下までを掻き分けていく。弓弦はあまりの心地よさに表情がろと~んっ、としてくる。


「じゃ、じゃあ、今からボクの店に商品を見に来るかい? この士道、いつでも大歓迎だ」

「いこういこうっ~」


 ……と、言うわけで明美は弓弦の店に行く事となった。

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