12 条件その1
「私に素質?」
明美は考えてみる。弓弦の言う明美の素質とは何だろうか? と。その間に弓弦はサガリを掻き分けつつも何事もなかったかのように着席する。
「ねぇっ、吹雪ちゃん、私の素質って何かな?」
「さっ、さぁっ、何か判らないわね」
急に話を振られて驚いた様子の吹雪だが、明美の素質に関しては判らないのが事実である。
「ふっふ~んっ。こればっかりは流石に波防人たるこの士道にしか判らないんだぜ」
鼻を高くして胸を反る弓弦。それに続く言葉はこれである。
「新道明美、キミは相撲をする素質があるんだよ」
一層大きな声量を出して大宣言したったとばかりに勢いよく鼻から息を吐く弓弦を目の前に、珍しく冷静なのは明美である。
「ない、よね?」
「ふっ、ふぇっ?」
予想外の反応に判別出来ない類の声を上げてしまった弓弦。
「仮に私が相撲をする素質があったとして、今日会ったばかりの弓弦ちゃんに何か判るのかな?」
「わっ、判るともっ。この士道弓弦波防人の言う事に二言はない」
「ううんっ。多分、その二言ってやつはあると思う。だって、弓弦ちゃんは私の運動している所を見ていない。ここでお喋りしているだけで才能が判るなら、本当の波防人だよ」
「ぐっ、ぐぐぬ。痛い所をついてきたな。バレてしまってはしょうがない。この士道、逸りすぎたというのを白状しよう」
「ねっ。やっぱり二言はあったんだよ。それはそうと、私に相撲をする素質があるって言う嘘ってやっぱり駄目だよね?」
「それに関しては正直に大変申し訳ございませんでした。この士道、謝罪しよう」
「謝罪を受け入れます。この先、嘘は無しだよ。弓弦ちゃん」
「判った。この士道、この士道、明美に対して嘘をつかない様にするよ」
弓弦はご丁寧に頭を下げた。明美はその指通りのよさそうな髪の毛をなんとなく撫でて、「よしよし、いい子いい子」と褒めてみた。
「明美は聖母のような優しさであるな。この士道、気持ちには正直に生きてみようと思う」
「じゃあ、その正直さに免じて、本当の目的を聞いてみようかな? 教えてくれる?」
明美、弓弦はちゃぶ台を挟んで向かい合って、視線を合わせた。
「まずはこれを見て欲しい。この士道、少し待って頂きたい」
そう言うと弓弦は鞄からパンフレットを取り出して見せる。
昨日出た最新号のパンフレットである。表紙には美少年がマワシを締めて立っていた。
「ボクは士道武具店と言う相撲用品を販売している店長である。それでこれが相撲をしている人に向けて発光している無料のパンフレット。つまりは販売促進を促す無料広告である。これで一番売り上げの出るのがマワシ。これを購入して欲しい。この士道、店の売り上げを上げない事には毎月の昼ごはんのランクを下げられると脅しをかけられている」
正直過ぎる程に全部の情報を開示した弓弦に対して、「嘘をつかないでっ、ってそういう事じゃないんだよ。弓弦ちゃんは可愛いね」と再び頭を撫でる明美。
「あー、うー」
どうしたものか困った様子の弓弦だが、取り敢えず頭を撫でてくれる明美の指の気持ちよ先に抗う事を止めて、考える事をやめたようだ。
凄く不憫な理由ではあるが、学生にとってお弁当の内容は重要であった。その理由に関わらずパンフレットを取ってページを捲る明美。
「なんだ。私達、と言うかこの場では私かな? 私なら相撲はしてみたいって思ってたからいいよっ」
明美、相撲をする事を快諾。あまりにもあっさり過ぎる結末に驚いたのは弓弦であった。
「なっ、いいのかっ! 相撲と言えば身体にピッチリとしたスポーツウェアを着て、肉体のラインは丸わかりだし、お尻を強調する様なマワシを締めるし、四股で股をガバーッと開くし、土俵でこけたら怪我するし、負けたら悔しいし、なによりこの士道、相撲をするのに軽い決心でされても困るっ!」
意外と我儘な弓弦の言い分だが、吹雪は共感出来る場所では深く頷いた。特に怪我は女の子にとっては死活問題である。
「弓弦ちゃんは私に相撲をさせたいのか? 相撲をして欲しくないのか? どっちなのかな? でも、どっちでも無いみたいだね」
明美は顔を上げて弓弦と視線を合わせた。
「弓弦ちゃんは責任を取りたくないんだ」
それは暖かくも冷たい言葉だった。弓弦がその言葉に何かを思う前に話題は変わる。
「でもねっ、一つだけ条件があるの」
明美が弓弦に課した条件、それは……




