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千年のSS級は愛されすぎている  作者: 伊乃ノイ
第一章 開幕編
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第七話 建物が吹き飛ぶくらいの威力なら、人も吹き飛ばない?

 結局、商団の陰謀だの、千年を越えた謎だのという話は、熱を帯びる前にどこかへ吹き飛び、私たちは結局、学園長室で優雅にお茶を(たしな)んでいた。


 ここだけの話。このフロートゥーラ学園の中で最も暇なのは、「三美人」と勝手に名付けられた私たちだった。

 それを名付けたのがリュカだった。さすが記録係と言った感じだ。本人はいたって真面目な顔でこう言っていた。


『美人は三人いれば最強の布陣(ふじん)だろ? 動かなくても、いるだけで影響力があるんだから』


 さすが、私たちのことが大好きなリュカだ。噂によると、リュカの部屋は私たちの絵で埋まっているらしい。そんな中、私たちは暇すぎるあまり、こんな会話をしていた。


「でも実際、私たちってあまり動いてないのよね」

「リィルティさんはともかく、兄上は仕事すらしてませんよね?」

「うん、してないよ?」


 自信満々に言うことではない。

 それに続けて、ウェトゥンは微笑みながら言い放った。


「だって、僕の仕事は存在感だもの。美しき学園長の威厳、それが仕事だよ」

「あなたのお兄さんって、何をしたら学園長になれたの?」


 私はルークに問いかけた。この男が学園長ならば、あのリュカもキーランもなれそうだ。


「ルフェイ家は、古くからこの学園の理事を代々務めている名門ですから……ある意味、世襲制みたいなものなんです」


 ルークが少し眉をひそめながら、申し訳なさそうに答えた。


「名門ねえ……でも世襲って、普通は『有能な跡継ぎ』を選ぶものじゃないの?」

「実際のところ、兄上は『ルフェイ家随一の天才』と呼ばれたエルフですから」


 ルークがそう真面目に言い切った瞬間、ウェトゥンは自慢げに髪をかき上げた。窓から差し込む光が、その銀髪に反射してきらりと輝く。


「そう、僕は天才。だから努力しなくても、許される」

「努力しなくても?」

「うん。僕、努力アレルギーなんだ」


 そんな病名、聞いたことがない。千年前でも聞いたことがないぞ。

 ルークはというと、兄の発言に対してもはや何も言うまいといった様子で額を押さえた。


「天才という評価は、幼少の頃に一日で古代魔術の魔術式を解いたことから来ているんですけど……その後は全力でサボり始めたんです」

「それが許される天才ってことか……」


 私は半ば呆れながらも納得した。というか、天才でなかったらとっくに追放されていたレベルのサボり具合だ。まあ、私も人のことを言えないのだが。


「でも、必要なときにはちゃんと働くよ? この前も、温室で咲かなくなった花に語りかけて復活させたし、トラップも増やしておいた」


 そんな会話を交わしていた、まさにその瞬間だった。学園長室の扉が、勢いよく開かれた。


「大変です、学園長! 学園の庭に、巨大な竜巻が発生しています!」


 さっきまで「努力アレルギー」とか言ってた学園長が、ちゃっかりケーキを口に入れながら、のんびりと口を開いた。


「主犯は~?」


 ウェトゥンはフォークを咥えたまま、呑気に首を傾げる。まるで今の話題が、天気のことくらいの重みしかないかのように。

 駆け込んできた橙色(だいだいいろ)の髪をした教師の男は、一瞬言葉を失ったが、すぐに使命を思い出して大声で続けた。


「おそらく、新入生の一人が暴走を……! 風魔法の制御が完全に崩れていてこのままでは樹々どころか、塔が吹き飛びます!」

「今年の新入生は元気だね」

「兄上、感心してる場合じゃありませんよ」


 ルークがピシャリと声を上げるが、ウェトゥンはどこ吹く風といった顔で、ケーキをもう一口つまむ。


「そう言われても、こういうのって日常茶飯事だし」

「学園長! あなたからしたらそうですが、塔も吹き飛ぶんですよ!? あと五分も保たないそうです! 馬小屋も危ない……!」

「なるほど、じゃああと四分五十九秒は猶予があるね。リィルティ、行ってきて」


 絶対そう言うと思った。こういうときに限ってSS級を利用するのだから。


「……私、便利屋じゃないのよ?」


 肩をすくめて言ってみたものの、誰一人としてその訴えに耳を傾ける気配はない。ウェトゥンは悠然と紅茶を(すす)るし、ルークに至っては、もう補助魔法の詠唱を始めている。


「リィルティさん、僕が風圧を少しでも打ち消す防壁を張っておきます。正面突破でお願いします」

「まったく、いくら私が強いからって……」


 だが、もう立ち上がってるあたり、私も甘いのかもしれない。


 風の魔力が渦巻く気配はここまで伝わってくる。塔の方角からは、空気を裂くような音と時折魔法の光が見える。確かにこのままじゃ、冗談抜きで建物ごと消し飛びかねない。


「まあいい。ちょうど暇だし、体も鈍ってきたところだから運動にはいい」

「リィルティ、拳で解決だ」


 ウェトゥンは拳を上げて微笑んだ。絶対に無理だろうけど、要するに魔法は使うなってことか。それなら朝飯前だ。

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