第六話 ルフェイ家って怖い!
しばらくルークと図書塔で話してから、私たちはウェトゥンの所に向かった。
やがて、ウェトゥンがいる部屋にたどり着き、扉を開けた。三人でこうして会って話すのは久しぶりな気がする。
「おや、ルークにリィルティ。二人してお揃いで、何か用?」
椅子に深く背中を預けながら、髪の手入れをしていたウェトゥンは、視線だけこちらに向ける。相変わらず整った顔立ちで、しかも何気なく優雅だ。
やはりこうして見ると似ている。いくらウェトゥンとルークが年の離れた兄弟だからといって、似ない兄弟はいないものなのか。
この二人の違いとすれば、前髪のあるルークと前髪が長く、髪を常に気にするウェトゥンくらいとかだ。他にもいろいろあるが、一番見分けがつくのはそれしかない。
私も髪が長いから、たまに二人の髪をいい感じに結ってあげているのだが、エルフの髪は本当に綺麗なのだ。常に輝いている。本当に羨ましい限り。そう思えば、「あの者」も同じように綺麗だった。
そんなことを思っているとルークが口を開いた。
「兄上、商団のことで少しお話が」
ルークが真っ直ぐに切り出すと、ウェトゥンは手にしていた櫛の動きを止めた。そして、細く整った指で髪を整えつつ、静かに問い返す。
「商団のことならさっきも聞いたはずだよ?」
「いえ、他のことです。リィルティさんに関してで」
「なるほど。リィルティに関して、ね?」
ウェトゥンは整えたばかりの長い銀髪を肩に流しながら、私へと視線を向けてくる。
「また変な輩に目をつけれた? それとも、誰かがリィルティに告白でもしたのかな?」
「ウェトゥン、商団のこととそれとは関係ないわよ。恋愛小説の読みすぎ」
ウェトゥンは肩をすくめながら、くすりと笑った。
「はは、最近の子は冗談が通じないね」
「言っておくけど、時間軸で言うと私の方が年上なんですからね?」
そう言うと、ウェトゥンは口元に手を当てながら楽しげに目を細めた。
「それを言われると返す言葉もないね。君が、僕に対してだけ『ちゃん』付けで呼ばないのは、そこに理由があるのかな?」
そう言って、ウェトゥンは私の目を覗き込むように微笑んだ。
「あなたは学園長なんだし、さすがに『ウェトゥンちゃん』はね~?」
「僕はそんなことは気にしないけどね」
「でもね、ウェトゥン。生徒に『ちゃん』付けを求めるだなんて、気持ち悪いらしいわよ?」
くすくすと笑いながらそう言うと、ウェトゥンはわざとらしく胸に手を当て、ショックを受けたような素振りをしてみせた。
「ひどいなぁ、リィルティ。僕はただ、親しみを持って接してほしいだけなのに」
「はいはい、エルフの長寿ゆえの子ども返りってことで理解しておく」
私が肩をすくめると、ウェトゥンは小さく吹き出しながら手にしていた櫛を机の上に丁寧に置いた。そしてようやく、表情を引き締めルークに向き直る。
「それで……君が話したい『リィルティの件』っていうのは、何かな?」
さっきまでの茶番のような空気が一転して、部屋の温度がほんの少し下がったように感じた。
ルークはほんの一瞬私を見てから、真っ直ぐウェトゥンに向き直り、低い声で答えた。
「リィルティさんの他にも、千年前からやってきた存在がいるかもしれない、ということです」
「うん、それのことなんだけど薄々気付いていたよ」
ウェトゥンのあっさりとした返答に、私は思わず目を見開いた。そしてルークが問い返した。
「……兄上、何か掴んでいるんですね?」
ウェトゥンは頷くことも否定することもなく、静かに立ち上がり、大きな窓の方へと歩いた。長い銀髪が光を受けてゆっくりと揺れる。
まるで時間までが、その仕草に合わせて流れているかのように思えた。
「本来なら、千年の時を越えるなんてありえないことなんだ。それが神であってもね。だから調べてみた」
「調べてみて、何か分かった?」
「いや、それがまったく何も分からなかったんだ」
まさか、ウェトゥンの口からそんな清々しいまでの敗北宣言が飛び出すとは、誰が想像しただろうか。
「さっきの『薄々気付いていた』は、なんだったのかしら」
私はやれやれと首を横に振りながら、溜息をつく。ルークも微妙な顔で問い直す。
「えっと……何もって、具体的にはどのくらいでしょうか……?」
「うん。図書塔で史書を五百冊くらい漁ってみたんだけど、途中で寝てしまって三冊しか読めなかったんだ」
「ウェトゥン、それ漁ったって言わない」
私がそう言うと、ウェトゥンは悪びれもせずに小さく笑った。
「でも三冊はちゃんと読んだよ? 読んだ内容は……ええっと、『千年前の貴族たちの恋愛模様』『古代の魔導具と魔力の関係』『偉大なるルフェイ家の歴史』……だったかな?」
「ちゃっかり、自分の家系を読んでるわね」
「そうですね……」
「いや、ルフェイ家は僕たちの家系だし、歴史を知ることも大切だからね」
ルフェイ家のことなら、私が一番詳しいと思うがこれを言ったら面倒くさいことになりそうだから、黙っておこう。いや、今の言葉は撤回してほしい。私はルフェイ家のことを多分、あまり分かっていない。うん、知ったかぶりはやめておこう。
「……あとね、恋愛模様のやつ。なかなか参考になったよ。リィルティもそのうち恋に落ちるだろうと思ってね」
「私を研究してるの……?」
「ルークの動向を予測するために必要なんだよ」
「犯罪じゃないかしら」
腕を組みながら言う私に、ウェトゥンは悪びれもせず首を傾げた。
「違うよ? 家族思いの兄として、弟の幸せを願っているだけさ」
「兄上、ありがとうございます。ですが僕の気持ちは既に確定済みなので、研究の必要はありません」
「面倒くさい方向で意気投合するんじゃない」
思わず私はこめかみを押さえた。だが、残念なことに私は恋愛なんて興味はない。興味ないどころか、さっぱり分からない。だがやはり、最低な男を潰す方が楽しいに決まっている。恋愛は戦闘だろう?
そんなことを思いながら、私は無意識に薄らと笑みを浮かべており、後になってウェトゥンとルークに怯えられていたことを知るのは、商団のことを完全に忘れた後だった。




