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千年のSS級は愛されすぎている  作者: 伊乃ノイ
第一章 開幕編
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第三話 千年前の遺物

 私がこの学園に来たのは、四年前のこと。


 周りの環境の変化や、発展した技術に戸惑いを隠せなかった。そして何よりも驚いたのは、エルフが人間社会と共存していたこと。

 昔のエルフと人間たちは、争いを繰り返し互いを理解しようとはしなかった。だが今は、こうして一つの学園で学び、協力しあって暮らしている。本当に不思議で、夢でも見ているんじゃないかって何回も疑ったくらいだ。


 私は、そんなエルフの一人であるウェトゥンと出会った。彼は面倒見がよく、私を本当の家族のように接してくれた。もし、ウェトゥンが私を見つけ拾ってくれなかったら、私はきっと変わり果てた世界を歩き続けていたかもしれない。まあ、彼と出会った直後に驚きのあまり斬りかかろうとしたのはまた、内緒の話。


 やがて、彼の弟であるルークとも出会い、一緒に過ごしてきてから四年となった。

 一緒に過ごしてきて分かったことは、相変わらずルフェイ家は他のエルフと違って優しいこと。それはもう、本当に呆れるほどに。


 そんなことを思い出しながら私は、誰もいない図書塔でいつものように本を読む。そこで見つけた「千年前の遺物」という記述のあるページを(めく)りながら、ふと、呟いてしまった。


「千年前の遺物……か」


 その言葉が、まるで私自身を指しているような気がした。いや実際そうなのかもしれない。

 私はこの世界では「遺物」のような存在と分類されてもいいはず。それも、かつて滅びかけた世界から奇跡のように時を越えてやってきた千年前の人間なのだから。


 この事実を知っているのは、学園長であるウェトゥンとその弟であり生徒会長のルークだけ。

 彼ら以外誰にも言わないと決めている。言ったところできっと信じてもらえないだろうし、下手をすれば研究対象にされるかもしれない。いや、研究どころか病院送りにされる可能性だってある。そうなってしまったらあまりにも屈辱的だ。


 それよりも、私からしたら千年後のこの時代の方があまりにもおかしい。

 本のページを捲っていく中で、どれもこれも私にとってはありえない話ばかりが書かれていて、とうとうこの時代の文字が読めなくなったのか、と疑ったくらいなのだから。

 それも私の生きていた千年前では、どこもかしこも戦場だった。だからこそ、今の時代はあまりにも平和すぎて最初こそは、誰が敵で誰が味方なのか区別するのが難しかった。というよりも、時を越える時点でありえないことだから夢でも見ているんじゃないかと思っていた。

 だが、あのエルフの兄弟がしつこく関わるものだから私は現実を受け止めるしかなかった。夢ではなく、現実なのだと。


 リュカが持つ魔導端末というものも、学園という場所も、建物も、食も、文化も夢では処理できないほどに変わりすぎていた。そんなものは、夢で見ることなんてできない。だって、未来のことなんて誰にも想像が付かないのだから。


 私が過ごしたあの戦火の時代は、エルフと人間が互いを憎み、信じ合うことを拒んでいた時代だった。それもエルフだけじゃない。他の種族だってそうだ。

 だからこそ、今の平和な時代がどうやって作られたのかが気になってしまう。


 そう思ったら、千年前の私は何をやっていたのだろう、と自分の今までの行いが馬鹿馬鹿しく思えてきた。

 伝承では「大剣を地面に突き刺し、傷だらけの体で、どの陣営にも属さず、誰も裁かず、誰にも従うこともないまま、ただただ争いが終わるのをひたすらに待ち続けた人間がいた」と記されている。


 もう言わなくても分かるだろう。その伝承の中の人間こそ私だからだ。何故、そう言い切れるのかって? それは簡単なことだ。まさしく私が、千年前の戦場のど真ん中で地面に大剣を突き刺しながらぼーっとしていたからだ。


 過去の私はどうやら「千年前、争いを終わらせた謎の人物」として、伝承の中に埋もれているようだった。だがその伝承が、あまりにも盛られていて少し複雑だ。あのときの私は、争いが終わるのを待ちながら「眺めていた」だけに過ぎない。

 私は、戦うのが好きだが戦場となると、多くの者たちの感情が私に伝わり、見ているだけで頭の中が疑問で埋め尽くされていく。


 敵の(かしら)を討ち取った者は歓喜し、仲間を失った者は泣き叫ぶ。昨日まで肩を並べていた者の死を嘆く者もいれば、その死を利用して士気を高めようとする者もいる。

 それ以外にあるとするのなら、守るために剣を振るう者や、復讐のために剣を振るう者。他にも、誇りのために剣を振るう者や、家族のために剣を振るう者だっている。

 同じ戦場に立っているのに、その理由は驚くほど違っていた。だから私はいつも考えていた。何が正しいのだろう、と。だが考えれば考えるほど分からなくなる。今の自分がしている行動に対しても。


 本の中の物語に私がいても、それは私ではない。

 今の私は「仮面」を被った「リィルティ」でしかなく、本の中の私は仮面を外した「リィルティ」だ。

 そして、私は既に自分がどちらだったのか分からなくなってしまっている。仮面を外しては仮面を被り、外しては、被りの繰り返しをしていたせいなのか分からないが、まるで「一心同体」をしているかのように行動ができるようになった。

 どちらにせよ、そろそろ「終わりにしなければならない」ということだけは言える。もう、四年もこの時代にいるのだ。そろそろ、自分の立場を(わきま)えなければならない。


 ――私が、千年前からやってきた人間の一人なのだと。


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