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托されたもの  作者: Aju


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4 夢見た未来

 戦士グレバ・カルーネンの名は、商路に出没するならず者どもの間に少しずつ知られていった。

 それとともに、カルーニエットの商隊に手を出すものはいなくなっていった。

 カルーニエットは俺の待遇を上げた。


 少しずつ金が貯まっていった。

 俺は他のカルーネンのように無駄遣いはしない。全てを俺の目的のために貯め続けていた。

 少しずつ希望に近づいている。夢はやがて現実になるだろう。



 しかし‥‥。

 その見込みは甘かった。


 カルーニエットは老獪な商人だった。

 役に立つ俺を手放したくなくなったカルーニエットは俺の給金を引き上げ、同時に俺の値段も吊り上げた。

 カルーネンは所詮は奴隷である。

 奴隷の「値段」とは、その奴隷を誰か別の者が買いたいと思ったときに売り手に支払われる金額のことだ。


 俺の価値は上がった。

 それに伴い、カルーニエットの俺に対する態度も変わってきたが、どんなに慇懃に接しられようと所詮俺はヤツの所有物——奴隷に過ぎない。

 俺が手柄を立てるほど俺の給金は上がり、そして俺の値段も上がる。いくら金を貯めても、俺の手が届かなくなるほどに‥‥。

 手柄を立てれば立てるほど、俺は俺の夢から遠ざかる——というジレンマに陥った。


 おそらく、カルーニエットのやつは気がついていたんだろう。

 子供だった俺の「希望の計画」に‥‥。


 そして「使える」と見た時から、それが永遠に手の届かないものになるようにゴールを動かし続けてきたのだ。

 20代になった頃には、それが俺にもわかった。

 ヤツは俺を手放す気はない。


 いっそのこと‥‥カルーニエット(やつ)を殺すか——?


 しかしそれが愚かな選択であることは、バカでなければすぐにわかることだ。

 それをやって自由になったところで、いったい誰が「主殺し」を雇ってくれる?


 それは自由の翼を手に入れることではなく、崖から飛び降りるだけのことでしかない。


 それならば、今こうして主人(あるじ)であるカルーニエットと肩を並べて歩き、それなりの贅沢もできるこの生活で満足すべきではないか? 何の問題がある?


 俺は金を貯めることをやめた。

 そうやって給金をすべて使う生活を始めてみると、手に入るものが格段に増えた。遊びも、女も——。

 市井の庶民とは比べ物にならない。


 俺は「自由」を手に入れて何をするつもりだったんだ?


 ただ、胸の袋の中で、何かが暴れていた。

 俺はその袋の口を縛る紐を、「希望」から別のものに変えた。

 そうして俺は、カルーネンとして仕事に出てゆく。人の喉を切り、ときに事故に見せかけ、ときに華々しく戦士として戦い、殺す。


 何のために——?


 その問いも、俺は袋の中にしまい込んだ。

 手段は、いつからか目的にすり替わった。


 四十路を迎える頃、俺はひどく渇きを覚えていた。

 いくら美味い酒を飲んでも、その渇きは収まらなかった。おおよその原因はわかっている。

 俺は病んでいるのだ。



 そんな頃だった。

 あの陶工に会ったのは。


 派遣されていたアノスタコビッチ家で当主の護衛として街を歩いていた。

 アノスタコビッチ家の当主、ガルディー・アノスタコビッチは権力欲に取り憑かれたような男だった。敵も多かった。

 好きか嫌いかでいうなら、俺は好きではない。


 しかし、護衛として、カルーネンとして雇われた以上、この男に仇なす者は俺の刃の錆にするしかない。

 俺は有能な戦士だったと思う。

 初めの何人かの刺客が俺によって死体にされてから、そのあとアノスタコビッチを襲う者はいなくなった。

 ガルディー・アノスタコビッチの傍には、常に俺がいるからだ。


 その日も俺は護衛としてアノスタコビッチのやや斜め後ろを歩いていた。


「ほう。これはまた美しい‥‥。」

 アノスタコビッチは粗末な小屋の前で足を止めた。

 それがあの陶工、アジーユーの小屋だった。

 たしかに、そこにあった皿は見たこともないような鮮やかな花の絵が描かれた美しい皿だった。


「あ、ありがとうございます旦那様‥‥。」

 陶工は自分の作品が美しいと言われたことに正直に喜びを顔に表した。まるで世の中の穢れを一切知らないような、子供みたいな笑顔だった。



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― 新着の感想 ―
陶工として出演ですか。でも、この人確かこの後……。 そんな作風。大好物です! なんかこう、気の毒な裏の主人公の末路。ちょっと楽しみにしています。
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