3 戦士グレバ
俺は常にカルーニエットを背中側に置いている。
ここに俺がいる以上、襲撃者の刃は決してカルーニエットに届くことはない。
襲ってきた山賊は40人はいるだろう。
それに対して、こちらの護衛はわずか5人。
ご主人様が金を惜しんでいることも災いしている。
「行け。このままでは積荷が全部奪われてしまう。俺も剣くらいは使える。」
カルーニエットはそう言って、俺を残り4人の加勢に行かせようとした。
自分の命より金の方が大事なのか?
残念ながらカルーニエットの剣などはただ振り回すことができるというだけで、子供並みに下手っぴいなのだ。
「あなたを守る者がいなくなります。」
‥‥‥とは俺は言わない。
こいつが死んでくれれば俺は晴れて自由の身だ。行けと命じたのは本人なんだから、誰に遠慮することもない。
俺は命じられたとおり飛び出した。
それでも俺はカルーニエットを背中に置いている。敵とご主人様の間には、常に俺という盾がいるのだ。
人を殺すことに慣れていた山賊どもは、俺を子供と見て侮ったんだろう。
残忍な笑みを浮かべて俺の頭に剣を振り下ろしてきた巨漢は、その剣が俺に届く前に俺の刃で喉をかき切られていた。
返す刀で、隣の髭面の男の胸を突き通す。
2人の山賊は、信じられない、という驚きの表情を見せるまでしかできず、その表情のまま死んだ。
2つの死体が砂地に倒れる前に、俺はさらに前に駆けた。
どう!
と2つの巨体が地面に落ちた頃、俺は3人目の首をかき切っている。
7人目を殺したところで、俺は殺気を全開放してやった。
戦場にいた全員が、一斉に俺の方を恐怖の表情で見る。
残った山賊どもが、俺の駆けゆく先から蜘蛛の子を散らすように逃げ惑い始めた。
俺は容赦はしない。
逃げ惑う背中から襲いかかり、刃を水平にして肋の間から心臓をひと突きにする。
回転しながら2人の首を瞬時に斬る。2人とも声も上げずに、目を見開いたまま砂の上に倒れていった。
「うわあああああああああ!」
「化け物だ! ば‥‥化け物がいるぞぉ!」
もはや恥も外聞もなく一斉に逃げ出した山賊たちの背に、俺は思いっきり殺気をぶつけてやる。
それだけで数人が倒れ——ああいうのを腰が抜けたというのだろう——あわあわと砂の上を這うようにして俺から離れようともがいている。
俺はゆっくり近づいていって、1人の首筋を後ろから突き刺した。
頸椎が断たれる感触があり、そいつはビクンと体を痙攣させると、そのまま砂の上に突っ伏して動かなくなった。
「ひい‥‥! ひい‥‥! ひわぁ‥‥」
もう1人が尻を砂につけて恐怖の表情で俺を見ながら、手だけで砂を掻いて俺から遠ざかろうとする。
涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃだ。
俺は、ふい、と殺気を内に納めた。
蔑むようにニヤリと笑う。こいつは伝道者に使おう。あちこちで「カルーネンは恐ろしい」と言いふらしてもらう。その分だけ我々の商隊は安全になる。
俺はそのまま踵を返した。
逃げていた馬丁や人夫たちが集まってきた。
護衛の1人は死体になっていた。残りの護衛で怪我をしていないのは俺だけだ。
「よくやった。さすがはグレバだ。俺のカルーネンの中でも抜きん出た戦士よ。」
カルーニエットはそう言って俺を褒め、子供の俺の手にはずしりと持ち重りのするほどの銀貨の袋を乗せた。
「お前のおかげで荷が守られた。これは褒美だ。とっておけ。」
俺は思わずご主人様を見上げてしまう。微笑んだその目の奥に、わずかな恐怖が見えた。
俺はそれももっともだろうと思う。
そうだよ。
俺は今だって、あんたを殺すことができる。
でもそれをやらないのは、そんなことをしたら次に俺を雇ってくれる者がいなくなるくらいのことは俺にだってわかっているからだ。
子どもの俺にはまだ力が足りない。
暴力ではない「力」が‥‥。
だから今は、俺はカルーニエットの忠実なカルーネンだ。




