第77話 『あ、PlayStationご存知ないですよね。失敬』
序盤から気にしていた八重のものの言い方に、サチエが自分の中で何か整理がついた。
俗に言う”腑に落ちた”とかいうやつだ。
紅茶を飲んだ後、キャップは閉めなかった。サチエはまだまだ喋る気だ。
「思わない方が良いとか、思っちゃいけない。なんて、そんなの傲慢です。
"言わない方がいい"事は沢山あります。ですが、自分が感じたことを"こう思っちゃいけない"とか"こんな事思うなんて失礼"だなんて自分の思考や性格を責める事なんて一切しない方が良いですよ」
「だって!そんな事思うのは、言うのは失礼だってみんな…!」
「ですから"言わない方が、口に出さない方が良い"事は山ほどあります。むしろ世の中は口に出さない方が良い事ばっかりです・・ですが、"思っちゃいけない事"なんてないんです」
八重はサチエが言いたいことがよくわからない。
「だって!言わなくたって、思った時点で良くないじゃない!!
もちろん本人に向かって”可愛くない”なんて言わないわ?!でも、人様の事、人様の容姿を”可愛くない”なんて思うこと自体、失礼だわ!無粋だわ!私の心が荒んでるのよ!!だから———」
「私を見て大半の方が"デブ"と思います。良いんです。それで。"デブ"を認識出来なければ、"痩せてる"や"普通"がわかりません。
また、デブ=ブスでもないです。デブ=世の中から嫌われる。でもないです。
デブ専という言葉がありますから。
『不細工、醜い』という感覚はとても大事です」
「そんな事ないと思う。人に限るなら、また、女性で絞るなら、女性は等しくみんな美しいわ」
八重は納得がいかない。
サチエに敵意を持つ訳ではない。持ちたくないが、どうして話が通じないのだろうと感じた。
違う思考の持ち主なのだろうか。自分がずっと一緒にいた同じ生まれ、同じ育ちの者がみんなサチエを好いている。自分だってサチエに興味がある。それなのに、サチエの口から出るのは、自分が『良くない』と感じた事に対するもの対して『良い』という反対意見だった。
「100人に聞けば100通りの美しさがあるから、全員美しいに最終的はなります。
ですが、人1人の中で、『美しい』を確立、存在させる為には、『醜い』と言う感覚がないと成り立たないんです。
『醜い』があるから、対照的である『美しい』が存在するんです。概念的な話です。
全部美しいなら、それは美しくないです。
普通、または『何も感じない』訳です」
「でも!人じゃなくても服とかなんでも、意見を求められたから答えるのに"良い"、"悪い"なんて言うなんて!って言われるの!!」
「それは、貴方の事が羨ましくて、妬ましくて、陥れたいだけでしょう。
人に意見を求めておいて否定するなんて失礼極まりない。そして、人間性と言う部分を引っ張り出して貴方の価値を陥れようとする、
本当に心のブスのやり方ですよ」
「わたし・・・騙されてたの?」
「そうです。言葉巧み・・・ 巧みほどじゃないですけど、途中から論点をすり替えられて、感覚や感性を否定して、周囲から疎まれるようにされたんです。
心のブスに」
「貴女とんでもなくハッキリ言うわね」
「だから、言っても良いんです。本人に聞かれたら仕返しされるでしょうけど。
ブスって思っても良いんです。思っちゃいけない事なんてないんです。きっと、貴女が最近調子が悪いと思うのはそうやって『人の意見で生きているからです』」
「大体みんなそうなんじゃないの?」
「それは本当に真面目な人ですよ。なんかちょっと無責任でいてヘマするのになんであいつあんなに元気でいられるの?って奴は、腹の中じゃ反省会なんてしないですよ。
それなのにコチラばかりが人の事を気にするなんてアンフェアじゃないですか? ”何言ってんだこの馬鹿野郎が”くらいに思ってていいんです。
私はこっちが好きなんだよ!!
お菓子たらふく食べたいんだよ!!
甘いもの買いたいんだお前達はそうやって体型気にして食べられないんだろバーカって思ってれば良いんです」
「それでいいの?」
「素敵な言葉を選んで使うのは良いことです。ですが、口に出した言葉が自分の本心だと、自分の心を騙してはいけません。
嘘でも良いんです。嘘も方便って言いますでしょ?嘘ついても良いです。でも、”口に出したから、それを本当にしなければならない”訳じゃないんです。
嘘も突き通せば誠に〜のあの言葉とは、用途が違います。あまり詳しく知りませんけど」
「ぷはっ!」
「その場を丸く収めるために、嘘をついても良いんです。
ですが、その嘘を自分の本心だと思い込んで、本音をすり替えてはいけませんよ。もやはそれは他人の希望が八重さんの心の中を侵食しているのですから」
「侵食・・・あ、さっき言った刷り込みって事?」
「はい。まぁ大体そうです。
八重さん、貴女の体や貴女の世界は、貴女の心の在り方で如何様にも変わるんです。
なんか上手くいかない。なんか体が調子悪い。
それは、貴方が自分の心を無視してるからです。自分の心の中に勝手に入ってきた、どっかの誰か・・・つまり赤の他人の、意見で生きているからです。」
「それって・・・」
「説明すると、八重さんの身体はPlayStationです。ですので、気持ち、心というのはPlayStationのソフト。すなわちディスクを入れて動き出すのです。
しかし、それが周りのブスどもの考えで生きようとしているのが今です。
周りのブスどもは、そもそも根本的に違うのです。別のハードです。ファミコンなんです。もしくはxboxとか。そもそもが違うんですよ。
八重さんはPlayStationで、PlayStationが八重さん。
PlayStationのハードに、分厚いファミコンのソフトは入らないし起動しないんですよ。だって、ソフトは”ディスク”じゃないといけないんですから。だから、他人であるファミコンのソフトを入れられた八重さんというPlayStationは動かないんです。不具合が起こるんです。
それが今です」
「あの、ごめんなさい。別の例えにして頂けるかしら」
「あ、PlayStationご存知ないですよね。失敬」
・・・———
「なるほどね。
私が見聞きして、体験した私の感覚がある事が大前提。だから、私は人と違う感覚を持っている」
「感覚なんてもう全員バラバラですよ」
「私がピンクを大好きでも、そのブスたちはグリーンが好きという。むしろ、ピンクなんて女っぽすぎる!とか狙ってんのか!とか可愛こ振ってるって思うのね。そのブスたちは」
「そうです。グリーンが好きなら好きで良いのですが、グリーン以外を選ぶ人を馬鹿にするんです。
または、自分達が本当はピンクが好きだけれど、恥ずかしくてピンクを持てないからこそ、ピンクを持っている人に文句を言うんです。妬みです。それに、本当にピンクが年甲斐もないとか、子供っぽいとか思ってたってもうそんなの人に押し付けなくたって良いじゃないですか。
ピンクのフリフリの服を着てはいけない年齢はないんです。もちろん———」
「その場にあったマナーによるってわけよね」
「そうです、そのためのTPOってわけです。だから、全部振り回されてたんです。巧妙に。
でもその気持ちもわかります。毎回なんかぶつくさイチャモンつけられると面倒に感じますよね。『ウルセェからこれで良いや』って、自分の思ってる事と違う選択をするという予防に走っちゃうんです」
「そうなの!!それよ!それ!!」
「ですから、八重さんはその辺のマナーですとかはわかっている方と思っています。ですので、ご自身の選択に自信を持ってください。文句言うやつは相手にしなくて良いんです。基本嫉妬ですから。自分ができないことを相手がやろうとすると足を引っ張ったり文句言って辞めさせるんです」
「そう言うものなのね・・・」
「携帯電話をキラキラにデコレーションしたくても、周りのやつがうるさいだろうなって・・・それが自分の所属しているグループのリーダー的なやつがそう言う人だったら・・・デコレーションの派手さを控えたり、別のシールにしたり、そもそもデコるの辞めちゃうとかですよ。本当はもっと派手に、好きな色にしたいのに」
「ちょっと違うけど、似たような事が周りで良くあったわ」
「でも、八重さん海外に行ってらしたんですよね?勝手なイメージですが、まぁ国にもよりますが皆さん自分の意見を主張する方の方が多いのでは?あちらにいらした間に、価値観変わられたりとかは?学校生活は・・・」
「あぁ・・・私、結局そんなに学校行ってないのよね・・・」
「おさぼりですか。もはや旅行ですね」
「なんとでも言いなさい!私は私なりの事情と理由で海外行きを了承したし、それに結局それなりに楽しかったから良いのよ!!」
「お、早速良い感じにご自身の選択に自信をお持ちになりましたね」
「アップデートが早いのが私の良いところよ!!」
サチエは、肉まんの後片付けをゆっくりと始める。
持ってきた袋に、ナイフ、まな板を入れ、皿は手に持った。
「・・・八重さんは最新のパソコンです。最新のパソコンには、専用の最新ソフトが必要です。よくわからないメーカーの怪しいPCが周りの人です。その人たち専用のソフトウェアを八重さんに入れるなんて、最新PCと言う八重さんをぶっ壊すようなものです」
「その例えでわかったわ」
「最早ウィルスを入れるようなものです」
「・・・!だから私が不調なのね!!・・・じゃぁ、差し詰め、サチエは”ワクチン”ね!」
「お後が宜しいようで!」




