第74話 『今日のお菓子は”餅太郎”です』
執事室で、仕事をしながら執事と男子高校生達が話している。
「八重がサチエにご執心だ。サチエのスキンケア、食べ物、嗜好をついて回って聞いてる。サチエも聞かれたら答えるし仕事の手は止まらないからいいものの、八重が経営をおろそかにするなんてな」
分度器、定規についた鉛筆の黒ずみを拭き上げながら双葉は言った。
「あれはサチエを好いてるの?対抗心なの?嫉妬なの?」
櫻が純粋に疑問に思った。ずっと一緒にいた八重だが、留学の最中に何か変わったのかと思う程。
「全部じゃないか?」
桔梗が新しい本を手に取って表紙を捲った。
「それにしても、『なんで痩せないの!なんで!』ってあの八重が人の見た目をとやかく言うとは思わなかったな。多分、それだけサチエに何か感じたんだろうけど」
「柊がサチエを気に入ってるのと似た感じ?」
「それは本人たちにしかわからないよ」
「え?柊ってサチエ事気に入ってるの?」
「あ!蓮は合宿いなかったから知らないのか〜!サチエに自分の部屋も掃除を頼みたいって楓に言って却下されてたんだよ」
双葉が合宿の出来事を思い出しながら蓮に教えた。
「そういえば、薫子に外見の話しをしてたとき、『人の好みは十人十色』みたいな事言ってたんだよな。
でも、前に俺言われたんだよ。メイドにならないかってサチコちゃんを誘った時」
その時の言葉を思い出す椿。
『私、小学校から今まで、ブス、暗い、友達いなさそう、話つまらなさそうとかずっと言われてきたんです。小学校も、中学校も、それこそこの間入学したばかりの高校でもです。てっきり、私の容姿に対するイメージは、個人の差もなく全国統一されているのだと思ってました。見えません?陰気でコミュニケーション取れなさそうな人間に』
「個人の差もなく全国統一されている”ブス”ねぇ・・・確かにサチエが薫子を説得した時に言っていた言葉と正反対だ。これだとむしろ、薫子と感覚が近い」
「じゃあどうして?よくある、”人は許せるけど自分の事は厳しくて許せない”ってタイプかな?」
双葉と櫻が考える。サチエとてただの高校生が。気分や成長過程で意見が変わることも十分にあり得る。
皆でなんの利益にもならない話を珍しくしている。少し考えてから楓が目を開いた。何か思いついたようだった。
「・・・だとしたらだ。サチエの集めた情報で、”誰からもブスと思われるように振る舞っている”んじゃないか?」
「なんのためにっ!?え?意味ある?!」
驚く椿を放っておいて楓は話を進める。
「前、サチエが言ってたんだ。薫子とサチエが対峙した時だ。
当時の薫子はサチエを見るなりデブスだと言い放った。それに対してなんとも思わないのかと聞いた。そしたらこう答えたんだよ」
【『デブの時に受けるイジメの方がまだマシです』
『それだと、太ってなかった時もいじめられてた様に聞こえるが?』
『———はい。そうです』】
「つまり、サチエはあの量の食べ物を・・・無理矢理には見えないな。多分好き好んで食べているのは確かだが、”わざと”食べて太ってるんだ。」
「なんのために?!」
「椿、少しは頭使え」
「そっか、じゃぁサチエは、”痩せてた時に受けたイジメの方が嫌だった”ってことだよね」
桔梗が本を読みながらサラッと言う。
「痩せてるサチエにヒントがあるって事か」
「むしろ痩せてるサチエが答えなんじゃない?」
「桔梗さん正解です。皆様揃いも揃って今日はお暇なんですね」
サチエが執事室に入ってきた。
とりわけ自分の話題が出ていても気にしないサチエは、そのまま執事室に入り、内線子機を充電器に立てかけた。
そんなサチエに楓がしたり顔で話かける。
「そうか、そうかそうか。デブスって言われて傷つくわけないよな。
”醜さ”に注目させるために、サチエ自身がワザと作った見た目だもんな」
自信満々な楓の顔を見たサチエ。ついに気づかれたか。と思いながらも負けじとサチエも悪い顔をする。
「『勘のいいガキは嫌いだよ』」
「俺もその漫画好き」
サチエのその切り返しが人気漫画のセリフだといち早く気づいた蓮が反応した。それに更に反応する双葉。
「何それ、読んでみたいんだけど」
「ではー、休憩頂きますねー」
「サチエ!お菓子食べるんでしょ?!今日は何?!?」
「今日のお菓子は”餅太郎”です」
「懐かしい!」
「俺にも食べさせてっ!!」
「待って待って!!俺だけ置いていかないで!!あと餅太郎っていうのはみんなで食べるのがいいと思います!!」
蓮と双葉に続いて大人の椿も一緒になって騒ぐ異様な光景だ。
・・・———
休憩後、サチエが執事室に再度来るとそこには神部 八重が居た。
椿や他の神部の面子は『あちゃー』と言うような顔をしている。しかし、この場で言葉を発する者はいない。
「神部八重さん、こんにちは」
「サチエさん!ごきげんよう!私とお話ししませんこと?!」
傷心していると聞いていた少女。しかし、サチエの目の前の彼女は元気溌剌だ。空元気かもしれないと楓が言っていたななどと思い出しながら返事をした。
「嬉しいお誘いですが、生憎私はもう休憩を取得してしまって、これから掃除祭りなのです」
「椿っ!!!」
サチエの返答を聞いた八重がすぐさま椿を呼んだ。
「ヒェっ?!だっ!?仕方ないだろ?!サチコちゃんは仕事なんだ!!お前が遊びたいなら仕事の後に頼んで相手してもらえ?!」
少し尻込みしながら椿がはっきりと八重に言った。
「ダメだよ。サチエはバイトが終わったら家にすぐ帰ってご飯作らないといけないんだから」
双葉が口を挟んだ。これは事実だ。
「あっ・・・あと!風呂掃除とか洗い物とか弟の宿題見たりとかなんかいつもサチエ忙しいって言ってた!」
紅葉も補足をした。
「・・・あんたたち、本当にサチエさんの事好きね。私に文句言うくらいには」
「「文句じゃねぇだろ?!」」
「いいわ、ねぇ椿。サチエさんは平日は毎日出勤してるんでしょ?ちょっと仕事のスケジュールなんとかしなさいよ?私と時間作れるようにして?サチエさんはそれすら仕事ってことでいいから。別に部屋なんて二日三日掃除しなくたって問題ないわよ。明日のサチエさんの時間を私に頂戴!!」
「お前ねぇ?!サチコちゃんが掃除しないって言うと、他の者にも影響があるんだよ?!俺とお前だけの問題じゃないわけ!!」
「一日くらいどうにかなるでしょう?!」
椿と八重の言い合いが始まった。
「ほぅ・・・これが」
サチエはそう言って双葉をみた。目が合った双葉は少し視線を泳がせた。
「わかりました、椿さん」
「俺は何もわからない?!」
八重に胸ぐらを掴まれている椿。サチエは二人の前に出た。
「今日、明日の分の家事も行っておきます。そうすれば、明日の勤務後は時間が出来ます」
「本当!!ありがとう!!とっても嬉しいわ!」
「お前ねぇ?!人様のお家の事情っていうかスケジュールっていうかルーティンを変えさせるなんて・・・!」
「良いんです。問題ありません。では、明日の夕方よろしくお願いします」
「喜んで!!ねぇ!椿!美味しい紅茶とお菓子を準備して頂戴!!」
「サチコちゃん、明日の仕事は美味しいケーキを買ってくる事だよ!」
「あんたが用意しなさいよ!!」
一連を見ながら、男子高校生達は少し呆気に取られた。
・・・———
翌日、夕日が落ちた後。談話室にテーブルには可愛らしい柄のティーポットとカップ。
そして、とても綺麗な見た目のケーキが置いてあった。
「では、失礼いたします」
「固くならないで!楽しく話をしましょう!この屋敷で女の子とお茶するなんてとっても久しぶりなの!!私楽しみにしてたんだから!」
メイド服から制服に着替えたサチエが、ふかふかの座り心地のよ良い上質な生地のソファーに座った。
八重もその向かいに座る。
そして、二人の女子高生によるお茶会が始まった。
「改めまして、私が神部 八重です。年は楓達と一緒の十六歳。よろしくね」
「改めまして、神部家のメイド、サチエです」




