第72話 『季節限定の”さつまりこ”です』
秋の風吹く今日この頃。
庭のハーブを切っていたサチエの前に現れたのは、楓たちと同じ学校の女生徒たちだった。
女生徒たちの相手をしていたサチエ。罵倒された時にちょうど楓が帰ってきた。
女生徒たちに一喝してサチエと屋敷に入ってきた。
それから楓の部屋へ行き、女子生徒の制服が全身白でカレーやミートソースパスタが食べづらいという話をしていたが、サチエが気になることが一つ。
珍しく楓が徒歩で帰宅した事だった。
・・・———
「今日の楓さんは徒歩でしたね。大方、女子生徒の後をつけて来たのでしょうか?」
「あぁ、ここ最近家の外で女子生徒を見かける事が数回あった。さっきも言ったが、ここは通学路でもなければうちに用事がある者以外はここまでこない。誰かがつけて来たんだ」
「ですが、皆さん普段は車で通学されてるじゃないですか。まぁ、一度だけ双葉さんが脱走しましたけど。彼女達、車を追いかけて来てたんですか?陸上選手もびっくりじゃないですか?」
基本、通学は車でしている彼らが女子生徒に後をつけられる事はあり得ない。
しかし、ここ最近神戸の屋敷に帰ってきた自由奔放な者が一人。
「紅葉だよ」
「・・・なるほど、朝は皆さんと一緒に車で、お帰りは遊ん・・・いえ、バンドの練習をしてお一人で帰って来る事も多いですからね」
「紅葉が後をつけられて家が割れたんだ。まぁ、仕方ないと言えば仕方ないが」
楓がネクタイを外した。
それを無言でサチエに渡す。サチエも無言で受け取りハンガーに掛ける。
「しかしよかったのですか?学校では割と猫を被っていると聞きました。あんな顔してしまったら明日から何かと面倒なのでは?」
「問題ない。尾行したのは向こうだ。何も言えないだろう。言った時点で自滅だ」
「女子高生という生き物を侮ってはいけません。先ほどの罵倒シリーズ聞きましたでしょ?自分達が正しいと思い込んでいる生き物が発する言葉でした。明日、お気をつけ下さい」
「神部を敵に回したら自分の親の会社が倒産することくらいわかるだろう」
「セリフが悪役です」
鞄、ジャケット、ネクタイは受け取った。
この後Yシャツやスラックスを脱ぐとわかっているサチエは部屋を出ようとした。
「サチエ」
「はい」
「椿もこの間言ってたが、”八重”が帰ってくる」
「聞きました。天使みたいに可愛い方だそうですね」
「俺たちはずっと一緒だからその辺はわからない」
「櫻さんもそう言ってました」
楓が珍しくドカっと乱暴にソファに座った。
その態度を見てサチエは不思議に思った。
「兄妹が帰ってくるようなものなのですよね?なんか、皆さん結構訳あり顔されてますけど?相当な難ありなのですか?」
サチエのその質問に、楓は答えない。難ありということだろうかと思いながら、答えがないなら部屋を出ようとした。
「Yシャツ、後で取りにきますね」
「サチエ、少し話しておきたいことがある」
「遠慮します」
後ろを振り返りもせずにサチエはそのまま部屋を出ようとする。
「ちょっ!!?サチエ、コラ待て!!主人の言うことだぞ?!」
「多分業務に関係ないと思いますので!」
「そういう話じゃない!!」
・・・———
サチエは他にも清掃をする部屋が残っていた事もあり、とにかく先に掃除を終わらせた。
そして、再度楓の部屋へと戻ってきた。
「本当に仕方ありませんね。私が特別に話相手になって差し上げます。話の内容にもよりますが」
「・・・実は」
「やっぱり、そんなに重苦しい話なら聞きたくありません」
「・・っその」
「あーあーあーあーあー」
サチエが両手を両耳に当てて声を出す。話を聞かないアピールだ。
「わかった!核心は話さない!ただ仕事で気をつけてもらいたい事だけ話す!!」
「でしたらお聞きしましょう」
ケロッと態度を変えたサチエだった。
「ほう・・・八重さんの留学は”傷心”が理由だったのですね」
「まぁ、他にも色々理由はあるが、とりあえずは。俺たちはその間連絡をあまり取ってない。元々はうるさいくらいの奴だったんだが、まあ、とある事をキッカケに少し元気がなくてな」
「で、お帰りになるにはなるが、どういう状態かはまだわからないから接し方気をつければいいんですね?」
「平たくいうと」
「大丈夫です。でしたら近づきません。皆さんとお部屋の階も違うそうじゃないですか。なんの問題もありませんよ。では私は今日はこれで上がります。お疲れ様でした」
そう言って、楓の部屋を出て行ったサチエ。
「そんなにうまくいけば良いけどな・・・」
ため息まじりに楓が言葉をこぼした。
・・・———
サチエが出勤して執事室に寄ると、椿がジャケットを羽織った所だった。
「おや?椿さんお出かけですか?」
「あぁ、ほら前に言ったでしょ?”八重が帰ってくる”って。空港まで俺が迎えに行くから」
「・・・え?椿さんが直々にですか?」
「っ・・・そうだけど?」
少し椿に対してぎこちなさを感じたサチエ。
「あぁ、椿さんはその八重さんの事がお好きなんですね」
「———っ?!なっ?!」
「ギャハハハハ!!サチエ!面白い!!」
「ふふ、八重と椿はいつも喧嘩してたからね」
その場に居合わせた紅葉と櫻が一緒になって笑う。
つまり、"そんな喧嘩ばっかりしている二人に恋愛感情があるなんてあり得ない"とばかりに笑ったのだ。
「では、なんでそんなに喧嘩ばかりしている椿さんがお迎えに行くのですか?」
「パシリ扱いだって!ひー!おもしろっ!帰ってきて早々に椿ご指名とか、八重も元気なんだろうなっ!」
紅葉が変わらずお腹を抱えて笑う。
「とにかく!!俺はそういうわけだから今から迎えに行くから!サチコちゃん、いつも通りよろしくね!」
「はい、かしこまりました」
「と、言うことが先ほどあったのですが、双葉さんならお分かりなんじゃないですか?」
「・・・それで今日は最初に俺の部屋に来たのか・・・」
サチエは本日は双葉の部屋から掃除を開始した。双葉は人の心を割と察することができる。サチエは双葉に直接聞くためにやってきた。
「でも、サチエが珍しいね。他人のそういう色恋とか興味なさそうなのに」
「なんか、気になったんですよ。普段の椿さんと違うなって。それも、”ただ好きな人を迎えに行く”わけじゃないだなって。訳ありなのだと。楓さんにも少し話されましたからね。八重さんが傷心中だと。関係あるなら知っておこうと思っての調査です」
「八重のその傷心と椿の件は、うーん、まぁ無関係って程でもないけど。椿が原因じゃないからね。八重の事が好きだからこその純粋な心配なんでしょ」
「やはり、お好きなのですね」
普段、お互いの顔など見もせずに話し合う二人。
その二人がたまたまお互いを向いて目が合う事3秒。
・・・
「うわっ!!あー!!言っちゃったよ俺!!サチエ誘導尋問上手過ぎだよっ!!」
「今のは私は無関係かと」
あーーーと一人、作業していた机に突っ伏して唸っている双葉。
そんな双葉を見てサチエはフォローを入れる。
「大丈夫です、櫻さんと紅葉さんは微塵も椿さんのお気持ちに気づいていないようでしたし、私も言うつもりはありません。もちろん、邪魔もいたしません。椿さんを揶揄うネタにしか致しません」
「まぁ、仕事押し付けられた時の反撃の手札として取っておくくらいにしてね」
「では、そんなうっかり喋ってしまった双葉さんを元気づける為にこちらを差し上げます」
「ん?なに?」
今日のサチエはメイド服の上からポシェットを下げていた。
そこからゴソゴソと取り出した。
「季節限定の”さつまりこ”です」
「じゃがいもなの?!さつまいもなの?!」
ここで、1話の時間軸に戻りました。




