第71話 『ホワイトバンドです』
9月。
暑さが多少和らいだ。
日照時間も段々と短くなり、トンボが大量に飛び始めた。
学生は”二学期”が始まっている。
サチエは二学期に入り、今の所バイトは毎日入っている。1日3時間程度だ。夏休みと違ってシフトを極端にセーブする必要がない。
「あ!あいつらの冬服ね!もうクローゼット入れておいて!」
「かしこまりました」
「あとは今のうちに除湿機おいてあるやつはパントリーの加湿器に変えておいて!」
「かしこまりました」
「あとこの手書きの文章をパソコンで打ち直」
「それは私の業務外です」
「お願い手伝ってよーー!!!?」
夏休み前と同じような業務時間と業務内容。
「では、私はこれにて。普段通りにやってきます」
スタスタと執事室を歩き、扉を開けて出て行く。
「あーー!時間が余ったら手伝ってよねー?!
・・あれ?サチエちゃん・・・もしかして・・・?」
・・・———
「サチエ、学校どう?」
「はい、双葉さんの校章の威力は夏休みを超えてなお健在です。非常に快適です。薫子さんと双葉さんに感謝お礼申し上げます」
「ははっ!そりゃ何よりだわ」
部屋の主である双葉は自分の勉強机に向かい、製図を行いながら。
一方サチエは掃除をしながら会話をしている。
「双葉さん・・・この頃皆様自室で見かけることが多いですね?講義は一旦減ったのですか?」
「あぁ!そうそう。学園祭があるからね。あ、でも減ってるのは俺とか萩とかね。他は多分変わらず出てると思う」
「・・・学園祭って、ご家族以外は学校に入れませんでしょう?セキュリティーの厳しい学校でしょうから」
「ところが!」
「どっこい?」
サチエが合いの手を入れて続きを待った。
校章が18金や24金だったり、高性能な小型機械を搭載させている学校だ。大体の生徒が自家用車で送迎されているような学校が外部の者を易々と入れるとは到底思えなかったサチエ。
「来るのは親族だけじゃなくて企業・業界の有名人だよ。つまり、俺たちは学園祭・・・というか文化祭・・・というより、自分の才能や努力の結晶を発表して、それを見て企業側がスカウトするっていう感じ」
「なんですか。楽しい学園祭じゃなくてもはや就職活動やオーディションじゃないですか」
「そんな感じ。でも、これで目をかけてもらえればってこともあるからさ。楓や桔梗は関係ないけど、俺みたいな家業とは関係ない所に就職する奴は学園祭でどうにかしてやろうって思ってるわけさ」
「・・・なるほど。生徒の夢を早々に応援するという意味では、なかなかいい学校ですね」
「まぁね、それなりに学費かかってるし」
双葉が笑った。
彼は生まれた自分の家の『神部』に就職はしない。
だからこそこうやって頑張っているのだ。
「あ、しまった。椿のところに行かなくちゃいけないんだった」
「私このあとすぐに執事室戻ります。何かお伝えしますか?」
「いや、なんか来いって言われてたから出向いた方が良いんだと思う。ちょっと今いいところで手が離せないから椿にもう少ししたら行くって伝えてもらって良い?」
「かしこまりました」
・・・———
「と、いうことで双葉さんは少々遅れます」
「了解、あのさ、サチコちゃんさっき思ったんだけど———」
執事室に戻ったサチエ。早々に椿に報告をした。
そして、椿が前にも思ったことを告げようとしたが・・・
「サチエ。そんなブレスレットつけてたか?・・・ブレスレット?シリコンかこれ?」
楓が話に入ってきた。
「はい、そうです」
「あのね、今俺がサチコちゃんと」
楓に続き、桔梗も見た。
「あれ?なんか最近見た気がする。なんていうの?」
「ホワイトバンドです」
———ガチャ
一人、執事室に入ってきた。
”ホワイトバンド”その名称が聞こえ、紅葉も話に入ってきた。
「桔梗の既視感は俺のだよ!ほらこれ!本屋とかでも売ってるぜ!なんか、何処かの機関?が売り出したんだよ。ユニセフみたいなもんだと俺思ってんだけど。ほら、買えばそのお金が必要な人に行くってヤツ!」
「まぁ、当たらずとも遠からずだと思います」
「知らないでつけてるのかお前たち」
楓が呆れた顔で言った。
「まぁ、流行りなんてそんなもんだよ。最初が誰かなんて知らなくても、みんな着けてれば『これって流行ってるんだ』とか『これが良いんだ』って思って買っちゃう訳。経営でよくあるじゃん。ブームは作るものーとか巻き起こすものーとか」
執事室に入ってきたのは双葉だ。頭から製図の事が抜けていない。手に持った世界のお城の写真集を見ながら双葉が言う。ちなみに彼もホワイトバンドは知らない。
「どうです?シンプルで嫌味のないデザインだと思いませんか?桔梗さんも着けますか?興味ございますか?」
サチエが聞いてみる。
「うーん。全くかな」
困り顔で答えた。
「ッチ!これだから顔のいい男は!」
「何で俺怒られたの?」
「桔梗、違うよ、サチエは褒めてるんだよ」
双葉が笑った。
「で?このメンツを呼び出してなんだ?」
楓が椿の方を向いた。
「お前たち本当に俺を華麗に無視するよね。邪険に扱うっていうかさ」
「双葉も忙しいのにわざわざ執事室まできてるんだ。時間を取らせるな」
「そういうところだよ!!」
———ガチャ
「ごめんっ!遅れた!」
櫻が入ってきた。
「よし、全員揃ったな。これでちゃんと話せる・・・!」
椿がゴクリとつばを飲み込んで少し冷や汗を額に滲ませながら言った。
「何?そんなに重要な事なの?」
「困るな、これから学園祭の準備が本番なのに」
紅葉と双葉が悪態をついた。他の者は静かに続きを待っている。
「それはね———」
「私はこれで今日は上がります。お疲れ様でした」
「ちょっ!?サチコちゃんここで話の腰を折らなで!!ってかサチコちゃんも聞いて?!知っておいて?!」
一人、扉に向かって帰ろうとしたサチエは止められた。お腹が空いていたので少し機嫌が悪い顔をした。
「では早急に。お腹が空いてドアノブを壊しそうです」
「君たちはそうなんでみんな・・・!!はいはい、結論から言いますよ!!
来週辺り、”八重”が帰って来る」
その瞬間、執事室の空気がピリっとした。
「お疲れ様でした」
「この空気の詳細知りたくないの?!」
・・・———
翌日
「薫子さんと蓮さんから少しだけお話しを聞いた事があります。薫子さんは言いました。憎たらしい程天使みたいに可愛い方だとか」
「それ褒めてるの?」
「薫子さんからしたらとっても褒めてます。しかし、嫉妬も満載だったようです。少し前の話ですよ」
サチエは今日も今日とて神部の者の部屋の掃除をする。
今は櫻の部屋だ。
「海外にいらっしゃったんですよね?」
「そうそう、それが帰ってくるんだ。そろそろかなって思ってたから俺はそこまで驚かないんだけど・・・」
「でも、あの場では一瞬皆さんがピリッとしましたよ?」
サチエの言葉に櫻が少し悩んだ。
「・・・俺たちは生まれた時から一緒にいるからよくわからないんだけど・・他の人からするとすごく可愛いいらしいんだ。でも俺たちはそれよりも八重の性格がちょっと・・・」
「難ありなのですか?あれ、私もしかしてイビられてしまう感じですか?でしたら仕方ないですね、辞め」
「いや!そういうことはしない・・!人の嫌がる事は・・・そういうこと・・・?んーと、えーっと」
珍しく歯切れの悪い櫻にサチエが面食らう。
「櫻さんが説明に困るほどの人物・・・なのですね。天使の見た目で小悪魔的な感じなのでしょうか」
「・・・当たらずとも遠からず・・・あぁ、説明が難しいな」
そう言って、諦めた感じで優しく笑った。
そして、窓の掃除の続きを行うサチエ。
窓の外、家の前の道路には珍しく人影が見えた。昨日も人がいた。郵便配達の人ではない。目で追いながらサチエは櫻に言う。
「おかえりになるの、楽しみですね」
「サチエ、それは違うよ」
あっけらかんと言い放ったサチエに、櫻が少しだけまた難しそうな顔をして答えた。




