第69話 『今日はマッシュポテトよ!』
「ねーねー!楓ー!一昨日の朝の話が気になって運動に集中出来ないよー!」
本日も晴天。
「柊・・・二日間ずっとそれを考えたままいたのか。聞く機会なら幾らでもあっただろう」
走りながら柊が楓に問いかけた。
「しかも聞くの今かい」
「さっきの休憩の時に聞けばよかっただろうに」
紅葉と双葉が呆れながらも楽しそうに言った。
「だって気になるからさー!必要があれば言ってくれるだろうって菊が言ったから待ってたんだけど必要がなかったら言ってくれないって事でしょ?!もうこれだけ何も言ってもらえないんだったら多分必要がないんだろうからじゃあもう聞いちゃおうって思って!」
「昨日の夜食の時に聞けばよかったのに」
「昨日の夜食の素麺美味しかった!」
楓が少し考えてから全員に告げた。
「わかった、話をしよう。この先に公園がある。そこまで走ってから木陰でも見つけて話そう」
「全部繋がってる?」
何人かが口にした。
「あぁ。トヨさんが言っていた不審車のうろつき、建設会社への空き巣、ベビーカーの事件から工事現場フェンスや足場の杜撰さ迄、全部繋がってるって可能性があるって事だ」
楓の考えに驚かないのは桔梗だけだった。
「ほぉ・・・不審な車と建設会社への空き巣は一緒だろうと思ってましたが、ベビーカーも同じですか」
サチエがボソッと呟いた。
「えっ?!サチエも気づいてたの?!」
「今言いましたが、ベビーカーは別物だと思ってました。ので、気づいたうちには入りません」
「十分入るでしょう」
壱葉も双葉もサチエに感心した。
「恐らく、工事現場が杜撰だったんじゃない。誰か第三者があの公園に入って足場を崩したんだ」
「えぇ!!じゃぁ僕が言った『第三者の介入』って当たってたって事じゃん!え?!ベビーカーは?!あれは完全に親の責任でしょ?」
「まぁ、最終的には親の不注意で防げたものではあるがあれは・・・」
楓は喋りながら桔梗の方を見た。
「あれは、ウチ・・・KAMBEのベビーカーだったと桔梗が言ってた」
「それがどう関係ある・・・あ!もしかして・・・!」
「そうだ、あれは手持ちの部分のボタンを押しながらじゃないと後ろ向きにタイヤが動かない仕組みのはずだ。
必ず動作テストをしてからじゃないと販売しない。つまり、購入してから短時間で壊れたか、意図的に壊されたしかないんだ」
「だけどどのタイミングでそんな事!」
「だから可能性、あくまで憶測だ。気に掛かってる程度だ」
その話を聞き、紅葉がふと口にした。
「・・・全部神部が関係あるじゃん?」
「そうだ。だから気になったんだ」
「評判落としかー?たまにあるんだよねー」
少し不穏な雰囲気になった。
「だからなるべく言いたくなかったんだ。空気を悪くしたくなかったからな」
「それにしても、もし本当に今回の件がつながっているのだとしたら、そろそろ企てた側は痺れを切らしそうですね」
「サチエ、どういう意味だ?」
「ですから、ベビーカーの件だって、公園の足場の件だって、本来はもっと騒ぎやニュースになっててもおかしくない話ですからね。近くにいて何も報道や騒ぎにならないならやった方としては『何でだ?』って疑問に思って調べません?」
その言葉を聞き、楓と桔梗は話をせずに考えこんだ。他の者はみんなで喋りながら話を進める。その多くの意見を聞きながら楓と桔梗が再考する。
「(楓さんと桔梗さんがやはりこのメンツの中での脳なのですね)」
気にはなるが、サチエは考えてもどうにもならない為、自転車の籠からドリンクを出して配り始めた。
「もしかして、まだ仕掛けられたりするのかな・・・」
「これ以上何をどうしようって言うんだ」
順番に配るサチエ。通常は楓から配るのだが、あまりにも考えすぎていたため、今回は最後に手渡した。
「サチエ、お前何か考えないか?」
「私ごときが考えて何か思い浮かぶことはないですよ。まぁ、ベビーカーも工事現場の一件も、助けたのが神部の皆さんだと言うことがバレてしまったら、まずいかもしれませんね。みなさんが東京を離れたココにいるってバレたら今度は直接別荘に何か仕掛けてくるかも知れません。と、私はそう妄想します。妄想です。ただの妄想」
「・・・それだ」
楓の目が見開いた。
「いやいや!だとしたらもう別荘に襲撃されてもおかしくなくない?!」
「いや紅葉、流石に高校生が十何人もいるんだ。相手もそんなに簡単に乗り込んでこないだろう?!」
「双葉待て、私たちが別荘を空けている時間を狙えば・・・」
「でも壱葉、だとしたらあの日からもう二日も経ってるよ?俺たち結構別荘空けてるからその間にいくらでも」
「なぁ櫻、あの日の午後は休みで俺たちは別荘にいた。それに夜は花火をやってた。あの日だけが不規則な動きだったがそれ以外は毎日午前と午後に運動をしているスケジュールだ。だから二日様子を見たとしよう。それなら何かしてくるのは今日あたりかも知れない」
桔梗の言葉に他の者の顔が強張った。
「じゃぁ、あれから別荘に割と張り付きだったとして、本当に今が危ないじゃん」
「でも何するってんだよ?」
「放火とかされたら・・・」
「窓割られても嫌だよね。セキュリティだって窓割れてからじゃないと警報鳴らないし」
「今すぐ別荘に戻ろうか」
そう先導したのは桔梗だった。
楓は携帯電話でどこかに電話をしている。
「ああ、楓です。今別荘にいますか?そうですか。ちょっと別荘が危険そうな気がするので出来ればすぐに誰か戻ってもらいたのですが。我々もすぐに戻りますが。はい、宜しくおねいがいします」
———ッピ
「ダメだったかぁー!」
別荘に危機を感じた楓が、先日工事現場の確認にきた神部の大人に連絡を入れた。しかし、外出中であった。
「あっ!兄貴がいれば・・?!」
橘が思いついたように言った。
「兄貴とは?」
「バスの運転手は橘の兄貴だよ!」
「なんとここで新事実」
橘が電話を掛けた。
「兄貴っ?!今別荘か?!え?!ガソリンスタンド?!」
今回の合宿のバスの運転手である橘の兄は、現在バスに燃料を入れに外出中だった。
つまり、今屋敷には昼食と夕食の仕込みをしている一人しかいないという事。
「トヨさんが危ないっ・・・!!!」
少し傷がついたままのサチエのメガネが光った。
・・・———
「ふんふふ〜ん、てんてんて〜ん、ふんふふ〜ん」
台所でトヨさんが歌いながら昼食の仕込みをしている。
「今日はマッシュポテトよ!」
絶賛作っている最中だ。
「神部のお坊ちゃんたちは『ポテトサラダ』を食べたことあるのかしらね〜?私が長年合宿のご飯作ってても一回も出したことないのよね〜!いっつも献立が『マッシュポテト』でしたからね〜!」
———ガタガタ
「あら?サチエちゃんもう戻ってきたのかしら?早いわね?あら!!じゃあ急がなくちゃじゃない!」
・・・———
「急げ!!取り越し苦労ならそれに越したことはない!!」
「急いでるって!!サチエ先に自転車で行ってよ!!」
「サチエを先に行かせてどうする?!」
「俺たちの誰かが自転車に乗るのが一番良いだろう?!」
「この上り坂は走った方が早いよ」
別荘までの上り坂を疾走する団体。先に行きたくとも上り坂はやはり人間の方が早い。サチエは最後尾に居た。
登り切り、別荘にたどり着く。その手前には普段路肩駐車などないのだが車が止まっていた。中に人は乗っていない。
「こんなところに車止める奴は居ない!やっぱり侵入されてる!!橘!!羅漢!二人ここに残れ!!」
「「了解」」
体格の良い二人を車の監視に付けた。
別荘まであと少し。
「この辺で柳と萩は隠れて見張ってて!!」
次の指示を桔梗が出す。
「俺たち別荘の周り張ってるから!」
菊と藍が立候補する。
「頼んだ!!あとは中に入るぞ!!」
次々に門をくぐって行く。
「サチエもどこか離れたところに隠れてて!!」
桔梗が最後に屋敷に入り、その後は一瞬周囲がシン・・・と鎮まり返った。
その時、サチエの視界に聞き覚えのあるモノが目に入った。
———コツッコツッ・・・
台所に向かってくる足音にトヨさんが反応した。
「どうも〜!あら〜今日はみんな早かったのねぇ〜!もうすぐご飯できますからね!あとちょっとだけ待ってくださいね〜!」
そう言って出入り口を振り返ったトヨさん。
視界に入ったのは目出し帽を被った男二人だった。
「トヨさんいるっ?!今すぐ逃げて!!」
紅葉の声が別荘の一階に響いた。
目出し帽を被った二人を目の前にトヨさんは恐怖を感じた。
「ぎゃぁーー!!えっ!これ遊びっ?!本当にドロボー?!えっ?!何が起こってるの?!遊び?!でもあの子たちはこんな事するような子達じゃ・・・!!」
もしかしたら高校生たちの悪戯かと思ったトヨさん。でも神部の彼らがこのようなことをする理由を見つけられない。
「ッチ!!何だよ!戻ってくんの早ぇじゃねぇかよ!!」
「そんなはずはっ?!昨日、一昨日より一時間も早い・・!何故!!」
台所に近づく沢山の足音。声と音に気づいた目出し帽の男二人は台所の勝手口に向かって走り出した。
「トヨさん!!」
「大丈夫ですか?!」
紅葉と楓が最初についた。トヨさんとは反対方向にあった勝手口から出ていく男二人を見つけた。
「逃すかよぉーーー!!!」
後ろの男を、背中から蹴りを入れて紅葉が捕まえた。しかし、先に出た男はそのまま庭へ行ってしまった。
楓も後ろの男を取り押さえるのに加担した。そして、神部の他の者に聞こえるように大声で叫んだ。
「一人外に逃げたぞ!!!」




