第65話 『秋さん、その表現はちょっと』
本当に大きい公園だ。
3分程度走ってようやっと公園を縁取る樹々が見え始め、子供の声が聞こえてきた。
「声がする!!大通りからの入り口側から声聞こえた!はしゃいでる声だから絶対に学童の子たちだよ!!」
「入り口側・・・?だとしたら搬入物が沢山あるんじゃないのか?!」
双葉の言葉を聞いて壱葉がハッとして言った。
「とにかく急げ!!」
先頭を走りながら叫ぶ楓。そしてその横にいる桔梗。
全員が搬入物がまとめて置いてある場所へと辿り着いた。
公園の案内所や休憩所なのか、建設途中の建物。そして組まれた足場。
「居たぞ!!」
楓が後続に知らせた。
”近づくな”のサインとして見られる三角コーンこと”パイロン”や黒と黄色の立ち入り禁止の棒も特に設置されていない。あるにはあるが、端にまとめて寄せられている。
子供たちが面白がって、大きい搬入物の上や、足場に登ってはしゃいでいた。
「これはまずいでしょ?!」
天然気質でポヤポヤとしている柊もさすがに驚いている。
「子供たちをまず全員下さないとだな・・・そもそも何人いるんだっ!!」
楓が舌打ちをしながら惨状を把握しようとしている。
「絶対聞いた方が早いでしょう・・・そこの君、君たちは何人で此処へ入った?」
壱葉が近くにいた女の子に寄って行き声をかけた。
「・・・?!」
女の子は壱葉を見るなり怖がって建物の影に隠れた。
「壱葉〜、ダメだってそんなに高圧的じゃ!ほら、もっと優しく聞かなくちゃ?ねぇねぇ!何人でここの公園に入ったの?」
「・・・」
女の子は建物の影から覗くが若干睨みつけるようにして全然質問に答えない。
「双葉さんが言ってもダメみたいですね」
「おかしいなぁ?俺、屋敷の小学生には超人気なのに?じゃぁ同性のサチエが行けば良いんじゃん?」
「いえ、多分あの女児は手強いタイプです」
「秋さん、それはどういう意味で?」
話す双子とサチエの間をすり抜けて女の子に近づく者が一人。
「すぐに分かりそうですね」
女児は誰かが近寄ったことに一瞬身構えたが、近寄ったその者はすぐに屈んで目線を合わせた。そしてにっこりと笑った。
「こんにちは。今日も暑いね。その水筒入れかわいいね?みんなで此処にきたの?」
桔梗だ。
女の子は目を輝かせて建物の陰から出てきた。
「うん!コレ、ママが作ってくれたの!!あのね!そんなにいっぱいじゃないんだけど一緒にドロケイやってた人たちとこっちきたの!」
「そう、何人かわかる?」
「ケイサツが3人でドロボーが7だから10人!!」
「教えてくれてありがとう」
「どういたしまして!!わー!お兄さん格好いいーー!!」
桔梗の顔を見て嬉しそうにペラペラと喋る。
「こんの優男が!!」
「理解に苦しむ」
「身長かっ?!高すぎるこの身長がいけないのか?!」
「いや、私たちが最近の小学生が不審がる行動をしたのかも知れない!そもそもお前は心を読めば」
「だめだめ『うわっ!こっち来た!うわっ!大きい!!うわっ!!』の繰り返しだから」
双子がショックを受けて交互に胸の内を吐露する中、サチエが確信を言う。
「壱葉さん、つまりこの場合は女児が”マセガキ”なのです」
「秋さん、その表現はちょっと」
「まさにそれだよ!」
「楓、全部で10人だって」
「わかった。その子はお前がとっ捕まえておけ。俺たちじゃ無理だ。よし、残り9人捕まえてすぐに学校に戻るぞ!!」
「了解」
言うが早いが、桔梗が女の子を抱えた。逃げないようにだ。
しかしそんな事はどうでも良い女の子は、好みの顔の男の人に抱き上げてもらい、ただただ嬉しがっている。
そして、それを見つけた他の女の子が数人集まってきた。
「あー!!何やってるのー?!ずるいー!!」
「おにーさんどこからきたのー?!」
「いいなー!次、私も!私も抱っこして!」
桔梗と女の子に寄ってくる女児が3名。
見つける子供は残り6名。
「櫻!!男の子が居たぞ!!2人だ!」
紅葉が伝え、櫻と追いかけ捕まえる。
残り4名。
「こっちに居た!」
藍が見つけて方向を指す。橘が追いかけて捕まえる。
残り3名。
昔ながらの公園の光景のようだ。そう思わせるのは土管があったからだ。
後日水道工事が行われる予定だ。その際に使う土管が横たわって置いてある。
その内径は小学生なら自由に出入りが可能なサイズだ。
男児が2人、土管の中でヒソヒソと話す。
「なんなんだよアイツら?!中学生か?!高校生か?!」
「なんでいきなり来て捕まってんだよ?!先生が来るならわかるけど何だアイツら!!」
「危ない奴らだろ?!不良なんじゃないのか?!だってここ普通は入れないんだろ?!」
「そう、普通は入れないから、君たちももうここから出ようね?」
菊の柔らかい笑顔。しかし、土管の中からでは逆光でむしろ恐ろしく感じる。
「「ギャァアアアアアーーーーー!!!!」」
子供、残り1名。
「えー?"入っちゃダメ"の看板が無かったからもう良いのかと思ったー!」
「工事してないなら入って良いのかと思ってたー!機械のうるさい音しなかったしー!」
「ねー!ガチャガチャとか大きい機械が動いてないから危なくないから良いよ〜って事だと思ってたー!」
捕まえた子供達に話を聞くと、随分と都合のいい解釈を始めた。それに紅葉が言及する。
「そんな訳あるか!!ちょっと考えれば」
「紅葉、この子たちにはそんなのわからないよ。身近に工事してる場所がなかったら教わることも無かっただろうし」
「だけどよ櫻っ!!」
櫻が紅葉を宥めた。
「〜〜〜っ!わーったよ!で?あと残りの1人はどこにいんだ?さっさとみんなで帰るぞ!!」
「横山くんは逃げるの上手いから多分なかなか捕まらないよ〜!」
「あぁ!タケシは学校で一番運動神経良いからな!」
男子が口々に残りの一名を絶賛し始めた。
どうやら相当に運動神経が良いらしい。
「横山タケシ・・・。届けた帽子の持ち主ですね」
サチエは先生が呼んだ名前を思い出した。
「そうみたいだね。多分、近くに隠れて見ているはずだろうから・・・早く見つけよう!」
「そうですね。神部さん」
「柊だよ!!全員神部さんだから!」
「あっ、居たよ」
「横山くんイケメンおにーさんに見つかっちゃったー!」
サチエと柊がボケてる間に桔梗が残りの一名、『横山タケシ』くんを見つけた。
建築途中の足場だ。
しかもかなり上の方まで登っている。
事務所、案内所または休憩所なのだろうが、かなり大きい。
「つかこの建物めっちゃ高くねっ?!」
大きい公園とて、二階建てまでしか見た事の無かった紅葉が驚く。
「この建物は3階建てなんだ!広い休憩スペースが設計されてる!」
橘が補足する。
「あぁ!あれね!設計図だけ見た見た!!特殊な材木使うってヤツでしょ?!大黒柱的なデッカい丸太を一本使うって言うあの・・・」
「その丸太がコレーーー?!」
建築資料だけは見ていた双葉。その設計図を思い出しながら話していたら子供の声が飛んで来た。
その声はタケシだ。
大きい丸太に掴まっている。しかし、その丸太をよく見ると特に固定されていない。
固定されていない丸太が縦に立てかけられている。
「危ない!!すぐに離れるんだ!!」
楓が大きな声でタケシに言った。
「大丈夫だよ!!こんな大きな建物作ってるのに、危ない状態で人がいない訳ないだろ!絶対、動かないようにしてあったり安全な状態にするものだってウチのじいちゃんがいつも言ってるから!
人がいてもいなくても、工事現場はいつも安全第一だって!だからこの丸太も———」
意気揚々と喋っていたタケシの口が止まった。
「・・・あれ?あれ?なんか動いて・・・うわぁああああーーー!!!」
立てかけられているだけの大きな丸太。そこに子供とは言え、小学校高学年の男児が寄りかかったりしたらさすがに多少なりとも揺れたりズレが生じる。
丸太は動き、傾いた。その先にパイプがあり今は止まっているものの危ない事には変わりない。
丸太だけに掴まっていたタケシは足場から離れて完全に丸太頼りになってしまった。
「言わんこっちゃねぇええー!!」
双葉の言葉を皮切りに近くの神部一行が足場を登り近づき始めた。
タケシがいるのは3階の中央。工事現場の足場の幅は狭い。歩くだけなら問題ないが、色んな方面から走りながら高校生が近づく。
他方から生じる振動がタケシには怖い。
「ちょっ!!!みんなそんなに走らないでよ!!めっちゃ揺れてんじゃん!!」
「断る!時間がない」
壱葉が端的に答え、一番早くタケシに辿りつきそうだ。
「振動で手ェ離れちゃうよぉー!!」
「それはお前の腕力の問題だ!!大体こんなところに登るからいけねぇんだろうがぁーー!!!」
紅葉も足場をよじ登りながら説教をする。
緊迫した状況で男子高校生の中では、女の子を抱えている桔梗だけが地上にいる。
「もう無理だよ!!手ェ痛い!!」
タケシが泣きそうになりながら大声で叫んだ。
「もうちょっと頑張れよ!!お前学校で一番運動神経早良いんだろ?!」
「でも一番重いものもてるのはユウジの方だからぁ〜〜!!もう無理ぃーー!!」
タケシのいる3階であろう足場に辿り着いた壱葉が猛スピードで網状の足場を駆け抜ける。
タケシまであと3メートル。
「もうダメーーー!!」
タケシが丸太に捕まりきれずにずり落ち始めた。
到達した壱葉が手を伸ばすがギリギリ届かない。
そしてタケシは更に落ちていく。それに気付いた紅葉が進路を変えた。2階部分の足場を走り出した。しかし2階の足場からは傾いた丸太の向きが悪く届かない。
その時だった。
「もう限界ーー!!!!!」
タケシが更に勢いよく落ち始めた。




