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神部家のメイド、サチエです。 〜清掃員からメイドになりました〜  作者: 杉崎 朱


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第66話 『ハイッ!肉!!』


「っくそーーー!!もうこれしか———っ」



 紅葉が足場から飛び降りた。

 しかも背面向きの頭からだ。


「トチ狂ったか・・・!!」

 壱葉が大声を上げた。


「わー!!危ない!!」

「キャァーーー!!!お兄さん死んじゃう!!」

「タケシ落ちちゃうよ!!」



 子供たちは、タケシのみならず紅葉まで落ち始めた事にパニックだ。



 落ちるタケシを、落ちる紅葉が捕まえようと手を伸ばした。

 紅葉の手がタケシの服を掴んだ。


「タケシのこと掴んだって一緒に落ちちゃうよーー!!」

「そんな事に・・・ならねぇよっ!!」


 タケシを掴んだ紅葉は、斜めになっているパイプを鉄棒のようにして膝裏に引っ掛けた。

 縦横だけのパイプでは強度にかける。強化のために斜めに交差するようにして組まれる部分のパイプだ。

 

「すごぉーーい!!」

「お兄さんがお猿さんみたいで助かったね・・・」

 地上でハラハラしながら見ていた女の子たちが安堵した。


「アニメみたい!すごいすごいー!!お兄さんも見た!?」

「うん、ちゃんと見たよ。本当、お猿さんだねー」

「こら桔梗!!聞こえてっぞ?!」


 二人とも落下を避けたことに周囲のほとんどが安心した。


 一番上に登っていた壱葉や、途中まで来ていた双葉たちも下へと降り始めた。


「うしっ!!よーしタケシくん!これから降りるぞ!まず俺に掴まってこの鉄パイプまで戻ろう!」

「うん!」

「じゃぁ、ちょっと体制変えるからしっかり俺の腕につかまって!」


 両足の膝を鉄パイプにかけている紅葉。自身が動きやすい体制に整えるため、身動いだ。ほんの少しだけ、パイプにも負荷がかかり、ガタガタと揺れた。


 その光景をみたサチエだが、一瞬違和感を感じた。


「楓さん」

「どうしたサチエ?」

「私は工事のことは専門外ですが、紅葉さんが足を掛けているあの斜めのパイプ。あれがかなり緩く止められてるように感じるんですが?」

「まさか、あれは補強のための”筋交”だ。此処まで組まれてる足場で緩く止められてるなんて———」


 そう言いながら楓が紅葉の方を見る。


 何度か体を揺らしたりしている紅葉。確かに脚で挟んでいるパイプが動いている。

 斜めのパイプだ。どんどん下へとパイプが下がっている。


「紅葉!!動くな!!」

 走りながら出した楓の声に全員が驚いた。

 紅葉のすぐ近くから見ていた双葉も気づいた。


「パイプが下がってる!!これ以上動くと抜けるぞ!!」

 

 パイプの先端が、パイプを挟んで固定するはずの”クランプ”という固定金具から外れようとしている所だった。


「落ち着け双葉。普通、クランプは上下の二箇所でつけるだろう?上が外れても下が挟まってればそんなにすぐには抜けない。落ち着かないとミスが・・・」



「よっしゃぁ!俺もうパイプに届くよ!!せぇーのっ!!」

「タケシくん動くなっ!!」


 紅葉の静止も虚しく、タケシが紅葉の脚で挟んでいるその今にも落ちそうなパイプを掴んだ。



 ———ガタンッ!!!



 パイプが抜け落ちた。


 下には金具自体が取り付けられていなかった。



 鉄パイプが外れ、紅葉とタケシが共に落ちていく。

 紅葉はなす術がなく、とにかくタケシを掴んで抱え込んだ。

 周りもパイプでも紅葉でもタケシでもなんでも良いからどれかを掴むように飛び出した。



 「きゃぁーーーーー!!!!」



 ———ッドン!!!!





 

 ———




 受けるはずの衝撃がなく、変な背中の感覚に紅葉が目を開けた。

 目を開けてすぐに飛び込んだのは、自分が空中で咄嗟に抱えた怖がるタケシだった。


 そして、上を向くと



「楓っ・・・!!



「まさか人生で最初に横抱きするのが男だなんて思いもしなかったよ。しかもそれがお前とはな」

「感謝しまぁーーーすっ!!」



 走ってきた楓が間に合って、落ちる紅葉とタケシを受け止めた。

 落ちた鉄パイプも、腕の長い双葉と壱葉が足場に這いつくばってなんとか受け止めた。そのため、三人の上に落ちることはなかった。



「めっちゃカッケェーー!!!」

「やっぱ高校生ってすごいんだな・・・」

「工事のパイプってこんな簡単に抜けて良いのかよ?!」

「タケシー!!良かったぁーー!!」

 男の子たちが安堵の叫びを上げた。中には状況に驚き呆然としてしまっている子もいる。



「わーーー!!横山くんもお兄さんも良かったぁー!!」

「もうダメかと思ったぁーーー!!!!」

「キャァーーー!!!」

「お兄さんがお兄さんを抱っこしてるっ・・・!!」


 女の子たちも安心や気持ちを吐露し始めた。


「おや、何かいけない扉を開けそうな子が居ますね・・・?」

 サチエが気付きボソッと言った。

「え?何か言った?」

「いいえ、何も?・・・えっと神部さん」

「だからさっきも名乗ったけど僕、柊ね!!」


 子供は全員揃った。

 楓を筆頭に全員を連れて小学校へと繋がる外されたフェンスへと向かい始めた。



「さて、私は私の仕事をいたしますか」


 そう言ったサチエは、携帯電話を取り出し、工事現場の足場の写真を撮り始めた。






・・・———



「ねぇ!ねぇ!先生!足場が落っこっちゃったんだよー!」

「あれは”抜けた”って言うんだってー!」

「タケシくん落っこちちゃったのー!」

「お兄さんが抱っこしてくれたんだよー!」

「丸太倒しちゃった!」



 先生の元へ無事に戻った子供たちは大興奮。

 先生に1から100まで全部話している。


「本当にありがとうございましたっ・・・!どうしましょう・・このことは・・・警察とかに正直に言ったほうがいいのでしょうか・・・」


 先生はどうしたら良いのかわからずに顔が青ざめている。


「まぁ、子供が善悪の判断つかずに行ったことですから・・・そうですね。しっかりと先生の方から説明してください。ああいう場には入ってはいけないと。

 あの場が”危ない”と認識できるようにお願いします。工事現場の方に関しては我々が業者の方に確認してすぐにフェンスも厳重に固定するように伝えます」


 代表して楓が言う。


「ありがとうございます・・・!!」




「お兄さんたちまたきてねー!」

「お兄さん名前聞いてなかった!教えてぇー!!」

「オレ!もっと腕の力つけるからー!!」



 子供たちの別れの言葉に送られながら、屋敷へと戻った。







「で?楓どうするの?この件」

 走りながら桔梗が楓に問いかける。

 

「気になるから俺がこのまま秘書に連絡する。秘書の判断で副社長にあげてもらおう」

「判断も何もあの足場はアウトでしょ。いくら人が出入りしないことを前提としてたって絶対無いって」

「同感だ」

「俺、楓いなかったらマジで頭から落っこってたからね?!」

「「お猿さんで良かったね」」

「桔梗!櫻!ゴルァアアア!!」


 前方で話すはいつものメンツ。



 後方では、合宿で初めてサチエと会った神部の者たちも話している。



「うまく説明できないけど、なんか変だよね・・・」

 藍が違和感を口にした。


「今まで俺の親父はこう言った建設に関わる案件を何度もやってきた。こんな事今まで一度もない。いくらいつもと違う建設会社だからってこんなに差が出るとは思えない」

 橘が記憶を頼りに頭の中で思考を巡らせた。


「これほど杜撰なら多分既に何回か事故とか起きてるよね。つまり、建設会社の問題じゃないって事じゃないの?」

 柊がニコニコとしながら言った。


「・・・柊。どういう意味だ・・・?」

「第三者の介入だよ!」



 あっけらかんと言ってる割に内容が物騒だとサチエは一番後ろにいながら感じた



「物騒な話になってきましたね・・・」

「サチエなんか言った?!」


 かなり前方にいるのに双葉が何かを察知してきた。


「雲行きが怪しいなと」

「サチエ!何言ってんのめっちゃ晴れてるじゃん!!」

「紅葉さんはそのままでいてくださいね」



・・・———



 



 午後は休みだ。

 


 しかし、サチエには休みがない。





「ハイッ!肉!!」

「どうも〜!」

「ハイッ!野菜!!」

「どうも〜!」

「ハイッ!最後の香り付け用バターここに置いておきます!」

「どうも〜!」



 サチエとトヨさんの連携で、夕食もすぐに終わった。


 神部の高校生たちは”休み”と言いながらも、それはあくまで肉体の休みであり、本を読む者、何か資料を見ている者、勉強をしている者・・・そう、大体が何かしらしている。





 あとは各自勝手にお風呂に入って寝るだけ・・・の状態だ。

 今日は午後は運動はしてない。紅葉以外は夜食の心配もないだろうと考えたサチエは、片付けや明日の仕込みを終わらせて別荘の外・・・庭まで一人で来た。






 陽が落ちた暗い裏庭で、弾ける小さい光が見える。





「サチエさん、花火?一人でやったら危ないよ?」


 萩がやってきた。



「ほとんど子供たちだけで合宿に行かせる私の上長です。これくらいの火遊びくらい問題ないでしょう。私もちゃんと責任持って自分で始末します」


「・・・僕もやって良いかな?」

「もちろん」

 ニヤリとサチエは笑った。



「高校生の夏休みといえば、補修授業、お祭り、花火、深夜徘徊、友達の家にお泊まり、夏のコミケ、夏までに誕生日が来る人は原付の免許を取りに行ったりとかですね。花火大会の花火はもう見たのですが、手持ち花火をやってなかったので持ってきたのですよ。花火って薬局で簡単に買えるんです」


 そう言って持ち手がボール紙の花火を萩に差し出した。


「僕、初めて手持ち花火やる」

「では、萩さんの初めてを私が頂きます」

「うん!」

「・・・失礼いたしました。萩さんも、そのままでいてくださいね」

「えっ?!僕なんか変だったかな?!」



 萩の言葉を無視してサチエが100円ライターで火をつけた。



「・・・っ!!わぁ・・・綺麗。小さいけど綺麗だね」

「はい、そうなんです。みんなでワイワイやる花火もいいですが、こうやってしっとりとやる花火もなかなかですよ」



「あの・・・サチエさん。僕っ・・・!」

「なんですかその切羽詰まった感じ、告白ですか」

「この前の、ベビーカー坂道事件の時ので・・・っ!」



「あぁ、萩さんがベビーカーを受け取りに行かなかった件ですね」




 楽しそうな光景なのに、萩の喉が苦しく詰まった。

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