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神部家のメイド、サチエです。 〜清掃員からメイドになりました〜  作者: 杉崎 朱


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第61話 『蒟蒻畑俺も好き!!』




「サーーチーーエーーーーー・・・」

「紅葉さん、こんばんは。大方お腹が空いたのでしょうね」

「流石サチエっ!!なんか食べたい!でも冷蔵庫のもの勝手に食べたら怒られる気がしたから先に聞きにきた!!」

「賢明な判断ですね」





 夜、サチエの部屋に紅葉がやってきた。




 初日から沢山運動をした。夕飯を鱈腹食べたが、やはり減ってしまった。空腹でも寝てしまえば良いと考えていた紅葉だったが、空腹の方が圧勝。諦めてサチエに食べ物を貰いに来た。


「やっぱり腹減るよねー」

「なんだ、双葉もいたのか。まぁ身長でかいのに俺より晩飯食ってなかったもんな」

「俺は紅葉ほど動いてはないけどね」


 サチエの部屋のソファーで溶けるように項垂れていた双葉。


「長距離走、短距離走、柔道、縄跳び、坂道ダッシュ2本やったんです。インドアの男子高校生だって夜食ぐらい食べますよ。なんの問題もありません」


 そう言いながらサチエは椅子から立った。


 調理場へと向かったサチエと紅葉と双葉。


 サチエは自分の部屋から持ってきた袋をガサゴソと漁る。袋の中を取り出して鍋を用意する。


「献立を最終日まで見ました。確かに栄養バランスは良い感じでした。が、しかし。男子高校生にこれほど運動させておいて、夜食なしで生きていけると思っているのですかね?甘いですね」


 ドン!と調理テーブルに出したのはインスタントラーメン。


「ウハーー!!袋麺じゃん!サチエわかってるぅー!しかもサッポロ一番!あ!チキンラーメンもある!桔梗呼んでくる?!」

「でも夜中にラーメンかぁ。やってみたかったけどこの時間だと凄く背徳感があるね!明日の昼ごはんとかだめ?あまり夜食食べないからわからないけどオニギリとかが一般的なんじゃないの?」


 


「明日の昼だと、あまりにも白昼堂々過ぎて私が強制送還されます。私は良いですが皆さんは?」

「大丈夫だって!全部俺が食ったことにすればいいじゃん!俺なら今更だし!」

「でも背徳感・・・!」


 長期間家出をしていた者が夜食の発起人なら、今更怒る人もいないだろうと紅葉は自分で提案する。そして、双葉は深夜にこのような食事をする事をまだ少々躊躇っている。

 

「双葉さん!若いのに何言ってんですか?!普段昼間ならあれほど私のお菓子を食べていると言うのに!あと、”背徳感”は最高のスパイスですっ!!」

「サチエそれなんか違くない?」





 サチエはコンロに二つ、水を張った鍋を並べた。


 沸かして、インスタントラーメンを茹でる。

 冷蔵庫から取り出したるは卵。落とし卵をするつもりだ。


 静かな別荘の調理場に、ぼこぼこと沸騰した音が響き始める。


「・・・———っは!ヤベェ!!寝てた!!あ・・・起きたら更に腹減ってきた」

 うとうとし始めた紅葉。



「・・・なぁ、こんなの絶対全員腹減るだろう?アイツら自分達でなんか持ってきてんのか?」

 双葉が不審がった。



「あれじゃないですか?カロリーメイトとか、ウイダーインゼリーとかじゃないですか?もしくは蒟蒻畑とか」

「蒟蒻畑俺も好き!!」

「何、芋食ってんの?」




 チキンラーメンは麺に味が染み込んでいる商品だ。

 他のインスタントラーメンのように、後からスープの粉末や液体を入れるタイプとは異なる。



 よって、茹で始めて早々に香りが漂うのだ。



「サチエ!!俺、チキンラーメンの茹で時間1分じゃなくて3分派!!」

「透き通るくらいで、ぬたくたに茹でられた麺が好みなのですね。実は私もです」

「そうそう!!サチエわかる奴ー!」


「うわ・・・めっちゃいい匂いじゃん!なぁ、ちょっと食わせてよ」

「もちろん!家じゃ禁止されてるけど絶対知っておいた方がいいって!」


「じゃあ、俺も頂こうかな」



 紅葉と双葉が話す後ろに桔梗が



「桔梗?!」

「あ!桔梗!チキンラーメンだよ!!ちょっと食べ」



「何故、俺に一声かけない?」



 その桔梗の後ろから更に声が聞こえた。




「「楓?!」」

「おや、楓さんもお腹空かれたんですか?仕方ないですね」


 サチエはそう言ってもう一つ鍋を取り出して水を張りコンロに置いた。


「調理場は扉がないんだ。俺たちは部屋が近い。換気扇を回してたってこの匂いはわかるだろう」

 言いながら二人が寄ってくる。鍋の中に興味をそそられ見学を始めた。


「ってなわけで、俺たち二人とも匂いに釣られてきちゃいました」

「桔梗さん、その手を離してください。それは私のカップヌードルチリトマトです」


 桔梗の手には、サチエの夜食が収まっていた。







 調理場にメイドと男子高校生4人が集まった。

 紅葉以外は初めてインスタントラーメンを食べる。




「うわっ・・・何このラーメン、めっちゃ美味いんだけど中毒性高そう。既に明日も食べたいんだけど」

「へー、沸かすところから含めて10分程度でこの味なら手軽で美味しくて良いね。なるほど、インスタント麺の需要が高いわけだ」

「・・・こう言うのを食べているのか。馴染みがないから比較も出来んが。サチエ、お前のも少し食べる」


 ちょうど、自分のカップ麺を食べようとしていたサチエ。

 楓の言葉にあからさまに嫌そうな顔をした。


「なんだ?一口だけだ。これも勉強みたいなものだ。自分の分が減るのがそんなに嫌か?」

「違いますよ、私のはアレンジしてあるのです」


「アレンジ?何したの?」

 紅葉が興味津々にサチエの手元を覗く。


 サチエは、ゆっくりと自分のカップ麺の蓋の残り半分を開けた。

 そこに見えるのは———



「わーーー!?サチエ、チーズ入れてる!!背徳の極み!!」

「極上アレンジですよ」



 ほかほかの湯気から見えるは、赤いスープと麺の大半を覆い隠すように鎮座しているチーズだ。スーパーに売られている薄くて四角いプロセスチーズ。



「絶対うまいだろこんなん!!」

「俺も一口食べたい!」

「へー、サチエやるね」

「よし、まずは俺が味見をしよう」



「まったく、仕方ないですね」






・・・———


・・・———



「櫻おはようっ!!」


「・・・おはよう。なんでそんなに元気なの?お腹空かないの?」


「えっ?!あぁ、めっちゃ空いてる!昨日の夜とか空きすぎてしばらく寝れなかったもんね!!」



 翌朝。朝食前の時間。

 げっそりとした顔の櫻が紅葉に話しかけた。


「だから、そんな状態でなんでそんなに元気なの?」

「もうすぐ飯食えるからだって!ほら!急ごうぜ!!トヨさんが作ってくれてるってば!」






「・・・夕べはどちらに?」

「あぁ、ちょっと散歩を」

「この辺は住宅も別荘も少ないです。気をつけてください。もし今日も夜に出かけるなら私に声を掛けて下さい」

 壱葉に話し掛けられて少々気まずい楓。



 ぞろぞろと高校生が食堂に集まり始めた。



「おはようございます!」

(しゅう)さん、おはようございます」


 小柄で可愛らしい見た目の萩がサチエに挨拶をした。サチエも萩の事は覚えたので名前を呼んで挨拶をした。



「萩、もう名前覚えてもらったのか?!」

「たまたまだよ。きっとみんなすぐに覚えてもらえるって」

「そうかなぁ〜・・・サチエさん、おはようございます」



「神部の皆々様、おはようございます」

「絶対覚える気ないよこの人」








 朝食後、十分に時間を取ってから運動が始まる。


「紅葉、なんだそのタスキは?」

「楓っ!ちょっ!タスキじゃなくてギターストラップって言うの!新しいのなんだけどさ、なんかちょっと硬い気がして馴染みが悪い感じがするから一緒に運動して俺と一心同体になってもらおうかって?!」


「よくわからんが紐だからな、気をつけろよ」

「ストラップ!!」




・・・———


 午前の運動も終え、昼食のチキンソテーも食べ、休憩も取った。

 サチエはみんなが休憩をしている最中も、トヨさんと洗い物や、今晩・明朝の食事の仕込みを行う。


 そして午後の運動が始まる。


 しっかり休んで体を整えた一行は、別荘に向かう坂道のダッシュだ。もちろん、登りだ。

 勾配が急なこの坂はトレーニングにはもってこいの坂である。

 別荘地なだけにそんな事をする人はいないが。




「ぜーー!!はーー!!ぜーー!!はーー!!」

「一流・・・組は・・・頭だけじゃなくて・・っ!筋肉も化け物っ・・・!!だ!!」


 比較的体の線が細い”(あい)"が、息をするだけで精一杯。

 筋肉も化け物だと言った”羅漢らかん”はこの中でも体格が良い方だ。サチエに最初の挨拶で『力仕事はなんでも言ってください』と言った者。しかし、その羅漢でも叶わないと言うのが例の六人だ。


 後ろから、自転車のカゴにスポーツジャグとペットボトルを乗せながら並走してきたサチエ。


「いえいえ、彼らも平気な顔をしているわけではありません。ちゃんと息は切れて汗もかいてます。皆さんと変わりませんよ」

 二人にドリンクを差し出しながらサチエがフォローを入れた。



「サチエさんっ・・・、———っありが、とうっ・・・!」

「優しいなっ・・・!でも・・・ここまで・・・息っ切れてな・・・いからっ・・!」

「あれは多分痩せ我慢です」





「・・・時間まだあるな。よし、少し休んで坂道ダッシュをもう一本やったら別荘に戻ろう」



「えええーーー!!!」

「嘘だろっ・・・!」

「鬼だー」


 楓が、当初の予定から急勾配の坂道ダッシュを一本増やすと言った。皆、思い思いに少々文句は言うが、大人しく言うことを聞く。


 周囲に人は少なく、ペンションを借りている複数の家族しかいない。距離を空けて、子供と親のはしゃぐ声が聞こえるくらいだ。

 そんな中、全力疾走で坂道を登ってきた少年たちが道路に座り込んで休憩をしている。




 平和で微笑ましい光景だった。




 サチエの作ったスポーツドリンクを飲みながら息を整える一行。

 飲み終わったペットボトルに、ジャグからまた注ぐ。


 自転車でも通るのか、ガタガタと徐々に近づくタイヤの音。


 少年たちの疲れている体にはその音さえも心地よく聞こえていた。



 音の正体を見るまでは———




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