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神部家のメイド、サチエです。 〜清掃員からメイドになりました〜  作者: 杉崎朱/日向茜


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第60話 『あずき色のジャージだと思いましたか?』



 楓(かえで)、桔梗(ききょう)、櫻(さくら)、壱葉(いちは)、双葉(ふたば)、紅葉(もみじ)。


 この六人と合宿に行くと思っていたサチエ。

 出発間際に新事実を知ることになる。




 屋敷に着くと、今日は大きいバスがあった。



「椿さん、おはようございます。少ない人数なのに大きなバスで行くんですね」

「あぁ、まぁ隣に人乗るようなバスにするのもねー。片道4時間かかるからさ。流石にね?ってことで毎年大きいバスにしてるんだよ!」


 中は上質なシートに電気はシャンデリアみたいなキラキラがついたバスだ。

 神部の所有している車だ。


「まぁ、それはわかりますがたったの六人にこの豪華さ・・・やはり神部の規模というのは———」

「六人?なんでそんな少ないの?」

「・・・むしろ他にどなたが?」




・・・———




「萩(しゅう)!」

「初めまして!よろしくお願いします」


「柊(ひいらぎ)」

「わぁー!!本当に女の子のメイドさん続いてたんだねっ!」


「橘(たちばな)」

「っす、よろしくお願いします」


「菊(きく)」

「初めましてこの度はよろしくお願いいたします」


「葛(かずら)」

「こちらが噂の・・・」


「柳(やなぎ)」

「神部 柳です。宜しくお願いします」


「羅漢(らかん)」

「よろしくお願いします。力仕事はなんでも言ってください」


「藍(あい)」

「・・・夏休みに合宿に強制参加だなんてかわいそうに」




 椿に、新たに合宿メンバー8名を紹介された。




「14人・・・?多くないですか?殺す気ですか?」


 新事実に驚くサチエ。


「大丈夫!現地には助っ人の”トヨ”さんがいるから!!」

「お名前からして絶対ご年配じゃないですか。無理させられないじゃないですか」

「トヨさんパワフルだから大丈夫だよ!多分ね!」

「多分をいう言葉を使用した者を罪に問いたい」


「みんな植物の名前だから覚えやすいでしょ?」

「名前はわかっても顔と一致させるのは大変です。よって、今回は一致させません」

「横暴?!」

「どちらが?!」




 しかし、合宿の人数を事前に確認しなかった自分に落ち度があると反省をした。

 諦めて、今新たに出会った神部の8名の高校生にサチエは改めて挨拶をする。




「今まで何故屋敷ですれ違わなかったのか疑問ですね。


 初めまして。神部家のメイド、サチエです」



 片足のつま先を一歩下げ、メイド服の裾を持ち上げてお辞儀をした。



・・・———


・・・———



「ほう、なかなかに」

「結構良い建物でしょ?大き過ぎないから掃除も楽だよ」




 着いたのは高原。


 東京と違いかなり涼しい。

 緑が多い茂一帯。蝉の鳴き声が東京より聞こえる。


 鳥の囀り、木漏れ日、あとは時折野生動物もいる。


 大きな駐車場にバスが止まり、全員が降車した。



 駐車場から続く道の先には門があり、その先に大きな家がある。


「櫻さん、こちらが”大き過ぎない”別荘ですか?」

「うん、軽井沢の別荘はこの二倍だからさ。大きいと色々大変でしょ?多分トヨさんがある程度やってはくれてるだろうけど」


 神部の屋敷に比べればそれは小さいが、そもそも一般家庭の一軒家と比べると・・・比べ物にならない。

 『この桁外れの金持ちたちが』と思いながら、サチエは自分の荷物をバスから下ろした。




「11時か。スケジュール通りだな。このまま各自部屋に行き、着替えてから昼食だ。

 12時には昼食だ。遅れないように」



 楓の声かけに全員が返事をした。


「ほぅ、未来の社長というのは皆様の前ではこんな感じなのですね」


 確かに普段とそこまで変わらないが、サチエの前では割と年相応なわがままな顔を見せる楓。キリッとした部分だけしか見せないのは久々のような、新鮮味もあると感じたサチエだった。


「楓は普段はどんな感じですか?僕たちは櫻や桔梗たちほど一緒にはいないので」


 一人に話しかけられた。


「あぁ、結構子供っぽい反応をされる事もありますよ。今は全然違いますけど。でも、虚勢ってわけでもないですね。今の態度も、子供っぽいところも、全部ひっくるめて楓さんなのでしょう」


「へぇ・・・ちゃんと見てくれてるんだね。凄い、噂通りだっ!」

「・・・そういえば、バスに乗る前もどなたかが言ってましたね、『こちらが噂の・・・』とか。噂ってなんでしょう、何をお聞きになったのでしょうか貴方は・・・えーっと」


「僕、萩(しゅう)です。あぁでも無理して覚えなくて大丈夫ですよ、いきなり何人も紹介されて大変でしょうから」

「はい、大変です。いやまぁ名前自体は覚えられますけど、顔と一致させるのに流石に少し時間がかかります」



 神部の今高校生の者たちのほとんどは、植物の名前から取っている。

 その為、『”コウゾウ”だっけ?”ユウゾウ”だっけ?』や『ユウジ?ユウキ?』という間違えは起こりづらい。



「せっかく私に話しかけてくださったのです。貴方はすぐにでも覚えようと思います。

 あと何か自己紹介みたいにキャッチーなものだったりありませんか?なんでもいいです」


「えっ?!突然・・・えーっとあっ〜ぼく、ピアノ弾くんです。ピアニストやってます」

 にっこりと笑った。


 なるほど。

 サチエは萩に気づかれないように頭の先から足の先まで見てインプットした。


 身長は他の神部の者に比べて少々低め。

 もやし感やひ弱感はないが、体つきが良い方ではない。



 しかし、鞄を持っている指は細く、長く、そして綺麗だ。



「(これは幼少からピアノをやっているパターンですね)」

「あ!今、ピアノなんてやっててこの体力強化合宿についていけるのかって思ってるでしょ!」

「いえ、まだそこまでは。内容も存じませんし」


「僕は、指を怪我しないように参加しないのもあるけど、長距離走とかはみんなと一緒にやるからね!」

「東京より涼しいとはいえこの真夏に長距離走やるんですか。神部もスパルタですね」

「きっと、それがいつか役に立つからって」

 萩の笑った顔を見たサチエ。よく笑うなという印象だ。そして、あぁこういう顔が高校生なんだよなと謎の安心感を感じた。


「サチエ、トヨさんを紹介するよ。こっち」


 桔梗に呼ばれた。ガラガラとキャリーケースを引き始めた。2つも。



「・・・女の子って荷物多くて大変だね?」

「服などは一つに収まってます」

「もう一つは?」

「トップシークレットです」

「へぇ・・・」


 ニヤリと笑うサチエに、伏せ目がちに何か考えながら返事をした桔梗。

 二人の間では特に問題のないやり取りだが、知らぬ者たちからすると少し怖い光景に映った。



「桔梗に聞かれて『トップシークレット』で通したよ・・・」

「凄い!あの子興味そそる〜!」

「強者だな」



 サチエが名前を覚える気もない人達が後ろで話していた。




・・・———



「はい!どうも〜!トヨ子と言います。みんなトヨって呼んでます。よろしくお願いしますね!」

「初めまして。神部家のメイド、サチエです。この度はよろしくお願いいたします」


 深々とお辞儀をしたサチエ。

 ショートカットのパーマをかけたおばあちゃんだ。

 ニコニコしており、サチエと同じように大きめのメガネをかけている。


「トヨさんには毎年手伝ってもらってるんだ」

「今年はお盆なのに良かったのですか?」


 一般的には里帰りする時期だ。子供や孫が帰省するのではとサチエは考えた。

 

「うちはね、7月がお盆なの!子供も孫もひ孫もみんな来てくれたのよ!だからもういいのよ!」

「そうでしたか、助かります。感謝します・・・ひ孫っ?!」

「はい!どうも〜!」



 

 昼食はトヨさんが準備をしてくれた。よそって食べるだけだ。

 しかし、食べた後は夕飯の仕込みがある。翌朝の朝食、昼食・・・そう、サチエはずっとご飯を作り続けなければならない。そして、学生たちの運動着の洗濯もある。


 その都度準備していたら大変だ。サチエは頭の中で先手を打ち始めた。


「(今日の夜の段階で明日の夕食の仕込みを出来るところまでしておこう。トヨさんの負担も軽減して、私も楽ができる。洗濯は多分この家のことだから乾燥機付きの全自動だろう。すると後は・・・掃除?掃除をするのか?まぁ掃除は一旦置いておいて、後は買い出しがどうなってるのか確認を・・・)」


「あ、サチエ。サチエも運動着持ってきたよね?」

「はい。別に運動はしませんが動きやすいと思ったので」

「・・・うん、サチエは運動はしないけど、監督だから一応メイド服じゃない方がいいだろうし」



 桔梗の言葉が一瞬わからなかったサチエ。



「監督?」

「うん」

「引率的な感じは運転手の方では?」

「うん。引率の運転手も神部の人だけど、別に合宿の内容をちゃんと見てくれる監督じゃないから」

「私も監督ではありません」

「いや、監督はサチエだよ?椿から言われてない?」


「あんのヤロウ・・・(聞いてないですね)」

「あ、うん、聞いてなかったんだね・・・」

「作戦の組み直ししてきます」

「よくわからないけどよろしく」


 



・・・———




「えーー!サチエ何そのなんかおしゃれな感じのジャージ!!それわざわざ今回の為に買ったの?!」


 運動前の集合時間。

 サチエは監督として合宿に携わるなんて思っていなかった。食事の負担が増えただけのただのメイドとして参戦予定だった。しかし、メイド服以外でも一応準備しておいた。


 それが、学校のジャージである。


「これは、我が校のジャージです」

「なんかおしゃれなんだけど!!」


 黒地に所々赤色が入っているジャージ。中のTシャツはただの白地だが、羽織とズボンが紅葉のセンスに召したようだ。


「かっこいーー!!俺らの学校のより断然いいじゃん!ってかサチエがジャージ着るって言うから色々想像してたんだよなぁ!ほら、おさげだから———」

「あずき色のジャージだと思いましたか?」

「まさにそれ!!」


「さぁ、全員集まったか?」


 楓の声の方向に全員が向く。


 これから体力強化合宿の本番だ。



「はい、お名前はまだ一致してませんが、14名全員お集まりです。では、開始といたしましょうか」



 ”監督”であるサチエが音頭を取った。



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