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神部家のメイド、サチエです。 〜清掃員からメイドになりました〜  作者: 杉崎 朱


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第58話 《神部 紅葉という男 1》



 入学した小学校。それなりに楽しいけど、違う学校に通ってる同じ年くらいの子はもっと楽しそうにしてたのをよく覚えている。


 大きな公園へ遠足に行った時だったかな。

 俺たちは静かに、ただ周りを見て観察して先生の言う通りに歩いていた。


 他の学校の子たちは、列を乱してはしゃぎ回って、引率の先生たちに叱られていた。

 へぇ、『はしゃぐ奴っているんだな』ってなんかよく分からない衝撃を受けたのを覚えてる。


 その子どもを見て怒る先生、呆れる先生、笑う先生。

 一緒になってやりたそうにしている子。

 怒っている先生を見てオロオロしている子。

 馬鹿じゃないの?と言っている子。


 


 『自由なんだな』って思った、神部の家に生まれた俺———紅葉。





・・・———



 ———小学校二年時



「僕のお父さんが作ったゲームなんだ!やってみてよ!」


「ゲーム・・・」


 仲の良い一人のクラスメイトが学校にゲーム機を持ってきた。

 もちろん、学校にゲームは持ってきちゃいけない。


 ダメなこととはわかっていたけど、やったことがないゲームに俺は興味が湧いた。


 休み時間にあまり人が来ない階段でそのゲームをやらせてもらった。

 その子のお父さんは、ゲーム機本体を作ったのではなく、ソフトを作った人らしい。



 小さい画面に映る映像が、キャラクターと言われるけど何なのか判別つかない黒く潰れた何かが自分の操作通りに動くのが面白かった。



「大体みんな、ゲームとかそういうのは家でもやらせてもらえない人の方が多いよね?!何でお前んちはゲームとかテレビとか漫画とか良いの?!」


「だってお父さんが作ってるんだもん」

 そう言って彼は笑った。


「うちはさ、神部くんの家みたいに昔からの大金持ちじゃないから!お父さんは普通の家に生まれて、ゲームとか漫画とかアニメが好きで好きでゲームを作っちゃう人になったんだって!ゲーム作ってからお金をいっぱい稼ぐようになったからさ!

 

 だから、お父さんも僕に沢山ゲームとかやって良いって!でも、そうするとここの学校に通うとみんなそういうのやらないだろうからって・・・僕の事、私立の学校に入れるか家の近くの学校に入れるか迷ったらしい!」


「何で迷うんだよ?お金があるなら私立通った方がいいんじゃないの?」


「僕もよく分からない!”周りと話が合わなくなるかも”ってお父さんは言ってた!」





・・・———




「あぁ、なるほど。紅葉さんはそういったお考えでしたか」

「え?!じいや俺なんか間違ってる?!」


「違うと言えば違いますし、合っている部分もありますねぇ・・・まぁ、そのゲームを持ってきたお友達のご両親がどのような思いで、そのお子さんを紅葉さんと同じ学校に通わせているかまではじいやはわかりませんが。


 あと、お金・・・がある家が必ずしもこの神部のお屋敷と同じように、厳格な教育を行っているとは限りませんよ」



 俺は帰ってからその日に友達と話した事をじいやにも話した。

 親は俺が寝る頃に帰ってくるからなかなか話ができない。


 俺が話した内容に、じいやは少し驚いて、でもいつもの柔らかい顔で返事をくれた。




「紅葉さん、まずですね。私立の学校と言うのは確かにお金が掛かります。特に、紅葉さんの通っている学校はこの辺りでは一番お金がかかるかもしれませんね。

 なので、確かに『お金を持っていないと入れない』と言うのも、正しいです」


「良かった!」


「しかしですね。お金を持っていて私立の学校に通っているから『偉い』わけではないんです。通えることを誇りに思うのは自由ですが、通っている人と通っていない人をお金で比べるのは違うんです。


 じいやも、私立ではない学校に通ってました。”学区”が決まっていたので、その学校に通いましたよ。中学校までは」


「でも、お金がないと私立には行けないんでしょ?!」

「お金もですが、その学校によって、学力・・・知能・・・そうですね。頭の良さという表現はあまりよろしくないですね。うーん・・・」


 じいやが悩んでしまった。



「——あ、その学校が決めた基準に達していないと通えないんです。紅葉さんも入学時に簡単な質問をされましたでしょう?”入学試験”」

「された!超簡単だった!」


「それが出来ない、分からない人もいるのです。じいやが紅葉さんと同じ歳の時には、きっとどんな話をされて、なんて答えれば良いのかなど分からなかったでしょう」


「じゃあ、その”入学試験”が出来ないと、お金持ってても学校に通えないって事?」

「えぇ、おっしゃる通りです」



「じゃぁ、頭の良さと、お金を持ってないと入れないって事?」

「そうですね。しかし紅葉さん。私立の学校というのは、その学校が独自で色んな事を考えているのです。なので、勉強を大事にする学校。人間関係を大事にする学校など、それぞれなのですよ」


「へー」

「これは、あくまでもじいやの考えです。学力や生きていくための知識を学ぶのは、その『公立』の学校でも十分なんです。それよりも、若くから、頑張ってより多くの知識と経験を積むのが私立の学校だと考えております。


 なので、その"より多く"の部分や分野は”どこの学校に入るか”だと思っております。



 ですが、私立の学校に行かなかったからと言って、公立の学校がダメだなんて思いません。

 公立の学校で本来は十分です。また、公立ですら、学校ごとに違いがあります」


「例えば?!」

「北海道の小学校なら、雪が多いから、雪に関する知識や授業などもありますでしょう。沖縄なら沖縄の特色を盛り込んだ教育内容でしょう」

「じゃぁ、公立か私立かも大事だけど、そもそもどこに生まれたかってのも大事ってわけだね」


「そうです。


 紅葉さんの学校で、ゲームを持ってくるその彼は、校則は破っておりますが、なかなかに珍しい人ですね。褒められたものではありませんが、でもそういうお友達が一人いても良いでしょう」

「うん!すごく面白い!色んな事知ってるし!!」



「1+1が分からないと入れない学校もあれば、1+1が2とわからなくても入れる学校だってあります」

「1+1が分からないとまずいだろう?!」


「それは、その学校が決めるのですよ」

「そんな学校があったら行ってみたい!」



・・・———



 小学校四年生になると、さらに色んな事に興味が湧いたそのクラスメイト。

 クラスに溶け込めているかというと少し浮いていたが、俺は好きだった。


「ねぇ、”ジュディアンドマリー”って知ってる?」

「どこの国の貴婦人だ?」

「違うよー!ねぇ、これ聞いてみてよ!」



 唐突にイヤホンが出てきた。

 CDウォークマンが鞄の中に入っていて、コードだけ出している。


「あと!このバンドも俺好きで!あとこっちの”西川の兄貴”も良いよ!お父さんのおすすめはこっちなんだよ!お母さんはELTが好きなんだ!」


 ウォークマンの本体はカバンの中に隠すのに、CDは鞄から出す。


「あんま聞かないんだよなー、J-POPって言うの?なんか俺んちクラシックばっかり聞いてきたから日本の最近のは耳にしてもただうるさいって感じしかしなくて———」


 耳に突っ込まれたイヤホン。

 普段ならなんかギーギーする音と大きな歌声が聞こえるだけだった。


 でも、この時は違った。


 曲のイントロの音で初めて高揚を感じた。

 この次はどんなメロディーが流れるのだろうかと続きが気になった。


 歌い出しは女の人だった。


 あれだけただ『うるさい』と思っていたギーギーと鳴っているギターの音が格好いいと思った。




「———休み時間、もっかい聞かせてっ・・・!!」




 それが俺と音楽との出会いだった。





・・・———



・・・———





・・・———




———小学校六年生時




「え?中学別の学校行くのか?!」

「うん・・・やっぱりこの学校合わないかなって思って。趣味の話とか紅葉くんしか出来ないし」

「俺がいるじゃんっ!!学校終わってから他の友達って作って遊べばいいだろ?!」



 今考えると、こいつが俺のそばからいなくなると、俺は世の中の情報を受け取る術が無いから時分勝手なことを言っていた。



「友達作ろうとしても、この学校の名前の威力が凄くて・・・公園にいる同じ歳くらいの子に声かけてちょっと話したんだけど、学校の名前聞かれて素直に言ったら避けられちゃったよ」

「てか、知らない人に話しかけに行ったのか・・・お前案外行動派だな・・・」



 一見すると、サラサラのぺたんこ坊ちゃんヘアーに丸めがねだ。根暗に思われることもしばしばあった。



「別に、僕自体はその辺にいるただの小学生なのに、学校の名前でこんなに変わっちゃうんだって思ってさ。みんなカードゲームとかやってていいなーって思ってさ。ほら、僕兄弟はみんな女だからカードゲームって言ったらトランプとかUNOになっちゃうから」

「あとは花札か?」

「そうそう!本当にそれ!!」


 

「中学が別になっても、付き合いは続けるからな。俺とも遊べよ」

「・・・僕、学校終わって紅葉くんと遊んだこと一回もないよ。いつも同じ家の人と一緒に帰ってそのあと塾とかお勉強なんでしょ?」

「〜〜〜確かにっ!!」



 まだ携帯電話を持たない俺たち。

 学校が違えば接点が薄れる。

 繋がりが欲しかった。できれば俺が好きな事で。



「そうだっ!!俺と一緒にバンドやろうぜ!!」

「紅葉くん、接点を残す方法を先に考えようよ」



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