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神部家のメイド、サチエです。 〜清掃員からメイドになりました〜  作者: 杉崎 朱


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第56話 『なんだそのスライムって』



 ———合宿2日前




「そういえば、なんの合宿なんですか?経営学なら普段から屋敷でやってますよね?」




「え?サチコちゃん、何の合宿か知らなかったの?」

「はい、”合宿”としか聞いてませんでしたから」


「おい。椿」

「なんだよ楓?!お前般若の面より怖い顔してるぞ?!」

 サチエに合宿の詳細を告げていない事に楓は椿に怒りを隠さない。



 執事室で話は始まる。

 そう、サチエは今回自分が連れていかれる”合宿”が何の合宿かをまだ知らない。



「あれ?そういえばサチエ、最近はよく出勤してるね?家族との時間は良いの?」

 ソファに座ったまま、顔をサチエに向けて聞いた。

「家族は海外旅行の準備で今、絶賛荷物を詰めております。そのため、一緒に遊んでいる時間はないので私はこちらに出勤して小遣いでも稼ごうという話ですよ」

 そのさくらに、紅茶を出しながらサチエが答える。


 メイドが板につき始めた。


「サチエ、自分の荷詰は終わってるのか?」

「楓さん、まず何の合宿か教えてくださいよ。着替えは入ってますけど何の合宿かによって持っていくものを増やしたり変えなくちゃいけないじゃないですか」


「”体力”強化合宿だ」


「体力?」


 意外な答えにサチエも少しばかり驚く。


「そんなことするんですね。勉強だと思ってました。より難しい経営やなんかそう言うことをするのかと思ってました」

「経営陣は体力勝負だ。今のうちから体力をつけなくてはならない。あと護身術やその辺も全部組み込まれている」


「なるほど、だからこその皆さん良い体格をしているんですね。私と同じような豊満ボディがいらっしゃらないわけだ。で、その中でも桔梗さんが一番鍛えていると」

「あぁ。武道で一番腕が立つのは櫻だけどな。桔梗は多分・・・本気を出せば強いだろうが本気が出ないタイプだ」


「・・・また闇が」

「なんか言ったか?」

「いいえ?」


「と!!言うことでサチコちゃん!体力強化合宿なんだよ!!」

「今聞きましたよ」

 結局楓に合宿内容を言われてしまい、怒られると思った椿は詳細は自分から伝えようと口早に言う。



「サチコちゃんには、合宿所の掃除、コイツらの運動着の洗濯、あと朝昼晩のご飯をお願いしたいんだ!メニューは大体はこっちで決めてるからなんかこう適当にそれを作ってくれればOKだから!」

「椿、指示としては最悪だよ。”適当に”なんてサチエが可哀想だよ」

「櫻うるさいっ!!」


「良いですよ。適当にやります。責任の所在は私にありませんので」

 サチエはサチエで、全てがんじがらめにされるより、”適当”と言われた方が気が楽だ。

 適当と椿が言った手前、何かあったら責任を取るのは椿だからだ。


「・・・もうちょっと詳しく後でお話しするね」

「いえ、私はそろそろ退勤しますので。自由研究の宿題だけが残っていたんです。失念しておりました。合宿前に終わらせてきますので」

 ”適当”と口走ったことを今更怖くなり弁解しようとした椿。『責任の所在は私のありませんので』の言葉に恐怖した。しかし、この後の約束をするりとサチエにかわされる。


「適当はだめ!嘘!!冗談だか——」



「サチエの学校でも”自由研究”が出てるのか?」


 椿の言葉を遮り、”自由研究”に食いついたのは楓だった。



「サチエの学校”でも”?と言うことは・・・」



「俺たちの学校でも出てるんだよねー!全生徒共通で出てるんだよ、”自由研究”!」

「そうでしたか。そちらの学校でもあるんですね」

「研究って言ったって小学生の時から毎年やってるんだ。過去の自分の研究に加えて他の生徒の過去の研究と極力被らないようにするなんてネタ切れもいい所だ」

 楓が不機嫌になった。


「そんなもの、スライムの研究でもすれば良いんですよ。きっと楓さんたちの小学校ではやりませんでしたでしょう?」


「なんだそのスライムって」


「・・・シャボン玉はご存じで?」


「馬鹿にしてるのか。童謡にあるだろう。スライムとは形のないもの・・・原型を留めないもののことだろう?」


「この感じだとやはりご経験は・・・」


「ないからやってみたーい」

 楓を押し退けて双葉が名乗り出た。


「では、今からやりましょう。夏の研究です」


 サチエのメガネが光った。




・・・———


・・・———




・・・———


「これ、自由研究って言うか、ただの遊びだよね?あ、でも楽しそうかも」

 たまたまやってきた桔梗も参加することになった。

 テーブルに並べられた普段見ないものを見て、気分が良くなったらしい。




 場所は実験室・・・なんてものは流石に神部の屋敷にはない。

『研究施設はあるけど、ちょっと遠いのと流石に当日アポ無しじゃねー』

 と椿に言われたサチエだったが、別に爆発物を扱いわけでもない。その為・・・




「ねぇっ?!執事室でやるのおかしくない?!」

「ちゃんとタイムカードはもう切ってます。あと、材料は私のお小遣いですので」

「俺の質問の答えが何一つ入ってないっ!!!」





「流石にスライムって・・・サチエたちは小学校の時に流行ったり作ったんでしょ?子供っぽくない?」

 櫻がちょっと不安に思った。しかし、”スライム”に触れたことのない自分達では世間一般のその感覚がわからない。


「また周りのお目目ですか櫻さん。良いんですよそんなものは。それに私たちはまだ子供です。

 材料と写真と化学式羅列しておけば高校生の自由研究っぽくなりますよ。要は見せ方です。あとは応用とか書いておけば更に"それっぽい"です」


 櫻の不安を一刀両断。そして、ローテーブルに並べた材料をそれっぽく撮影するサチエ。


「てか、化学式ってどんなのになるの?洗濯糊の化学式ってあるわけ?」

「その辺は皆様の方が聡明でしょう。少し調べればピンと来るんじゃないんですか?さて、私もスライムにするので、皆さん、スライムにする方はどうぞここから写真やメモや実験をどうぞ」

 ここで夏休みの最後の宿題ができると嬉しくなったサチエはルンルンで進める。


「え。でもここにいる人間全員がスライムを自由研究にしたら流石にバレそうじゃない?」

「俺はコースが違うから大丈夫だけどねー。楓と桔梗と櫻はマズイでしょー」

 一人、学校での専攻が違う双葉は特に問題がない。しかし、他の三人は一緒の研究をしたと”ズル”扱いされる可能性がある。


「では、連盟にするのは?もしくは、結局は同じスライムですが先ほども言いましたように”見せ方を変える”で乗り切りましょう。もしくは1名は巨大シャボン玉にします?」

「サチコちゃん横暴だよそれは。待って、シャボン玉も執事室でヤル気?!」


「いや、一人は正面からスライムの研究、一人は化学式の反応、一人は・・・なんかやってるうちに新しい見方があるだろう。そんな感じで視点をずらせば良いんじゃないか。よし、それで行こう。さ、サチエ、初めてくれ」

「おまっ?!カーッ!!ずるいね!!ずるいね?!」


 楓がスパッと案を出した。それに対して椿が講義する。


「こういうやり方だって必要だ。人間賢く生きない大変だぞ、椿」

「頭のいい人にズルされたら他の人たちはどうするんですかー?!できない人たちの事もちゃん」


「確かにそうかも。まぁたまにはズルして楽しても良いかな」


 真面目な櫻が珍しい事を言った。

 このように勉強などには妥協をしてこなかった櫻。その少しの変化に周りも、喋っていた椿も一瞬止まった。

 サチエは櫻の変化に少し嬉しくなり、より一層気分良く取り掛かる。



「開始致します・・・!!」




・・・———


・・・———





 夕方。


 スライムを自由研究とし、写真やメモもとったサチエ。もちろん現物も持って帰ってきた。

 家に帰ってまとめれば、夏休みの宿題は完全に終了だ。



 歩いて自宅まで帰るサチエ。

 夕方と言っても17時前。夏のこの時間は明るい。夕焼けが出るにしてももう少し後の時間だ。


 まだ空は青く、暑い。風も生ぬるい。

 わざと寄り道をして自宅近くの商店街を通る。


 豆腐屋さんの軒下にある風鈴が揺れた。

 風鈴の高い音が、生ぬるい風を少しでも涼しくしてくれているような気に




「———ならないっ!!」




 やはり暑いのは暑いのだ。

 避難と称して、サチエはドラッグストアに入った。


 飲み物とお菓子を買う。そして店内を一周まわった。

 何気なく見ていたサチエだが、ピンときたものがいくつかあり買い込む。



「これで、合宿もバッチリ・・・」



 ふふふと不気味に笑いながら自宅へと辿り着いた。




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