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神部家のメイド、サチエです。 〜清掃員からメイドになりました〜  作者: 杉崎 朱


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第53話 『八王子ラーメンです』



「シャァーーーーッ!!!神は俺の味方をしてくれたぁーーー!!!」


 執事室で叫ぶ椿。


 数日待ち、サチエから電話で合宿の同行の了承を今電話で貰った。


「椿さん、運が良かったですね!」

 執事長が拍手を送る。




「もうこれで運を使い果たしたろう」

「同意。運を受け取る器が今回ので完全消滅したね」

「・・・聞き間違いなんじゃない?」

「そもそも、サチエがNOって言っても来てもらう選択肢以外ないんだよ椿?」

「え?それって俺行かなくて良いんだよね?あ、でもサチエが行くのかぁ」

「・・・・・」



 執事室で、サチエの返答待ちを待っていたのは椿だけではなく高校生の面々も同じだった。


 各々、言いたいことを包み隠さず言う。


「お前たちね?!なんでそんなに俺に強く当たるわけ?!俺の運が良かったから今回合宿にサチエちゃんがきてくれることになったんでしょ?!楓!双葉!俺をからかい過ぎだ!!


 あと櫻!!聴き間違えるわけないだろう!?


 桔梗!!そもそもお前が勝手に合宿の日程を変えるからこんなことになったんだからな?!


 紅葉ーーー!!お前は黙って言うことを聞けぇえええ!!!!!」



 最後の無言だった、神部 壱葉(いちは)以外に丁寧に突っ込んだ椿。

 高校生たちに色々言われ、一瞬は腹が立つものの、最終的に合宿にサチエを同行させる事が可能になった事実を勝ち取ったことには変わりない。

 直ぐに機嫌はなおった。



「はぁーーー!!これで俺が合宿に行って色々しなくて大丈夫になった!なんとか仕事間に合いそうだ!!今、俺を馬鹿にした件について今回だけは不問にして差し上げよう!!」



「あ、楓。前期の商業施設の売上一覧持ってる?」

「桔梗に渡した」

「ごめん櫻。あとちょっとで渡す。あ、今期新しく稼働し始めた工場の費用のグラフ持ってるの誰?」

「私だ」

「あー!誰か築年数の一覧のファイル持ってる人!紅葉の見てるそれ?」

「俺が見るのは基本楽譜」

「そりゃそうか」


「クソガキどもーー!!」





・・・———





 八月ももう二週目。

 神部の高校生が行うとされている”合宿”は来週だ。


 そして、本日月曜日。サチエは学校へと登校する。



 サチエの学校は珍しく、長期の夏季休暇の間に1日だけ学校に登校するという事が定められている。

 言わば、生徒の安全確認だ。


 私立学校ではたまにあるが、公立の高校では珍しい。


 サチエの学校は自由な校風の為、身だしなみも特に制限が緩い染髪も、パーマも、化粧も、アクセサリーも、特に厳しく言われることもない。

 その為、『登校日があるから金髪から黒髪に戻さなくちゃ!』などと言うこともない。元々金髪の生徒は夏休み以前も金髪である。


 心の乱れは服装の〜と言う事がメインではなく、単純に安全・・・安否確認で行っている。

 


 


 蝉の鳴き声はもう一ヶ月前から止まず、梅雨明け以降はろくに雨も降らない。

 今日もそらはとても青く、真っ白い雲が散り散りに浮いている。


 生暖かい風が吹き、サチエの頬を撫でた。


 トレードマークの三つ編みも揺れる。



 夏休みの真っ只中。高校ともなれば家が遠い者ばかりだ。中学校の学区とは訳が違う。自分達で約束をして会おうと思わなければ会うこともない。居住地区が違うのだからバッタリと遭遇する確率は低い。


 校門の近くで久々に友人と会って、話が盛り上がる光景を何組も見てきたサチエ。


 その声に喜ぶサチエ。


 そう、久しぶりの友達と会って浮かれていれば


「(私への関心が薄れる——!)」


 校章の一件依頼、特に何も問題のないサチエ。その奇跡・・・校章の効力が現在も続いていることが嬉しい。そうやってもっと久々に会った友達の事で頭がいっぱいであれと更に念を込める。







 お昼には学校が終わり、直ぐに下校する。

 大半の生徒は直ぐに変えるが、部活をしている生徒は体育館や部室へと向かって行く。


 一斉にどの学年も帰るので、門が生徒で溢れかえっていた。


「(少し位、下校タイミングを変えれば良いものを・・・さて、今日はバイトの前に何を食べてから行こうか。今日は一人だからラーメンもアリ。カレーや蕎麦をサクッと食べるのもアリ。全部アリ)」


 そう思いながら一人門へと向かうサチエ。


 しかし、人の流れが遅い。もっと普段は早く流れるのに。遅くないか?と不審に思い始めたサチエ。


 そのうち、門の近くで足を止める生徒が増えた。そして、ざわつく。女子の声が多く聞こえてきた。


 なんかおかしい。








「きゃー!めっちゃ格好いい!!どこの誰?!誰の事待ってるんだろう!!」

「声かけてみていいかな?ほら!これは人助けだよ!このままじゃみんな門で立ち止まっちゃうし!」



 女子の声を聞くにイケメンが立って居るらしい。いや、”格好いい”とは言っていたがそれが男性かどうかは定かではない。格好いい女子の可能性もある。また私は自分の先入観で決めてしまったなとサチエは自嘲した。


 

「待て」



 サチエは一人、声を出して歩みを止めた。


 イケメンが待っている?これは由々しき事態だ。

 「(もしや蓮さんの学校も今日会って、私を待っているのでは・・・?!)」

 その考えがよぎった。

 

 「(しかし、蓮さんだったらまずメールをくれるはずだ。いやいや、待つのだサチエ。神部の男子高校生が今の所百発百中顔がいい人だが、イケメン=神部ではない。神部以外の他所(よそ)のイケメンだって十分に有り得る。むしろ神部以外のイケメンの方が母数が多い)」


 そんな事を考えながら、対象の人物がいる門へと近づく。そもそも門を通らないと帰れない。


 神部の人間では有りませんように。


 そう願いながらサチエは歩みを再度進めて遂にイケメンを視界に捉えた。





 その瞬間、少女漫画の如く風が吹いた。



 温かい風で、雰囲気はあまりないが、風に髪の毛を揺らすイケメンが視界に入った。



 神部の高校生とは違う制服。

 見た事ない顔。


 つまり他人。


 儚げな表情。

 しかし細身に隠されたしっかりとした体躯。


 風に揺らされたピアス。



「っしゃ!!他人!!」



 自分と無関係な事に嬉しくなり、思わずガッツポーズを取ったサチエ。


 一瞬、この場の全員が視線をイケメンからサチエに移そうと———したのを見逃さないサチエは俊敏な動きでその場から走り去った。



 走りながらも、門で立ち止まっていた女子生徒がそのイケメンに声を掛けるのが聞こえた。



「あの・・・!どなたを待っているんですか・・?」

「前に見かけた子がここの制服を着てたから、待ってれば会えるかなって思ってね」


「えー!誰々?!」

「まだ残ってる生徒かなっ?!」



 神部の者でなかった。自分が目的じゃなかった。


 注目されない嬉しさにサチエは走る速度が更に速度が上がる。


「今日のお昼はご褒美にステーキ!!と、ラーメン!!」


 周りに生徒がいなくなった所でサチエが走りながら叫ぶ。

 何に対してのご褒美かはサチエにしかわからない。





・・・———





「ゲップ・・・よく食べた。今日はいつもの二倍速で掃除するか・・・」



 屋敷に着いたサチエ。

 お昼ご飯は宣言通りにステーキとラーメンを食べた。わざわざラーメンを食べに電車を乗り継いだ。


「お!サチコちゃんおはよう!なに、そんなに沢山食べたの?スパゲッティ大盛り?」

「椿さんおはようございます。いいえ、ステーキを食べた後にラーメンを食べに電車でちょっと行ってきました」

「え?食べ過ぎじゃない?ステーキ食べた後にわざわざ電車でラーメン食べてきたの?!何ラーメン食べてきたの?!」


「八王子ラーメンです」

「八王子まで行ってきたの?!嘘でしょ?!」

「新宿で出してるんです。八王子まで行くわけないでしょう」


「そうだよね、もし行ってたら今帰りの電車に乗ってる所だよね、あーびっくりしたー」

「とにかく、沢山食べたので食休みしたら二倍速で働きますので」

「全員分の部屋よろしくねー!」

「楽勝です」



 久々のバイトのサチエ。

 紅葉以外の部屋は特段そこまで汚れるということはない。しかし、埃は溜まる。

 前部屋の掃除となると気合を入れなくてはいけない。だが、今日はステーキとラーメンを食べたサチエは無敵同然だ。


 深呼吸をして、掃除道具を持ち、サチエは仕事へ取り掛かった。







「あぁ、サチエこんにちは。紅葉の部屋にいたんだね。で?部屋の主は?」

「桔梗さん、こんにちは。主はいらっしゃいませんね。ギターもないので、なんとか室だとか、音楽ホールだとか、防音室のどこかじゃないですか?」

「・・・そうか。予定とは違う動きをする・・・のは紅葉だから仕方ないか。携帯に電話して出てくれるかな」


 楓の部屋をまず最初に掃除をしたサチエ。その後、紅葉の部屋の掃除に掛かっていた。

 そこにやってきた桔梗。


 いつも余裕綽々の桔梗だが、今日はほんの少しだけ違く見えたサチエ。


「・・・珍しいですね。焦ってます?」

「ははっ、鋭いなぁサチエは。ちょっとね。ほら、薫子の叔父さんが急にこの屋敷に来たんだよ。今居てさ」

「あぁ、なるほど。紅葉さんとハゲ殿様を合わせないようにってことですね」


 楓に罵声を浴びせ、紅葉をこの屋敷に連れ戻して音楽を辞めさせろと言った遠縁の神部の中年男性だ。薫子の父親の兄弟である。


 サチエは、その男性の容姿をわかりやすく人に伝えるためにハゲ殿様と称している。


「今の時点で、紅葉がうちに帰って来ていること自体がもう100満点なんだけど、多分あのオジさんからすると音楽を辞めてないと0点というかマイナス100点なんだろうね。順序とか、ゆとりとかない人だから。屋敷に戻ってきてもギターやってる姿を見たら凄く憤慨するんじゃないかって思ってさ———」





「まだお前はそんなことやってるのか!!音楽は辞めろって言われたんじゃないのか?そんな見た目でほっつき歩いて碌に勉強もせんでお前は神部の恥晒しだ!!!」




「———こんな感じでね」



 遠くから聞こえてきた罵声に呆れてため息をつく桔梗。

 そうならなければいいなと思った事が現実となってしまった。


「少しばかり後手に回りましたね」

「これは、サチエの出番かな」

「ラーメンがまだ消化できてないのでちょっと無理です」

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