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神部家のメイド、サチエです。 〜清掃員からメイドになりました〜  作者: 杉崎 朱


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第48話 『ポン・デ・リングです』


「お昼は鼎泰豊(ディンタイフォン)!!まずはさっさとチェックインをして荷物を置いてくる事!!30分後にロビーに集合!!以上!!」





「Yes!長女!」


「お姉ちゃん了解!」


「ガッテンだねーちゃん!」


「サチエ・・・立派になって・・・」



 台湾に着き、更にはホテルに到着した秋家。


 台湾の夏は日本と違う。日本はよく”カビ臭い”などと言われるが、台湾は”香辛料の匂い”がするとサチエは思っている。青空広がる湿度の低い夏。


 これからサチエの食い倒れ旅が始まる———








 ・・・———




「そういえばサチエ、アルバイトはどうなの?」


 飲食店。サチエの母が向かいに座るサチエに楽しそうに聞く。この母は、サチエと違って頭で考えないで行き当たりばったりのタイプだ。この質問も、心配や意図があるわけでなく『娘がそれなりに楽しく働いてれば良いや』くらいの気持ちである。



「時給が高くて良い感じ。あ、この春巻き2皿頼んであるからそっちはみんなで食べて。この一皿は全て私のです」


「ねえちゃんのジキュウって、1,500円なんだって!ねぇ!オレこのダイコンモチっていうのもう一個食べたい!」



「1,500円?!サチエ、それは何か危ないお仕事なんじゃ・・・その、もの凄く高いところでの作業とか・・・」

 父が震えながら恐る恐る聞く。


「(まぁ、電球交換も高所と言えば高所か・・・)うん。それもあるけど大丈夫」

「危険っ!!ママっ・・!!!」

「大丈夫よ!サチエだもの!でも気をつけなさいね〜。あら、チャーハンすっごく美味しいっ!」


 父親の心配を誰も気にせずに食事は進む。


「ライチジュース美味しいー!おかわりしよう〜!あ!危ないって言えば、お姉ちゃんのバイト先って男の子ばっかりんなんだって!」

 次女がドリンクのおかわりのついでに姉の職場環境を話す。このぐらいなら個人情報ではないだろう。


「男の子が多いのに女の子であるサチエが高所の作業っ?!」

「違うよパパ。お姉ちゃんは大きなお屋敷?の清掃とかお手伝いさんだから。住んでて関わりのある人たちがお姉ちゃんと同い年の男の子ばっかりだっ———」

「サチエは男の子に囲まれているのか?!サチエは魅力的なんだ!もし誰かに気に入られでもしたら———」


 父の余計な心配が暴走を始める。


「大丈夫よ!()()()()()()そういうのを()()()()()()してるんだから!まぁ、見た目じゃなくて中身に寄ってきちゃうんだったらもう仕方ないですけどー。さすが私の娘よねっ!」

 

「サチエに変な虫が・・・」

「お屋敷に住んでるんだから変な虫ではないわよ!きっと!多分だけど!最悪でも玉の輿じゃない?!上手く行っても玉の輿!結局玉の輿!!」

「ママ!!そんな呑気なこ———ゴフッ?!」


 無駄に心配性の父の口に、サチエが割と熱い状態の饅頭を突っ込んだ。


「あ、サチエ!学校の方はどうなの?」

 

 母のその言葉に一瞬、大好きな小籠包を食べる動作が止まったサチエだった。


 入学してすぐに目をつけられ、小さい事から大きい・・・のかどうかは自分ではわからないが、それなりに色々とあった。しかし、ここ一ヶ月で激変したのだ。そう、サチエの()()()()である薫子が以前仕組んだ”校章”によって・・・




「快・適っ!!」




 そう言い、汁を吸い終わった小籠包を一気に口に含んだ。



「———美味(うま)ッ!!」



 ・・・———


 ・・・———




 ・・・———



 神部の学生たちの夏休みが始まって数日。



「サチエはさ、『五日間は旅行に行きます。』って言ってたけど、六日目に出勤するとは決まってないんだよね?」


 執事室で櫻が椿に聞いた。


「サチコちゃんの次の出勤は連絡待ちです。オレはどうしたら良いのでしょう。君たち自分の事は自分でやってくれない?もう部屋に冷蔵庫置けば良くない?ポットもカップもグラスも・・・各部屋工事してシンクも取り付けるから自分達でやってくれない?」


「おい、桔梗。紅葉の所在はわかってるのか?」

「うん、大丈夫。最近は毎日連絡とってるから」

「ねぇ、君たちオレの話聞いてる?」


「毎日?」

「そう。その方が警戒心解いてくれるだろうし。それで少し空けてまた連絡した時に『会いたい』っていうつもり。もちろん、その時にはサチエさんを連れてね」

「女性を口説く時みたいなやり方だな」

「君たち、俺を差し置いて女に現を抜かすのは辞めなさい。マジでムカつくから」



 椿の話がまるで聴こえていないかのように会話を進める楓と桔梗。



「そう言えば、じいやは?」

 双葉が執事長の不在に気付き

「病院だ」

 壱葉が答える。

「何、具合悪・・・あぁ。そうか。()()()ね」

「君たちね?!俺お前たちの8つも歳が上なのよ!?わかるっ?!俺大人なの!!大人の怖い男性なの?!」



 こうして、食堂、執事室、講義室の往復を繰り返し、サチエの帰国の日までそれは続いた。




 ・・・———




 数日後の執事室。




 「どうぞ、お土産です。こちらがパイナップルケーキ、こちらがライチゼリー・・・あ、袋を破くと汁が垂れてくるタイプですのでお気をつけて。あとこちらが現地のコンビニお菓子です。ニンニクの味強いですけど美味しいですよ」


「サチコちゃん・・・」


「・・・仕方ないですね。じゃあ隠し持ってたこちらも差し上げますよ。飴ですけど、日本の飴と全然違いますからね」


「サチコちゃんさ・・・」


「なんですかその不服そうなお顔は?わかりましたよ、これは佐藤さんにあげようと思ってたんですが特別に椿さんに差し上げますよ」


 そう言ってサチエは袋から15cm四方の茶色い塊を出して、『ゴトッ』とテーブルに置いた。


「台湾でポピュラーな”冬瓜茶”です。これをお湯で溶かして飲むんです。現地の方は水筒に入れて持ち運びしてます。甘くて美味しいんですよ。これで機嫌直してくださいね」


「あのさ、サチコちゃん」


 やれやれと言った様子でため息をついたサチエ。


「わかりました。わかりました。ではこれもどうぞ。今日のおやつの予定でしたけど!一昨年販売開始した究極のドーナツですよ。はいはい、味わって食べてくださいね!」


「何これ?なんでこんな形?いや、確かに輪っかだけど」


「ポン・デ・リングです」


「へー・・・って違うよ!!サチコちゃんね?!今日はもう7月の31日なの!!7月終わっちゃうのよ?!君、五日間はお休み五日間はお休み頂きますって言ったよね?!」

「でも六日目から働くとは言ってません」


「そうだけど!せめて七日目位には来ると思うじゃん?!7月20日くらいから夏休み始まって27日くらいにはくるかと思うじゃん?!今日で7月終わりだけどっ?!」


「祖母の家に行ってました。まぁ実家から近くですけど。ここのバイトを始めてから全然行けてなかったので。お土産とお土産話とご飯を作ったり掃除を手伝ったり、焼肉食べに行ったり、お好み焼き食べに行ったり一緒に夏祭り行ったりしました」


「くぅっ・・・!おばあちゃんの話出されたら何も言えねぇっ!!!」


 机に伏せ、叩きながら椿が声を上げた。


「ところで椿さん、今日は”ズボンで出勤”と書かれてましたがなぜですか?」


 そう、今、サチエはいつものメイド服ではない。

 私服のズボンだ。ちなみにオーバーオールである。なぜか似合う。


「あぁ。あのね、今日はちょっと桔梗がサチコちゃんを連れて出かけたいんだってさ」


 意外な回答にサチエも目を少し見開いた。


「・・・あの方々、自由に外出出来るんですか?」

「桔梗がどんな手を使ったのか、外出許可をとったんだ・・・!そのおかげで、他の連中も今日の講義はリスケになったよ。まぁ休みが出来たって喜んでたけどね」


 夏休みなのに、自分のペースではなく他人の決めたスケジュールでさらに勉強をする神部の高校生たち。


「で?運転手は椿さんですか?執事長ですか?」

 多分、足がないと出かけられないだろう。最悪タクシーか・・・そもそもどこに連れて行く気だろうかと考えて思い当たる節を思い出したサチエ。


 ”紅葉”の件だ。


 ならば、徒歩かタクシーだろうと考えたサチエの目の前には、泣きそうな、愚痴を言い出したら止まらなそうな顔の椿が居た。



「それなんだけど・・・!!聞いてよサチコちゃ———」

「もう桔梗さんのお部屋に向かいますね。では」

「ちょっとくらい聞いても良いじゃんかぁああああーーー!!」

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