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神部家のメイド、サチエです。 〜清掃員からメイドになりました〜  作者: 杉崎 朱


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第46話 『何そのヤツれてそうな名前の子』


「初めて食べたわ!まぁ割と普通のシャーベット?だけど、スイカの種がチョコレートなのがなんか面白いわね?」

「うん、滑らかさはないけど、これはこれで楽しいね」

「お二人とも舌が肥えすぎなんですよ」



 三人で歩きながらスイカバーを食べる。

 呑気に食べているサチエは、自分が『紅葉を屋敷に連れ戻し、なおかつ音楽を辞めさせる』と言う役目を課されている事など知らない。


「足りないですね。二つ買うべきでした」

「一つ食べてる間にもう一つが溶けるわよ」


 執事長はサチエに『サチエ本人が直々に会長から任命された』とは言えなかった。


「え?サチエちゃんもう食べ終わったの?」

「早すぎよ?!サチエ!アイス丸呑みしたでしょ?!」


 荷が重い事を高校生の少女にさせられないと思ったのだ。

 それに、誰が何と言おうと、紅葉は音楽を自分が嫌いにならない限りは辞めない。他人に言われたからと辞めるような人間ではない。



「そんなわけありません、ちゃんと齧りました。高速で」



 呑気に二つ目のアイスを食べようか本気で悩んでいるサチエが、事を知るまであと数時間。



・・・———


・・・———




「俺が繋ぎに入るよ」


 昼食時、神部の食堂で桔梗が口を開いた。


「嘘でしょ。桔梗が立候補するとかありえないんだけど」

「・・・え・・・?ごめん、俺聞き間違いしたかも」

「なんでお前だ?やるなら俺だろう?」


 軽めの昼食とは言え、神部家の昼食だ。


 メニューは、なんだかよくわからないカタカナを並べたドレッシングがかかったサラダ。


 朝から火を入れ続けたであろうスープ。


 厚みのある国産の高級豚肉を、またあまり聞かないカタカナの香菜や香辛料でソテーをしたものだ。


 全員が、美しい所作でその肉を綺麗に食べている最中だった。


 食事中、桔梗が”紅葉”と”サチエ”を繋ぐ役割を買って出た。

 その事に、周りの者は驚いた。


 双葉は素直に感想を口にし、櫻に至っては聞き間違いかと思っている。楓はやるなら自分の役目だと後方から立候補した。


「じいやはサチエさんに”神部から紅葉を連れ戻す役目を任命されました”とは言わないつもりなんでしょ?だったら、なんとか上手く紅葉と引き合わせて、なおかつ音楽の話に持っていかないといけない訳だからね。

 そこんとこ、上手く出来る人いる?」


「俺に出来ないと言ってるのか」

 自信がある楓が少し機嫌が悪そうに言う。


「楓もすぐそうやって怒らないの。適正の話でしょ?俺はそもそも無理。紅葉の気持ち汲んじゃうし、サチエの事も考えちゃうから相反する者の間に立つとかやりたくない」

 双葉が早々に離脱宣言した。


「・・・俺は、サチエならなんとかなる気がする。この話の着地点は全く想像も予想もつかないけど。多分サチエなら()()()()()()()()()()()に変われると思う。でもそこに俺は入らないほうがいいと思う」

 櫻も、双葉と違う理由だが手を出さないと言う意思表示をした。



「じゃぁ、俺か楓だね。他の人はサチエさんを知らないから引き合わせるも何もないだろうし。別に楓がやってもいいよ?」

 皿を引っ掻くことなく、ナイフで綺麗にソテーを切り、言い終わると同時に口に入れた。


「・・・お前が自分からやるって言ったんだ。数多くある事じゃない。適正の有無に関わらず、興味があるならやればいい。ただ、いい加減な気持ちでやるな。上の考えてる事がわからない。サチエの不利に働くような言動はするな」

 籠からパンをとり、ちぎって口に入れた。


「なんだ、結局桔梗で話がまとまったじゃん。楓もワザワザ突っ掛からなくて良いの」

「うるさいぞ」

「おーこわー、さすが次期社長ー」

「わからないぞ、蓮が戻ってきたらあいつが社長になるかもしれないだろう」

「絶対許さない癖にね」

「刺すぞ」



 特に明るくもない話をしている食堂。

 

 彼らの食事の最中に、先ほど屋敷に着いた他の学生がまた数名が食堂に入ってきた。

 一瞬にして、雰囲気が変わった。何も知らない者が楽しそうに入ってきたのだ。

 今度こそ、空気が少し明るくなった。



 はずだった。




「っていうか・・・サチコちゃん明日から夏休みだからシフトめちゃくちゃ減るんだけど・・・」





 なぜか、学生たちに混じって昼食を食べていた執事の椿がメソメソとしながらやっと会話に入ってきた。


「お前それもっと早く言えよっ・・・?!」

「嘘でしょっ!?」


 櫻も言葉には出さないが驚いた顔をしていた。

 桔梗だけが、一瞬固まったが、すぐに楽しそうな顔つきに変わる。



 食堂は、明るいを通り越してざわつき始めた。





・・・———


・・・———




「週4!!」

「いいえ」


「たまに週3日!!それで時給上げるから!!」

「無理ですって。誰でもいいいからメイドを何人か採用すれば良いのでは?」


「楓が面接に参加してるから全部落とすんだよ!!ねぇ時給上げるから!!そしたら大学か専門学校の学費も自分で払えちゃうかもしれないよ?!今から貯めれば!!」


「それじゃウチの親が形なしじゃないですか。家計が切羽詰まってるわけではないと言ったではありませんか。とりあえず、明日から5日間はおやすみ頂きますよ」



「どぅおわめぇえええええ!!!!!」


 

 執事室を出て行こうとするサチエを引っ張る椿。

 それをソファで見ている蓮と薫子。



「紅葉探しは基本”神部”の人間がやればいいじゃない。サチエをわざわざ引っ張り出す必要ないでしょ?」

「それに、夏休みもそこまで働いて高時給だと、サチエちゃん稼ぎ過ぎて扶養とか税金とか色々面倒な事になるよ?椿その辺ちゃんと考えてあげなって」


「クソ頭のいいガキどもが・・・っ!!」


「椿さん、そういう事です。私だけの問題ではありませんので、高時給は助かりますが稼ぎ過ぎた時のリターンが大きいです。私も家族との時間が大事ですし。


 いいじゃないですか、週1日だって、朝から晩までいるんですよ?8時間きっちりいますから」


「残業は?」


「今の私の時給で残業ついたら人件費すごいと思いますけど」


「神部には金はたくさんあるからぁー!!!」



 言って、まだサチエにしがみついた上で床に座り込む椿。

 これでは幼児の駄々をこねる姿と全く一緒である。


 成人男性のイヤイヤ期を見せられていた蓮が閃いたように考えを口にした。



「じゃあさ!時給は一旦据え置きで、現物支給でいいじゃん?サチエちゃんの欲しいものを現物とか、あとはほら、まぁアウトって言えばアウトだけど、商品券?金券で渡せばいいんじゃない?」

「金券はお金だからダメよ。一般的にはね。でも・・・そうでもしないとサチエは釣れないわよ?」

「なぜお二人して椿さんをお助けするような案を言うんですか」


「あ、ごめん。単純に”給料以外で対価を渡す方法”を考えたら言いたくなっちゃった」


 照れるように、恥ずかしそうな顔をして蓮がサチエに謝る。

「なんですかその顔、褒めてません」

 

 蓮の案を聞いた椿は、より一層サチエのメイド服の裾を掴む手に力が入った。

 そして、みるみる顔が明るく輝く。



「蓮!!流石だよ!!!」





・・・———



・・・———



「あちー!まじで外暑かったー!もう俺外出なーい」

 ドカっとソファに沈む様子は、神部の子息とは思えないほど乱雑な振る舞いだ。


「この屋敷に住んでたら、快適ですが体温調節機能が退化しそうですね。今日、あと一回は陽が昇っている内にお外に出てみては?」


「・・・脅しとセットで言うと効き目ありますね。ハイ、後でちょっと出てきます」

 


 ピシャッとサチエに言われ、双葉はちょっと怖くなり、姿勢を正して大人しくサチエの言う事に肯定の返事をした。


「アイス食べたい。調理場から貰ってきてー」

「アレですか?レディボーデンか」

「ハーゲンダッツの抹茶でよろしく!」

「神部の方はその二種類しか知らないんですか」


 雪見だいふくとか、パルムとか、ピノとか色々あるだろうにと思う反面、自由に買えないのだから仕方ないかと考えるサチエ。


 希望のアイスを取りに行くのにキリのいいところまでの掃除を急ぐ。


「そうだよな。たまには一般的な・・・一般的ってなんだ?庶民の?アイスを食べてみたいよなー」


「私たちの世代で小学生の時に食べていたアイスと言うのは数多くあります。

 その中でも、お小遣いが少なくなった時の救世主のアイスがあるんです」


「何それ?めっちゃ美味しいの?」

「安いんです。とにかく。そうですね、価格からしたらしっかりとしたクオリティのアイスですね。雪見だいふくなどの"アイスミルク"に分類されるアイスも良いですが、まずは双葉さんのような方が庶民を知るのであれば、手始めはあのアイスが一番でしょう」


「今度買ってきてよ!なんてアイス?」


「ガリガリ君から始めてください」


「何そのヤツれてそうな名前の子」

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