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神部家のメイド、サチエです。 〜清掃員からメイドになりました〜  作者: 杉崎 朱


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第45話 『スイカバーです』



「いいえ、おやすみ頂きます」

「ダメ!この話ちょっと流れてたけどダメだって!何とかしてよ!困るんだって!」


「うちも困ります。夏休みは母が家にいてくれるんです。家族で思い出作りをですね」

「〜〜〜!!本当!週2とかで良いからさ!!あと、特別手当とかも検討するから!」



 週明け。サチエの学校の一学期終業式前日。


 出勤してきたサチエは仕事前に顔を出した執事室で足止めを食らっている。 



「ちょっとさ・・・色々あってさ・・・」

「このお屋敷いつも色々あるじゃないですか」

「何そのいつでも問題発生してるみたいな言い方」



 早く部屋の掃除に行きたいサチエと、サチエの夏休みの出勤を希望する椿が対立している。


「私、もうお金に困っておりませんので」

「本当!!人を助けると思って!!今俺を助けないともっといっぱいなんか問題が降りかかるよ?!」

「そういう呪いかけるのやめてもらって良いですか?因果応報でご自身に還ってくるように呪い返しますよ?」

「サチコちゃん鬼ーーー!!」

「サチエです」


 サチエに縋り付く椿。

 そんなやりとりが繰り広げらている執事室。


 ———ガチャ


 に、帰ってきた執事長。



「お帰りなさいませ」

「じいやお帰り」



 戻って早々に執事長の顔色が悪いことに気づいたサチエ。

「大丈夫ですか?ご体調がすぐれないのでは?」

「そうですね、少し。色々と言われてしまいまして、どうしようかと悩んでいる次第です。この歳になって情けない」

「そんなことありません、とりあえず座ってください」



 梅雨が明け、暑さも本番だ。夏バテを疑ったサチエだが、どうにも執事長は仕事で色々と小うるさいことを言われたらしい。


「何か私にできることありますか?」

 執事長に聞くサチエ。

「じゃぁ!!夏休みもっとシフト増やして!!」

「椿さんじゃありません」


「・・・サチエさんにできることですか・・・」

「やっぱり、特にはありませんでしょうか」


「いえ・・・、むしろ・・・まぁ、あっ・・・そうですね・・・」



 執事長が言いづらそうにしている。少し間をあけて再度口を開いた。







・・・———



・・・———






「”紅葉を連れ戻せ”?何、まだ帰ってきてないの?」

「まぁ、大して家に帰ってないんだからそろそろ強制連行されても仕方ないよね」

「執事長、顔が暗かったですよ」



 本日は終業式。

 蓮の学校も、薫子の学校の終業式も同日だった。


 終業式の日は終わるのが早い。


 式が終わったら簡単に教室周りの掃除と夏休み中の課題や登校日の説明をして終了だ。

 ”前日も昼までの授業なのだから就業式までまとめることはできないのか?”とサチエは小学校の時から思っている。

 だが、終業式だけで終わりとなると気も楽なものだ。部活動のある者以外は、早くもそのまま遊びに出かけると言う青春を送っている。


 現在、炎天下から逃れて涼しいファミリーレストランで友人と喋るサチエも(はた)から見ると立派な青春を送っている。



「ちょうど衣替えの時期でしたね。制服を取りに紅葉さんが一度屋敷いらした・・・お帰りになってました。私はたったの数時間のバイトですけど、それ以降今日まで屋敷で紅葉さんを見たことは一度もありません」


「うちの屋敷にもいないわよ?蓮の家とか何回か泊めてあげた事とかあるんじゃなくて?」

「・・・」


「本当なの?!冗談で言ったのに!」

「・・・本来ならしらばっくれた方がいいんだろうけど、まぁ連れ戻されるんだったらいっか。バレても」

「なるほど、本当にそうやって寝床を見つけて渡り歩いていたのですね」


 紅葉の宿泊先の一つが蓮の自宅だった。

 確かに、現在蓮の家は神部と接点が少ない。昔から知っている蓮の家族なら紅葉も気が楽なのだろうとサチエは考えた。


「でも別にずっといるわけじゃないし。たまにだよ。たまに友達のところに数人でお世話になってるらしい。あとはホテルを転々としてるって」

「本当良い気なもんだわ。おじ様のクレジットカードでしょうね」

「明細が届く頃には他のホテルにしないと捕まりますからね」


 流石の神部の生まれの薫子ですら、紅葉の破天荒さには呆れていた。


「で?サチエちゃんはじいやのお手伝いするの?」

「執事長、かなり顔色悪かったのでできる事は手伝おうかと思いました。まぁ夏休みも週に・・・二週間で三回の出勤くらいなら良いでしょう」


 そう言い、注文をするサチエ。


「で?具体的にサチエが何をするかは決まってるの?」

「いいえ?まぁ、特にないんじゃないですか?仲良くなって漫画とか最近の曲の話くらいしか出来ませんよ。



 あ、モッツァトマト一つお願いします」

「あ、俺もそれ!」

「私はカルボナーラでお願いします!」



 黄色い背景に赤い字で店名が書かれたパスタが有名なファミレス。夏休み前の最後の放課後の座談会が始まった。




・・・———




 一方、神部の学生も午前中で帰宅した今、昼食も摂らずに大半が執事室に居た。



「いくら何でもじいやにやれってのは無理だろう。どっちかって言ったらじいやは紅葉応援派なんだから。何でじいやにさせるかね?酷な話だよなぁ」

 双葉が言う。だからといって自分達が紅葉を説得するのもおかしな話だ。

 同じ生まれの同じ屋敷の人間が言って聞くのならが既に紅葉は屋敷にいる。誰の言うことにも耳を傾けないのだから今の状態だ。



「連れ戻すだけじゃないんでしょ?」

 桔梗だ。執事長の顔色を見て”ただ連れ戻すだけ”ではないと考えた彼が、躊躇いもなく言った。


「・・・桔梗さんはお察しが良いですね」

「なんだ。音楽を取り上げろとでも言われたのか?」

 執事長の肯定に、今度は楓が考えを述べた。


「えぇ、おっしゃる通りです。紅葉さんのお父様や他数名は、紅葉さんを後の会社の役員にする計画はもう半ば諦めています。なので、とりあえずは屋敷に()()()()()()()()()()()を送れるようにと言う話だったのですが・・・」


 

 毎日学校へ行き、毎日家に帰ってくる。


 そんな当たり前とされている常識を破っている者が神部にいるなど、親族の神部は誰も想像しないだろう。しかし現に起きている。身代金目的で誘拐される可能性もある今、最低限毎日家には帰ってきてほしいと言う話で固まってはいた数日前。


「また、外野の誰かが騒ぎ出したんでしょ?」

「双葉さんのおっしゃる通りですね」


 素行の悪さの情報が想定以上に外部に漏れた。その話を聞いた、神部の中核に入れなかった者や遠縁の者。そして、その者たちの割と優秀な子供たちが文句を言い始めた。



「十数人いれば、紅葉のような人間が一人くらい出てもおかしくないだろうって、サチエは言ってたのになぁ・・・神部の大人たちの方が視野が狭いね」

 先日サチエと話した内容を思い出しながら櫻が呟いた。


「まぁ、薫子も知ってたしな。それにしたって、執事長に丸投げは流石に酷くないか?悪いが、こればかりは親たちにやってもらわないと」

「いいえ、楓さん。紅葉さんを連れ戻す事を任命されたのはじいや・・・いや、私ではないのですよ」


 執事長のにこの場の全員の思考が一度途切れた。

 執事長が直々に任命されたから、打つ手がなく悩んでいるのだと誰しもが思っていた。


「・・・椿か?椿じゃ無理だろう。紅葉に舐められてるからな」

「残念。俺を舐めてるのは紅葉だけじゃなくてお前ら全員だよ」

 紅葉との関係性を考え、屋敷にいる時から嫌がられていた紅葉の周りの執事や人間を除くと、執事長と椿以外に適任者がいない。

 

 その時、普段は周りに興味が湧かずにろくに驚きもしない桔梗が、弾けたように下に向けていた顔を上げた。

「まさかっ———!!」

「んだよびっくりしたなっ?!・・・嘘だろっ!?」


 桔梗の顔を見た双葉が驚きの余り無意識に思考を読み取った。

 

「はい、サチエさんが指名されました」





・・・———



「サチエこれからバイトでしょ?向かいながらコンビニのアイス食べ歩きしましょうよ!」

「薫子さん、お行儀悪いですよ。お嬢様ともあろうあなたが。さ、そこのセブンに買いに行きますよ」

「はは!どっちなんだよサチエちゃん!」


「何が良いかしらー、ハーゲンダッツはもう食べ飽きちゃったからなんか新鮮なのが良いわね・・・」

「これだからお嬢様は。レディーボーデンは?」

「何よ、蓮あんただってただの坊ちゃんじゃないの」


 結局出てくるのは他の商品に比べて価格が高いものばかりだ。

 小学生の時を懐かしむ、坊主の少年がトレードマークのかき氷アイスも捨て難い。しかしこの二人は馴染みがなさそうだと思いサチエは別のアイスを思いついた。


「では、私がとっておきのアイスを教えてあげましょう」


「何かしら?」

「箱買いするの?」

「あなたバカなの?」


 二人より少し前を歩いていたサチエが振り返った。

 燦々と輝く太陽の光を反射したサチエの眼鏡。その奥の瞳が更に強く輝いたように見えた蓮と薫子。


「スイカバーです」

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