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神部家のメイド、サチエです。 〜清掃員からメイドになりました〜  作者: 杉崎 朱


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第42話 『野菜とキノコのピザ一択ですね』


 頭の中が整理されつつも、新たな疑問が生まれていそうな櫻の口にお菓子を突っ込んだサチエ。


 櫻が咀嚼している間がサチエが喋れる時間だ。すかさず語り出すサチエ。



「きっと曽祖母様の言葉がそれを重く受け取りすぎていたんですね。


 私たちはまだ学生です。大人が経験するようなものすごい迷惑ってまだ経験してないです。多分ですけど櫻さんの思う迷惑なんて大人のやらかした迷惑に比べたら迷惑の片隅にもおけない程度です。


私たち子供の言うことなんてかわいいものです。困る人はいるかもしれないですけど。でも本当の迷惑なんて比じゃないです。だから気にしないでいいですよ」


 自身ももしゃもしゃとお菓子を咀嚼している。


「そんなこと言われても、迷惑の度合いがわからない」


「だったら、もう迷惑かける前提でいいじゃないですか?」

「は?」

「人は迷惑かけないで生きていく事なんてできないですよ。迷惑かけてかけられてなんぼ。櫻さんは誰からも迷惑をかけて欲しくないですか?」


「いや俺は別に気にしない」

「だったら、人の迷惑を受けてあげるんだから、代わりに迷惑かけたっていいじゃないですか?どうせそこまで気遣い屋さんの櫻さんですから、人に迷惑かけたって相手からしたら迷惑の”め”の字にもなりませんよ」



「でも、曽祖母は俺の事を——」

「ふんぐっ!」

 また櫻の口を塞ぐようにお菓子を突っ込んだサチエ。

 櫻は渋々サチエの話を聞く。


「おばあさまの言葉は櫻さんを()()()()()()()()です。足枷にする事なんてことないです。そんなことおばあさまも望んでないです。

 きっとおばあさまの仰ってた”迷惑”って言うのは本当に”もっとすごい迷惑”です。

 だからちょっと位の迷惑なら、他人の分を引き受けてるんですから自分の分も迷惑かけて背負ってもらいましょう」


 全ては腹落ちしてないが、自身の曽祖母の言葉の理解が足りていないと言われたら、”そうかもしれない”と少し考えた櫻。小さい頃親に言われてわからなかったことが、小学生、中学生となって徐々に理解して行くことがあった。

 

 それも、小学生の時にわかったと思っていた事が、中学生になってまた一段階深い意味で理解した事も。きっと、あともう少ししたらもっと深く広い意味で理解・納得する事もあるんだろうと。


 「(結局、サチエが言ってた様に俺が思ってる迷惑なんて、大した迷惑じゃないって事なんだろうな。そうか、人の忠告を聞かないで事業失敗して負債を抱えたわけでもないんだ・・・ちょっと違うかもしれないけど)」


「そもそも、櫻さんたちは神部で生きて良いく事を当たり前と思っているのでなんとも思わないでしょうけど、蓮さんからしたら”神部で教育を受けて神部の役に立ってくれ!”こそが”迷惑”な可能性だってあるんです。だから紅葉さんみたいに自由にする人だっているわけですよ。だから、どっちもどっちだと思いません?」


 少しだけ気が軽くなった櫻。


「どうして俺はもっと早くサチエと出会えなかったんだろうなぁ」


「仕方ないです。中学生はアルバイトできませんから」


「いや、そういう意味じゃなくて。メイドとしてじゃなくて、もっと早く何処かで会えてたら良かったなって」


「そんなに美味しかったですか?プチ。でも私の一番のおすすめはチョコチップクッキーでして」

「プチも美味しいけど、話の方ね」

「ラングドシャもかなり美味しいですよ」





・・・———



・・・———





 梅雨明け。


 夏休みを目前に梅雨が明けた。


 サチエや蓮、薫子の学校は期末試験の返却が終わり、早くも学生たちは夏休み気分だ。

 楓の学校は今まさに試験結果の返却期間である。

 


 神部の屋敷の執事室では、執事長がとても嬉しそうに椿に話をしていた。


「最近、櫻さんが色々とお話ししてくださるんですよ」

「話?櫻が?なんの?」


「次に使うボールペンは、本体色がシルパーの光沢があるものが良いと言ってくださったんです」

「・・・ふーん?」


「朝食のパンに、新しいジャムが欲しいと言ってくださった時、私は感動致しました」

「なんのジャムが欲しいって?」

「マーマレードです」


「え?待って、本当に普通の会話じゃん?」

「でも、あの櫻さんが希望を言ってくれたんですよ」


「まぁ、確かに楓や双葉と比べて櫻ってその辺何も言わなかったよな・・・なんでも良いのかと思ってたけど」

「いいえ、櫻さんにも好みがあるんですよ」



 執事長の言っていることがあまり理解できない椿。ここ最近、自分が見た櫻の様子を思い出す。



「そういやぁ最近スッキリした顔してるよなぁ。試験が終わったからだと思ってたけど、あいつらからしたら試験が原因で憂鬱になるなんて事ないよね?だって教科書ちょっと読めば応用できちゃうんだもんね?!」

「きっと、櫻さんにとってとても良いことがあったのでしょうね」


「なんだろう。良いことって。あっ!まさか彼女が出来たとか?!俺がこんだけ毎日忙しくしてるって言うのに女作ったなんて!ちょっといじめてやる!!」


「新しい”思考・受け取り方”を得ることも、とっても良いことですよね。椿さん」

「あれ、なんか俺咎められてる?貶されてる?」

「フォッフォ!」



 



・・・———





「ねぇ!ピザをみんなでシェアしましょうよ!」

「野菜とキノコのピザ一択ですね」

「サチエは全部食べたことがあるでしょう?私まだ食べたことないの。今日は別のピザにしましょう」

「手始めに野菜とキノコのピザでも良いではないですか。仕方ないですね」


「サチエちゃん、全部食べたことあるんだ。さすがだね」

「新作は食べないと気が済まない私です」



 学生たちで賑わうファミリーレストラン。

 久々に三人で集う高校生の三人組が居た。


 秋 幸枝。神部 蓮。神部 薫子だ。


 奇妙に意気投合した三人は、最近このようにして午前授業が終わったあとに集まって話をしている。

 サチエはこの後はバイトだ。



「入学してたったの三ヶ月ちょっとでもう夏休みね。二人は夏休みどうするのかしら?学校の新しい友達と遊ぶの?」

「私は今の学校に友達はほとんどおりません」

「俺は、高校でできた新しい友達とちょっとは遊びに行く感じかな?」


 薫子の高校は私立だ。同じ中学校だった生徒と、高校受験してきた生徒の半々である。

 サチエは言わずもがな、高校での”友達”はいない。しかし、最近は少しだけ話しかけられる事も増えてきた。


「蓮は本当に自由ねー。どうせ男女でプール行ったりとかするんでしょー、破廉恥ー」

「どこが。みんな当たり前のように男女でプールや遊園地に行ってるよ。サチエちゃんはずっとバイト?」


「あー、夏休みで楓たち屋敷にいる時間が増えそうだもんね。サチエ、サチエってみんな口々に呼びつけてそうなのが目に浮かぶわ」


「・・・私は、夏休みはバイトしませんけど?」


「え?」

「は?」


「家族とゆっくり過ごすんです。母も仕事をセーブすると言ってましたので。なので”普通の家族”を夏休みは堪能するんです。朝寝坊して、10時からご飯食べて、遊んで、ゲームして、漫画読んで」


「・・・無理じゃない?」

 蓮が少し顔を引き攣りながらサチエに言った。


「何処がですか?蓮さんだって休日は同じような生活してますでしょう?」

「俺はバイトしてないからそうだけど・・・」


「夏はいろんなお祭りに行くんです。屋台ならではのじゃがバタと串焼きが楽しみなんですよ」


 本当に楽しそうに言いながら、サチエはサラダを食べ始めた。


「「無理だと思う」」


 蓮と薫子が、合図もなしに二人で声を合わせた。





・・・———



「え・・・?あれ?俺、耳悪かったっけ?そんな事ないと思うんだけど。で?サチコちゃん。なんだっけ?」



「ですから、夏休みはお休みさせて頂きます。もちろん、たまには出勤します。ですが、母の仕事のスケジュールが出てから——」

「何言ってんの?!ダメに決まってんじゃん?!」

「ダメの意味がわかりませんが?」




 蓮と薫子と一緒にファミレスで昼食を摂り、沢山喋った後にそのまま神部の屋敷へと出勤した。




「だって!!だってどうするの?!あいつらの世話?!?!」

「学校が休みなんですから、制服の手配は不要でしょう?部屋にいるお時間も長いでしょうから掃除してる時間もありませんでし」

「いや!掃除はあいつらが部屋にいてもして良いんだよ?!今だってそうじゃん?!」


 椿が取り乱した。

 まさか夏休みにサチエのシフトが減るんなんて考えは微塵もなかったからだ。


「サチエさんは、もうお金に困っていらっしゃいませんからね。夏休みはご家族様と、お友達と楽しく過ごされるんでしょう」

「はい」

「じいやもなんでそんなのんびりしてんの?!サチコちゃん友達いないって言ってたじゃん!!」


「小学校の友達はいます。それに、蓮さんや薫子さんにも誘われてますし」

「あーいーつーらぁあああーーー!!!」


「というか、メイドの募集は再開しましたか?7月中なら少しは出勤しますので引き継ぎとかくらいならしますよ」


「ダメなんだよ・・・!!それじゃ・・・!一大プロジェクトがあるんだから・・・!!」


 急に椿が机に伏せて頭を抱えて震え出した。


「「一大プロジェクト?」」

 サチエと執事長が復唱する。


「・・・執事長も知らない行事なら私は不要では?それとも、その一大プロジェクトは、椿さんの夏休みとかそう言うオチですか?」

 それならば人手が欲しい事に納得したサチエ。しかし椿の様子からして違うだろうとすぐにわかった。



 ———ガチャ


 執事室の扉が開いた。


「違うよ!!桔梗がっ!!桔梗がっ!!」



「俺がどうしたの?椿?」


 執事室に入ってきたのは、《神部 桔梗(ききょう)


 サチエは部屋の掃除の担当をしているが、まだ直接は会ったことの無い人物だ。

 事前にサチエが渡されていた写真と、髪の毛の色が少し違うが顔は同じだ。双葉ほどではないが、長身で落ち着いた雰囲気を出している。


「初めまして、サチエさん。いつも部屋の掃除をありがとうございます。僕が、神部 桔梗です」


 差し出された手を握り、握手をしたサチエ。

 桔梗の第一印象は・・・



「初めまして。お部屋の掃除をさせていただいております。メイドの 秋 幸枝 です」



 「(良い男だが、なかなかに食えなさそうな男だな)」



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