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神部家のメイド、サチエです。 〜清掃員からメイドになりました〜  作者: 杉崎 朱


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第39話 『ジョイポリスをご存じで・・・?!』


『私はこれから帰って食事を作ります。それに、玄関で薫子さんが待ってます。その間でしたらお話し出来ます』



 最初にサチエに釘を刺された櫻。


 面倒な話しだと初手でバレてしまったのだろうかと言う考えが頭をよぎった。

 しかし、サチエはそういう人間ではない。面倒なら面倒とはっきり言う。そもそも自分の家のことをやって、兄弟の面倒を見ていて忙しいのだ。これは自分が嫌われているわけではないだろうと櫻は考えながら、何をどう簡潔にサチエに伝えようと頭を回転させる。



「あの、サチエはどうして神部に戻ってきてくれたの?」

「薫子さんと話したんです。それで、戻ることを自分の意志で決めました」

「薫子と・・・?」


 また一つ、櫻の心の中で何かが小さく弾けた様に感じた。


「聞きたかったのはそのことだけですか?」

「・・・あっ。えっと・・・最近、ちょっとよくわからない事があって」

「はい」


「なんで俺以外の人って、スパッと決めて、すぐに行動して、何なら前に言ってた事と違う意見を言い出したりして、それでまたすぐに行動をして・・・」

「はい」



「何でそんな自分の欲に忠実なんだろうって思って」



「欲だからですよ」

 サチエは頭の上に沢山の”?”マークが見えそうなくらい不思議な顔をして言い切った。


「いや、違うんだ。欲なのはわかるんだ。でも、何でそうすぐに意見が変わったり・・・」

「話を聞いていくうちに、自分が思っていた事とは違って『あぁ、それならこうする』って意見が変わったんじゃないですか?新たな情報が入って、それにより考え方や受け取り方が変わることはよくあることです」


「その、でも、その新たな情報を入れる前に、『こうする!』って決めて公言までしていたのに、いきなり違う方向に簡単に()()()()()()って出来るのかって」


「山梨からジョイポリスに行きたいのなら東京か神奈川を通ってお台場に向かいます。お台場に行く予定なのに、名古屋方面に向かっていることに気づいたらすぐに正反対の電車や道路に行きますでしょう?それと違いますか?」


「ジョイポリス・・・?あぁ、屋内遊園地ね?」

「ジョイポリスをご存じで・・・?!」

「施設とか企業的な事は流石に知ってるよ。え?そんな簡単なもの?」



「逆に、何が難しいんですか?」



 サチエに言われて櫻は言葉に詰まった。

「(やはり、例え話ではダメだ。しかし、なんと話しをして良いのかが浮かばない。ずっと抽象的な言葉しか出てこない。これではサチエの意見が欲しいのに、サチエを困らせるばかりだ)」


 櫻は自分の表現力や説明力に不甲斐無さを感じた。少しだけ、俯いてしまった。


 そんな櫻の様子を見てサチエはピンときた。何かこのまま放っておいてはいけないと。そう思ったが、ちょうど曲がった角から薫子が見えた。今の位置だと、薫子から櫻は見えない。



 この場を他に人に見られない方が良いと判断したサチエは、櫻の方を見て小声で言った。



「すみません。今日は時間がないのでこのまま帰らせてもらいます。

 多分、櫻さんにとっては重要な事なのでしょう。軽んじるつもりはありませんが、そのままの櫻さんだってとても素敵です。


 何かを変えたいとか、何かをはっきりさせたいとか、何となくかもしれませんが何かを求めて私の所に来てくださったんですよね?


 でも、そんなに切羽詰まって急いで何かする必要性はないと思います。むしろ急ぐのは危険です。


 ゆっくり話をしましょう。時間は作りますから。お疲れ様でした」



 そう言い、小走りで薫子の元へと向かったサチエ。



 そのサチエの言葉に心が動いた櫻。


「・・・だからっ!どうしてわかるんだよ!」


 櫻が自分でもわからない()()に、サチエは気づいた。


 気づいて貰ったことに、とんでもない安堵を覚えた。




・・・———


・・・———



 翌日。


 執事室には桔梗がいた。


「えぇ〜!そんなことより試験勉強しろよ!明日から試験だろう?!ちゃんと復習しろって!それからで良いだろう?!」

 椿が大きな声を桔梗に上げた。


「復習は復習だけど、”勉強”っていうか”確認”だよね。練習問題とか必要ないよ。基礎ができてれば応用はその場で考えても間に合うし。だから教科書を少し読めばおしまいだから」

「俺は心底お前たちがムカつくよ。


 だからって今この時期にそれ言い出して、やり出す必要あるか?!」


「でも、手配してる間は俺は試験しか集中しない。椿は俺たちの試験期間は関係なしに”ただの仕事”でしょ?何も問題ないじゃん?」

 ニコニコしながら桔梗は言う。向かいにいる椿の眉間には皺が増える一方だ。


「やっぱりダメだ。その件はお前の親に言って———」

「じゃ、よろしくね」

「桔梗お前!最初から俺の話聞く気ねぇだろ?!」



 桔梗が執事室を出る時に扉を開けると、目の前には櫻が居た。

 入れ替わりで櫻が部屋にきたのだ。しかし、桔梗の目に映るのは櫻だけではなかった。


「櫻・・・と、蓮。一緒に来たのか?」

「え?」


 櫻が後ろを振り向くと、蓮が居た。制服を着ている。学校帰りだ。


「俺はちょっと、じいやに相談しに来たんだ。オファー貰ってる件についてね」

「こっちの屋敷に住む気になったんだって?」

「まだ決まってないよ。その話を詰めにじいやの所に来たんだ」

「へぇ。うまくいくといいね。何かはわからないけど、()()()()()()()()()()()なるといいね」

「うん」


 桔梗と蓮のやりとりを、傍観している櫻。


 「(蓮が戻ってくる・・・サチエに興味があるからだ。でもなんだ?”蓮が希望しているように”って・・・それって、蓮が主導の蓮の希望だけって事か?神部は蓮の能力を買ってるんだ。

 じゃぁ、神部と蓮の意見のすり合わせって事だろうか。まさか個人の希望だけ押し通すなんて事じゃ)」


 考えながら執事室に入る。

 桔梗はそのまま部屋を去り、蓮が櫻より前に進み執事長と話を進め出した。


「将来、神部に入るかって言われたらわからない。俺、今それ考えたくないんだ」


 蓮の言葉に驚いた櫻。じゃぁ何の話をしにきたのだと面食らう。


「せっかくの高校生活、神部を頭の片隅に置いておきたくないくらい今が楽しい。大学行ったら少しは考えてもいいけど。だから、神部とはまだ関わりを持ちたくないんだよね。でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。この間来て見た時にね!」


「フォッフォ、サチエさんですね。楽しいかどうかは私にはわかりませんが、皆さん快適そうなのは確かですね」


「そうでしょ?!俺も、家での生活も凄く好きだけど、昔みたいにみんなで楽しく暮らしたいなって思ったのも本当。

父さんたちには何も相談してないけどね。経営の勉強は大変そうだし嫌だけど、でも雰囲気が凄く良さそうだから、そう言う環境に身を置きたいなって思ってさ」


「つまり、蓮さんにとっての”美味しいところだけ”——」


「頂きますしたいってわけなんだ。酷い我儘だってわかってるけどね。それでも、サチエちゃんと皆んなと一緒にいたいなって思って」


 櫻は驚愕した。



 目の前の人間は何を言っているのだと。



 この屋敷に住まう学生達は、神部の為に、会社と会社に携わる多くの人の為にと学校勉強の他に講義まで受けている。

 高校生の今からしないと間に合わないからだ。


 その環境から、蓮の家族は身を引いたのだ。もちろん当時は小学校の中学年。子供の意思はそこまで反映されていない。ただ、覚悟を決めて戻ってきて勉強も受け入れるならまだしも、”いいとこだけ味わいたい”と来た。





【——神部の重大な秘密を背負わされていない人間が——】





 その言葉が頭の中で黒く渦巻く。


 

 櫻の頭の中の回路がバグを起こした。



 頭の中が整理できなくなり、情報が錯乱し出した。ついには怒りが生まれた。

 

 ——ナゼ、何モ知ラナイクセニ、イイトコロダケ欲シガル——


 ——皆、大変ナ思イヲシテイルノニ——


 ——ズルイ、汚イ——


 ——デモ、コノ人ハ”知ラナイ”——


 ——デモ、知ラナイカラト言ッテ、何デモ許サレル訳デハナイ——


 ——ソンナ、我儘ハ・・・——


 ——()()()——



 目の前の、久しく一緒に生活を共にしていない、自分達に背負わされた重責から()()()者に対して、瞬間湯沸かし器の如く怒りが上り詰めた。


 武道の腕が立つ櫻が一瞬にして蓮との間を詰めた。


 そして、手が襟元を掴みそうになったその瞬間



 ——ガチャ




 執事室の扉を開けたサチエの顔が視界に入った。



『でも、そんなに切羽詰まって急いで何かする必要性はないと思います。むしろ急ぐのは危険です。』




 昨日言われたその言葉が蘇り、蓮に指一本触れることなく櫻は手を降ろした。

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