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神部家のメイド、サチエです。 〜清掃員からメイドになりました〜  作者: 杉崎 朱


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第38話 『壁ドン・・・?』



「あー終わった、終わった!これから設計図やらないとー!!」



 サチエの出戻り初日。


 神部の高校生の経営学の講義が早い時間に終わった。

 普段の講義はサチエが帰った後に終わることが多い。今日は開始時間が早かったため、まだサチエが屋敷にいる時間だ。



「小腹がすいたー!サチエに何かもらおうー!」

 

 講義が終わり、部屋から出てきて一人で喋るは双葉だ。

 続いて櫻、桔梗、楓、壱葉とゾロゾロ出てくる。


 

「なんだ、メイドは戻ってきたのか?」

「そうだよ、サチエが戻ってきたからもう部屋が快適で!メイドが居ないなら居ないで気にしなかったけどさ。サチエを知っちゃうとなんか違うんだよねー!」


 双子である壱葉と双葉が話す。

 壱葉はメイドを部屋に一切入れない。今までも一度もない。本人の中ではこれからもない予定だ。

 

「あぁ、わかるかも。空気違うよね」


 サチエに会ったことの無い桔梗が言った。


「わかる?!そう、空気良くなってんの!ちゃんと換気してくれてるんだよね!しかも湿度がいつも快適なの!紙が寄れたりしないし、乾燥することもないし!」

「優秀なんだね。そういえばなんで戻ってきてくれたの?」


「・・・そういえば、なんでだろう?バイトしなくても生活できるって言ってたのに」

「そういえば聞いてないな。まぁ講義があったから話す時間も少なかったからな」

「確かに。気になる・・・」


 疑問を軽く感じた双葉。

 興味はあるが時間がない為聞けなかったと割り切る楓。

 ふと聞かれて、とても気に掛かってしまった櫻。


「そうだよ、サチエは実家がお金持ちで」

「うちほどじゃないけどね」

「でも、お小遣いだって結構貰ってて、働く必要がなくなったのになんでまた・・・サチエまだいるよね?ちょっと俺聞いてくるっ———」


 突然廊下を走り出した櫻に驚いたのは楓と桔梗だった。


「廊下は走っちゃいけませーーん!!ってか俺もサチエに何か食べ物貰いたいんだけどっ?!」


 双葉のこの言葉もそうだが、櫻は家で走りはしない。初めてその光景を見た一行だが、その事に気づいたのは二人のみ。


 先日まで少しピリピリとしたやり取りをしていた二人が、言葉もなしに目線だけでやり取りをした。





・・・———

 



「サチエいるっ?!」


 執事室の扉を開けた櫻。そこにいたのは椿と執事長と・・・薫子だった。


「あら櫻。先日はどうもお騒がせしました。サチエを連れてきたの。またよろしくね?まぁ私が言うのも変だけど」


 そう言った薫子の顔色も顔つきもとても良い物だと櫻は思った。しかし今優先すべきは違う。

「あぁ、よろしく。で、サチエはまだ戻ってきてない?」

「さっき一旦戻ってきたわよ。それでまた出て行ったわ。誰かの部屋じゃなくて、クリーニングを取りに行くとか電球がとか言ってたかしら?」


 サチエと一緒に食べていただろうお菓子がテーブルに広がっていた。

 そしてまた指で摘んでお菓子を食べる薫子。その顔は年相応で、友達の戻りを待っているただの女の子だ。


「薫子もサチエの言葉が響いた感じ?」

「何よ急に。あぁ、最近学校でも”変わった”って言われるからそれのこと?サチエの言葉が響いたっていうか・・・サチエの言葉なのは確かなんだけど、響いたかって言うより・・・気付かされたって感じだったわ」


「気付かされた・・・か」

「だから、別にサチエが言ったことが”正解”じゃないのよ。物事の見方、つまり見る方向はいくつもあるの。私は一つの方向からしか見たことがなかったの。”一つの方向からしか見ないものだと思ってたの”。()()()()()()()()()()()()()()()()()()って思ってたの。それが違うって事に気付かされたってわけ」


 自身がサチエと接して、その後自分で考えた答えを薫子が述べた。そして話している最中に気づいた。


「・・・その様子じゃ、櫻も何か自分の中で思ってることがあって・・・『サチエならなんとかしてくれるんじゃないか』って答えをもらいに行きたいって所かしら」


「———っ!!」

「図星ね」


 サチエの嗜好品であるパック飲料のミルクティーにストローを刺して飲む薫子。



「・・・楓も双葉も——まぁ私も含めて難ありっていうか厄介者だわ。自分で言うのも癪だけど。

 割と自我が強い人間って、周りからしたら”何か固執した考えに囚われてる”ってわかりやすいんじゃないかしら?


 サチエからしたら私たちの悩みって、大したことじゃないし、むしろ馬鹿馬鹿しかったり、手に取るように簡単に解決策が浮かぶのかもしれない。でも、それは私たちのようにわかりやすい厄介者だから。


 櫻は多分一般的な”思考”と”性格”だと思う。悩みがあって何か大変なのかもしれないけど、それに関してサチエが何か言うとは思えないわ」


 櫻は論破された。

 薫子とて偏った思考の持ち主ではあったが、自分以外の分析は落ち着いてできる。サチエに偏見を取り払って貰った今なら尚更である。



「そう・・・だね。自分の事なのに人に聞こうとする事自体、ちょっとおかしかったよね」


「ちょっ!別におかしいなんて言ってないじゃない!人に聞くのは悪い事じゃないわ!ただ!サチエが櫻の欲しい答えを持ち合わせているかどうかは別——っ何で私の話しは最後まで聞かないのよっ!!」


 薫子の話の途中で櫻は部屋を出て行ってしまった。


「大丈夫ですよ。薫子さん。櫻さんは少し自分責めが過ぎる方なだけです」

 書類の破棄作業をしていた執事長が、薫子に話かけた。


「それ大問題じゃないのよ・・・私からしたら櫻って、別に何一つ問題がないと思うのよね。ちょっと自分の意見を押し殺しちゃってるような節は見られるんだけど。あれ?もしかしてそれに関することかしら?」

 

「それでも、櫻さんなら、きっと大丈夫です」

「・・・そうね。櫻が”人に助けを求める事をしようとしている”って事ですもんね」

「はい、とても喜ばしい事です」




・・・———


「(そうだ、俺の問題をサチエに解決してもらおうなんて思ってた・・・いや、違う。解決を望んでたんじゃない。解決は自分でする。決断も、納得も、全部自分だ。サチエから欲しかったのは薫子が言った事と同じ。


 ”俺と違う視点”の意見が欲しかった。


 つまり例えるなら、楓や双葉から見た俺と、サチエから見た俺は違う。

 二人が俺と一緒に居て”こう言う人間だ”と思っているのと、最近出会ったサチエが見つけた、あの二人も知らない俺の新たな一面。


 そう言う、俺自身が気づけていない、サチエだから気づけた新たな一面を教えて欲しい。


 もしかしたら、それが俺自身を変える切っ掛けになるかもしれないから———)」




 悶々と考えながら自室に戻る。クリーニングを取りに行ったのなら、各部屋に納品するはずだと考えた。

 うまくすればすぐにサチエに会える。自室にいなけれな双葉や桔梗の部屋でも待てば良い。


 最初はそうやって楓の部屋にサチエに会いに行った事を思い出した。




・・・———




「あらサチエ?お帰りなさい。もう上がりでしょ?一緒に屋敷を出ましょう?」

「薫子さん。お迎えが来るのでは?」

「いいの、今日はサチエと歩いて帰るの。そういえば櫻に会った?」

「いいえ?」



 掃除、換気、クリーニングの回収と納品。パントリーの掃除を終えたサチエが執事室に戻ってきた。

 自身がメイドになってしまった為、清掃員の数が減ったこの屋敷。


 清掃員の大半が長年勤務している年配の方だ。

 高所の作業が危ないため、電球の交換などはサチエが行っている。今日も仕事の最後に、代わりに電球の交換を一箇所してきた所だった。


「・・・そんなに屋敷の中に居て会わないことあるのね」

「櫻さん、私の事でも探してたんですか?」

「多分ね。私の話を最後まで聞かないで出ていくくらいには」


「ほぉー。でも会いませんでしたね。必要なら椿さん通して連絡でもきますでしょう。さ、私は着替えて帰りますよ」

「私、外扉の前で待ってるわ」



・・・———



 櫻が自分を探していると言われたサチエ。

 しかし、特に逃げるわけでも、いろんな場所を転々と移動するわけでもなく普段通りに仕事をしていたのだが会わなかった。サチエの行動範囲は広くない。


「(なんだこの屋敷。あれか?まさか時空が歪んで色々と屋敷内でワープしたりし———)」

 色々見ているアニメのいろんな設定が混じってサチエの妄想が膨らむ。


 着替え、更衣室の扉を出た。



「———サチエッ!!」


 閉めた扉に、後ろから腕が伸びてきた。そして、扉をドンッと勢いよく叩かれた。

 サチエが振り向くと、後ろから額に少し汗を浮かべた櫻が上から見下ろしていた。


「これはっ・・・!!壁ドンならぬ・・・・ドアドンっ!!・・・ダメですね。語呂が悪いです」

 ッチと舌打ちして自分のワードセンスの無さにサチエは悪態をついた。


「壁ドン・・・?」

「おっと、ニューワードを出してしまいましたね」


 一般的なワードでも、彼らは知らないであろう言葉を発してしまったと考えながらも、双葉に続き、神部(ここ)の男性はなぜ女性を更衣室前で待ち伏せるのだろうと疑問に思うサチエだった。

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