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神部家のメイド、サチエです。 〜清掃員からメイドになりました〜  作者: 杉崎 朱


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第33話 『とりあえずミラノ風ドリアを頼んでも良いですか?』



「どうもすみません。わざわざ店の中に入り直して頂きまして」

「こっちこそ申し訳ない!いやー、本当にこんな事ってあるんだね。髪の毛がボタンに引っ掛かるなんて漫画とかドラマの中の話だけだと思ってた」


「少女漫画もしくは月9でありそうな奴ですね」

「まさにそれ!!」


 男子高校生は、他の友達と別れた。サチエと再度ファミレスに入り、ソファー席で隣同士で座った。

 そして、サチエの器用さで10分かからずにボタンと髪の毛は離れた。


 相手は嫌がるそぶりも見せず、快く対応してくれた事にサチエは驚いた。

 そもそも、ボタンが引っかかった時点で誰もサチエを悪く言わなかったのだ。


 これがサチエと同じ学校の生徒で、時期も少し前であれば、

 『デブスの髪が引っかかった!』や『気持ち悪ぃー!もうこのシャツ着ねぇわ!』など罵声が飛んでくる。


「すみません、切れば15秒で終わったものを。一応飲食店の中なもので」

「いやいや、そんな簡単に綺麗な髪の毛切っちゃダメだって」


 褒められた。

 そして、少女漫画やトレンディードラマなどの会話もできる同い年の違う学校の男の子。


 これが一般的なんだよな。と、ファミレスには来たことのなさそうな昨日までの面々を思い浮かべた。


「お友達もまだお近くでしょう。今から向かって差し上げてください。この度は失礼致しました。私も髪型を考える良いキッカケになりました」


「・・・変えちゃうの?あ、友達の件はいいよ、あいつらとはもう散々話したし。それに、今日はこの後行くところあってね。ねえ、名前なんて言うの?ちょっと話そうよ?」

「ナンパっ・・?!」

 わざと大袈裟に驚くふりをサチエがした。 


「ナンパっちゃナンパかもね!」


「とりあえずミラノ風ドリアを頼んでも良いですか?」

「あはは!!君、面白いね!!」



・・・———



 充分に食べて話してから店を出たサチエとボタンの彼。


 なんと、ボタンの彼と同じ趣味で意気投合したサチエ。

 好きなアニメ、好きなキャラクターが一緒だった。しかも、彼の方から話しを切り出したのだ。


 自分からは他人にアニメの話をしないサチエからしたら、相手から話を切り出してもらえる事程嬉しいことはない。




「今日はありがとう。迎えがそろそろ来るみたいだから失礼するよ」

「こちらこそありがとうございました」


「本当、髪の毛絡まった時にいきなり”切る”なんて言った時にはびっくりしたよ!良かった切らなくて!

 あ、そうそう。連絡先交換しよう?赤外線ある?」

「あります。ぜひよろしくお願いします」



 そう言い、邪魔にならない道路の端に寄った。お互いの携帯電話の先端や側面にある、黒く光った通信箇所を合わせた。



「俺、神部(かんべ) (れん)。よろしくね?」

「・・・」

「あれ?どうしたの?実は初対面じゃなくてもう出会ってたとか?」


 神部の名前にサチエは思考停止した。

 しかし、流石にたまたま同じ苗字だろうと会話を続けた。

 しかし、神戸でも神辺でもなく神部だ。


「カンベ・・・最近、どっと増えた知り合いの苗字でしたのでご親戚かと思ってびっくりしました。すみません。

 私は、秋」


「サチコちゃんッ!!!」

「いいえ、サチエで——ん?」


 突然自分の名前を後ろから呼ばれた。

 なんだと思い、振り返れば奴がいた。






 


「離してくださいッ」

「離さないッ!!このまま一緒に(れん)と屋敷に来て!!じゃないと俺、楓に指の骨折られるからっ!!!」


「大丈夫です、二本折られたとしてもまだ八本ありますっ!八って末広がりで縁起良いじゃないですかむしろっ!!」

「”むしろ”って何?!全然良くないからねっ?!」



 サチエの後ろにいたのは椿だった。なんでも、サチエとファミレス談義を共にしたこの《神部 蓮》は、結局の所神部家の一族だった。今日は蓮に話があり、椿が迎えに来たところだった。


「蓮を迎えに来たのにサチコちゃんがいたんだよ?!もうこれ運命でしょ?!ディスティニーだって!!屋敷に戻ってきなって!!?お告げだよ!!」


「だから戻れるわけないんですって!薫子さんの件はどうなったんですか?!あちらのお家からクレームがそろそろ入る頃ですよ!早く神部 蓮さんとお戻りになった方が良いですよ!!


 そしてはっきり言ってください!もうクビにしましたと!」


 ファミレスの前で、女子高校生を掴む黒ベストの男性という通報案件が繰り広げられている。




 徐々に、周りの目が、人の足が止まり、周囲に人だかりが出来始めた。



「・・・椿、まずいよ。そろそろ通報されるって。そもそも三つ編みちゃんとどういう関係なの?」

 蓮が状況の説明と自身の疑問を述べた。


「サチコちゃんはね!!」

「サチエです!!」


「うちのメイドなの!!昨日勝手に辞めたの!!連れ戻さないと俺が楓に指の骨折られるの!!」

「勝手にじゃありません!退職届出しました!!」


「受理してない!!」

「人殴ったんですから受理もクソもありませんでしょう!!」


「責任感じてるんだったら違うから!責任取るって、()()()()()()()と違うからね?!」


 その言葉を聞いたサチエはピクっと反応した。

 そして、抵抗をやめた。退職を()()と言われたと感じたからだ。


 真っ直ぐに目の前の椿の顔を見た。そして一言。


「良いですね。トコトン話し合い致しましょうか・・・」


 サチエの琴線に触れたと感じた椿。思わず出た言葉は


「・・・話し合いは、再来週でも良い・・ですか・・・?」


 サチエの気迫に、椿が慄いた。



・・・———



「え?薫子の事引っ叩いたの・・・?えっ、ちょ・・・え?マジで言ってんの?!勇者じゃん?!」


 全く持って久々でない、懐かしくもなんともない、昨日ぶりに屋敷に足を踏み入れたサチエ。

 執事室のソファーで蓮に昨日の一連を話した。


「まぁ、蓮さんの立ち位置は私にはわかりませんので本来言って良い事ではないのだと思いますが、そもそも椿さんがさっきペラペラと口走ってましたからね」


「え?そうだっけ?俺知らないなぁ」

「それより、もう話を始めましょう椿さん。先ほどの『辞めれば終わり』だと私が思って昨日退職届を出したのだという件についてですが」


「ごめん!ごめんちょっと説教っぽいこと言ってみたかっただけなの!!あと目的は戻ってきて仕事してほしいだけだから!サチコちゃんに口では勝てないからぁあああ!!」


 ———ドタンッ!!!


「サチエッ!!」

「サチエ連れてきたって本当?!」


 話の途中で執事室の扉をぶち破る勢いで入ってきたのは楓と双葉だ。そして後から櫻も入ってきた。


「なんだー!!戻ってきてくれたんじゃん良かったー!」

「いいえ、違います」


「お前、突然退職届なんて冗談が過ぎるぞ。本当に辞めたのかと思ったじゃないか」

「はい、辞めました」


「サチエ、まだ薫子の方からは何も連絡が入ってないよ。考えるのはその後でも良いんじゃない?」

「お話が通じるのは櫻さんだけみたいですね」


 

 このやりとりを見て、蓮は感心した。



「サチエちゃんって凄いんだね。この三人がここまですっ飛んでくるくらいに。でもなぁー、せっかく面白い子見つけたって思ったのにな。まさか既に神部の息が掛かっていたとはな」


 見つけたおもちゃが既に売約済みだったかのように少しつまらなそうな顔をした蓮。


「息が掛かって・・・?いいえ、()()()ではありません」


「「「「確かに」」」」


 蓮以外の全員が、サチエは神部に雇用されていたが、一度でも”心まで”支配下だった事はないと同じ意見を述べた。




「で?そもそもなんでサチエは蓮と一緒にどこで何してたんだ?いつから知り合いだ?」

「今日初めてお会いしました。ファミレスで談議してたんです」


「それって放課後デートじゃん?!」

「今日初めて会ったって言ってるじゃん・・・」


「サチエちゃんの髪の毛がさ、アニメやドラマみたいに俺のボタンに引っ掛かったんだよ。それでファミレスで解いて、そのまま話し込んだだけだって」

 クスッと綺麗な顔で微笑みながら蓮が説明した。


「なんでそこでアニメやドラマって単語が出てくるんだ?」

「何?アニメとかドラマって、大抵髪の毛がボタンに引っ掛かるの?」

「それ、桃の天然水のCMと関係ある?!」

「あー、多分俺たちには理解出来ないやつかなぁ・・・」


「つまらない人たちですね」


 サチエのぶった斬りに、四人は喉を詰まらせ、蓮は大笑いした。

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