第29話 《神部 薫子という女 2》
「あら?あなたが薫子さん? 初めまして。私、神部 八重です。よろしくね?」
ある日、学校帰りに楓のいる屋敷に行った私の目の前にいるのは同い年らしき女の子。
髪の毛は私のストレートと違い、天使のようにふわふわとカールしてる。
神部の本家に生まれ、中核におり、男子と同じ教育を受け、経営に直接関わることを期待されている
”女”
・・・———
雷に打たれたかと思った。
その女と邂逅した事で、私の中の可愛いかった欲望は、棘を纏い、汚い色へと変化を遂げてしまった。
「どうしたの?体調悪いのかしら?」
返事をしなかった私に、目の前の女が心配をする。その心配は善人ぶってるのか?ムカつく。そうやって優しい人間気取り?良い女気取り?ふざけないで。
「・・・!!八重っ!!」
私とその女が向き合っていたら、壱葉がやってきて女の背中を押して何処かへ連れて行った。
廊下の角を曲がったところで話し出した壱葉。
私は無意識にその後を追うように着いていった。
「薫子と関わりを持つな!」
「なんでよ?みんながいつも話してる”薫子さん”でしょ?良いじゃない私も話したって」
え?いつもみんな私の事話してるの?
ちょっと嬉しくなった。
「ダメだ」
「何で?私だけ仲間はずれにするつもり?」
そうよ、お前は仲間はずれにされてろ。入ってくるな。大体みんなといつも一緒にいるんだから良いでしょう。
「そう言う意味じゃない。・・・八重と、薫子は多分・・・合わないだろうから」
「何よそれ、当事者以外がうるさいわね」
「人の忠告は素直に受け入れるべきだ。お前を案じてなんだから」
・・・私じゃなくて、そっちの女を案じて?
ってことは何?私の方が”何かをしそう”な女って事?
は?壱葉、どう言うつもりで何言ってんの?
一瞬にして壱葉に敵対心が生まれた。
何よ、私は知ってるんだからね。貴方たちのお母さんは不気味がられて屋敷から追い出されたこと。だから貴方たちは神部の会社に入れない事。良いわ壱葉。貴方が私に対してそう思っているのなら、私が貴方が空けた経営者の枠に入ってやるわ!!双葉もちょっとだけ気に食わないしね!!見た目は凄く良いけど!!
その日は二人以外に会わずに帰った。
いいの、ちゃんと考えていつか全員私の虜にしてみせる。私が一番になるのよ。
そう思いながらも、その日会った《神部 八重》という、私と同じ苗字なことに腹が立つその女の事がちらほらと思い出される。
私より良い学校に通い
私より良い教育を受け
私より一流に触れている時間が長く
私より可愛い
ムカつく!!ムカつく!!ムカつくっ!!!!!
私が一番可愛くて!!
私が一番みんなに構ってもらえて!!
私が一流じゃないなんて許せない!!
そう思って、どうにか希望通りにしようと躍起になりながら生活を送った。
中学校三年の夏休み、吉報が入った。
「八重が留学するんだ」
櫻から聞いた吉報。運は私に味方をしていると思った。やっぱり!私が一番なのよ!
しかも神部 八重の留学期限は今の所未定。何年も留学する人いるからね。まずは環境が整ったわ。
私の方も、高校受験はないにしても、成績を落とすわけにはいかない。
学校の授業で割と十分だけど、放課後クラスメイトとたまに勉強会をすることもあった。ほとんど復習だし、わからないこともすぐにわかるけどね。ファミレスに行かされた事もあったわ。周りは高校生が多く、中学生だけで来ているのは私たちだけだった。
そして私は晴れて高校生になった。
よし、これから!!とまた自分の人生プランを確認する。
あの女がいない間に、みんなの関心をもっと私に向けるの!!
そう、ウキウキだったのに突然舞い込んだ知らせ。
・・・———
「楓はダメだな!!ありゃあの学校に通ってる意味はない!!仕事はできない、確認も遅い!!何人の社員の仕事が止まってると思ってるんだ!!会長も社長も何を考えているのか全くわからん!子供に見させる意味はないだろう!!」
叔父さんがうちに来てものすごく怒ってた。
「まぁまぁ、そうやって今の社長たちもあれ程凄くなったんだ。きっとすぐに成長してくれるって」
「待てん!!こっちは1分1秒を争うんだ!」
パパは温厚。叔父さんは正反対。こうやって、叔父さんを宥める光景を小さい頃から見てきた。
「ねぇ叔父さん、楓ってそんなにダメ?」
「ダメだ!ダメだ!極め付けには、変なメイドまでいたぞ!!今まではそれなりな見た目のメイドばかりだったが信じられないほどのデブスだ!!それに、ワタシが楓の部屋に入って話をしているのに、子機で椿を呼んだんだ!!お陰で連れ出された!なんて小賢しい!!」
・・・デブス?
「でも、どうせすぐにクビになるでしょ?あそこ、メイド続かないって言ってたし」
「ふんっ!知らんがな。まぁそうなるだろうな」
デブスなら、もって三日かな?と思ったのだけど、自分の屋敷のメイドさん・・・(もうおばあちゃんだけど)に聞いて、向こうの執事長と世間話がてらに聞き出してもらったら、なんか重宝されてるとか言い出した。
バイトでしょ?
一流どころか三流以下でしょ?
デブスなんでしょ?
何?神部 八重がいなくなったと思ったのに
もっとレベルの低い邪魔者が入ってきたわけ?
そんなの許せるわけないじゃない!!
・・・———
だから私は屋敷に乗り込んだ。
経営者枠がどたらこうたらも嘘じゃない。
でも一番は、メイドが許せなかった。
どうして、どうして、どうして
私の方が頭良くて
私の方が可愛いのに
どうしてみんな、そのデブスを重宝するわけ?!
双葉と対面して、出るわ、出るわ。口から出まかせ。
みんなと一緒に、一流と一緒にいたいがために口から出た出まかせは『こっちの屋敷に住む』。
絶対無理よ。でも、もう話がおかしくてもなんでもいいの!!もうムカついてこのままじゃ私が私を保てないの!!どうして私じゃなくてそのデブスが?!もう全部意味わかんない!!絶対に追い出してやる!
屋敷で部屋をもらい、メイドの仕事をしてみたけど、面倒だし大変。ここから私の学校は少し遠いし、大体せっかく来たのに楓と双葉はもう良いとして、櫻や萩たちに会えない。柊は本当にこの屋敷に住んでるの?!柊だけでなく、屋敷で名前も出ない同級生が他にもいる。
桔梗は彼女がいるからもうどうでもいい。私じゃなく他の女を選んだ男なんて、こっちから願い下げよ。
そして、メイドを屋敷から追い出したくて、双葉の校章を盗んでメイドの鞄に取り付けた。
あんなの窃盗って言われるに決まってる。有名な学園の校章だものすぐにバレるわ。まぁ、私も小学校の時のクラスメイトに言われて調べて初めて知ったんだけど。
でも、それでもメイドが疑われることはなかった。
それどころか私が怒られた。は?なんで?
あまりにも腹が立った。
証拠として指紋があーだこーだ言ってたけど、もうそんなのどうでもいい。
双葉の校章でうまくいかなかったのは、『屋敷の人間が第一発見者』じゃなかったから。執事室の人間、あと楓と双葉。ここに最初にバレたらメイドを擁護するから意味がない。
そう。警備員や、メイドとあまり接点のない人間に発見してもらわないといけない。執事室が介入する余地もなく、その場で処分されるように仕向けなければ・・・!!
そう思い、楓の部屋に入った。本当にラッキーだった。ローテーブルに交渉が無用心に置かれている!
これを、あのメイドが着て帰る制服につけて置けばいい。デブスは身なりを気にしない。自分の制服に何かされたって気付かないわ。
そうすれば、屋敷から出る間に絶対に誰かとすれ違う。この校章に家の者なら気づくだろう。あのメイドは今日でこの屋敷を追い出される!!
そう思っていた私の考えを、内線子機の電子音が破壊した。
そして今の状況は何?
『今回の件、不問にしてください』
メイドに庇われている私。
私の考えだけではない。尊厳から何から・・・全てが音を立てることすら許されず、誰にも気づかれずに無音で脳内で崩壊していった。




