第26話 『クリームコロンです 』
「改めて考えるまでもないだろ。サチエが気づかないうちにそんなことができるのは勤務中に勝手に鞄に校章をつけたからだ。つまり、女子更衣室に簡単に出入りできて怪しまれない人間だ」
楓が少し呆れた表情をしながら説き始めた。
「それは、佐藤さんか・・・いや、そもそも双葉さんの部屋に入れない人は除外ですね」
「じゃぁ薫子じゃんよ。でも決めつけは良くないよ?探偵の出番も無くなっちゃうじゃん!」
「探偵は最初から要らない。薫子には説教が必要だな。ただ、まずは言い分を聞かないとだな・・・まぁ聞かずとも検討はつく。18金と知ってか知らずかはどうでもいい。他人の私物を勝手に取ったんだ。窃盗に仕立て上げたかったんだろうな。あまつ、その犯人をサチエにしようとしたんだ。大方、サチエを屋敷から追い出そうとでもしたんだろう」
「「流石名探偵カエデ」」
「でも、まぁサチエ側にはプラスに働いたのだから良かったな」
「・・・本当にプラスですか?」
「同級生も知ってたんだろう?うちの学校の校章を。だから周りも怪訝そうにしてた。その校章を持っている人が近くにいるならサチエに変なことをしてくる奴はいないだろう。少なくとも嫌がらせは減るだろうな。媚びを売ってくる奴が増える可能性はあるが」
「あぁ、まぁ、金持ってます。権力持ってます。の印みたいなものだからね。だからこそ、危険でもあるんだけど」
楓の言うプラスの面に対して、双葉がマイナスの補足をした。
「私は知らなかったですけどね。最初から私立高校に行くつもりがなかったから調べもしませんでしたし。あれ、なんかそういえば今思えば母がなんか言ってたような気がするようなしないような・・・」
サチエの母はモデルでデザイナーで経営者だ。資産も名誉もある。つまり、サチエも楓たちと同じ学校に通えるだけの家柄である。母から高校のパンフレットをたくさん見せられた時、母が一人で18金と騒いでいたような記憶があるような気がしてきたサチエ。
「まあ、もういいでしょう。では私は仕事してきます。あ、双葉さんさっさとピンバッジ取ってください」
「良いじゃん!つけときなよ!」
「18金はお金になるから盗まれます。公立高校のザルセキュリティー舐めないでください」
「ザルセキュリティー!!」
「じゃあ解散だ」
楓の一言で締まる。この一件は楓以外の二人からしたらもう終幕である。
「はい、失礼致しました」
「あ!サチエ今日のお菓子は何?」
「クリームコロンです」
朗らかな空気でこの場は解散した。
・・・———
「で?なんでこんなことをした」
「なぁに〜?私なんの事だかわからないんだけど?」
執事室で楓が薫子を問い詰めている。椿と執事長はいるが、サチエは本日のバイトは終了して帰宅。
「わかるだろう?指紋調べればすぐにバレる。無駄な時間を使いたくないんだ」
「・・・」
口を閉ざした薫子。
「ねぇ薫子ちゃん、身内だからこの件は今回は不問にするけど、絶対やっちゃダメだよ?それが、校章とか高価なものだからって意味じゃない。人の物を勝手に移動させたり、それをまた人の荷物に入れたりとかしちゃいけないんだよ?」
「入れてないわ。着けたのよ」
薫子が認めた。他者にはわからないが、歯を食いしばっている。
「理由は?なぜただのメイドに当たる?」
「じゃぁ、なんでただのメイドに楓も双葉も優しいの?!」
「優しくなどない。普通だ。面白くはあるが。それより理由を言え」
そう言われても薫子は口を開かない。その顔を見て楓はこれ以上問い詰めても意味もなければ時間も勿体無いと判断した。そんな薫子の隣を、楓が通り過ぎながら言った。
「いいか、二度とするな。この件は双葉もサチエも口外はしないだろうし、ここにいる我々も言わない。ただし、今回限りだ」
扉を開けて執事室から出て行った。
楓が出て行った扉を振り返り、怒りを通り越した顔をした薫子。心の内が小声で出た。
「絶対に認めない・・・っ!!許さないっ・・・!!」
・・・———
「あ、サチエだ。また会えたね」
今日も今日とてバイトで掃除をしていたサチエ。本日も勤務開始直後に楓の部屋を掃除している。そして、楓の部屋にやってきた櫻。
「・・・他の方のお部屋に入っても問題ないのですね・・・?」
「あぁ、何かを漁るわけじゃないからね。そう言うところは全員ちゃんとしてるから」
「なるほど、皆様方の信頼が厚いのですね。櫻さんは今日はお忙しくないのですか?お飲み物ご用意しますか?」
「元々は楓と一緒に今日も経営の講座があったんだけど、講師が一時間ばかり遅れてるって連絡が入ってね。楓はそのまま講義の部屋にいるんだけど、俺は気分転換に部屋を出てきたんだ。だからちょっとしたら戻るから飲み物は大丈夫だよ。ありがとう」
そう言って、ソファに腰を下ろした。
「そうでしたか、では私はこのまま掃除を行います。何かございましたらお声かけてください」
「・・・うん」
そのまま10分ほど、櫻はソファーに座っていた。何をするわけでもなく、サチエの方を向いていた。サチエはサチエで、先日から気になっていた床と壁の間の飾り板の汚れを今日こそは完璧に落とそうとしていた。清掃員の時によく使っていた洗剤を許可を貰い持ってきた。
屈んで一生懸命に掃除をするサチエを眺めていた櫻だが、目の前のローテーブルの角に金色に輝くバッジを見つけた。
「あれ?楓こんな所に校章バッジ置いてる・・・無用心だな」
櫻が驚いた。サチエはその声を聞いてふと思ったことを言った。
「あぁ、18金の・・・いえ、楓さんのは24金だと聞きました。誠に意味がわかりません」
「24金・・・そう、24金なんだよ、俺たちの。しかも、24金の校章バッジには、仕掛けがあってね・・・」
『仕掛け』その言葉にサチエは興味をそそられた。
「櫻さん。その『仕掛け』とやらは私が聞いても消されないものでしょうか?消されないのならば是非」
「・・・!くくっ!消されないって!面白いね、サチエって。この24金の校章バッジはね、金にモノを言わせて作った『超小型GPS』『超小型カメラ』と『マイク』が入ってるんだよ。だから、誘拐されても場所が特定できるようにね」
そう言って、楓の校章を手に取った櫻。
「・・・マジですか」
「マジです」
「その技術!どこの企業ですか?カメラもマイクもこんなに小さいの今の時代あるんですか?GPS・・・のサイズはよくわかりませんけどどのみちこの小さい校章にそんな機能てんこ盛りはまずいですよ。日本の技術一人勝ちですって」
「でも、どの企業もみんな作り始めてるから時間の問題だよ。きっと、あと10年もしたらこれが当たり前になるって」
「それを、24金と合わせて、さらに高校生に持たせているという謎の学園・・・」
サチエからしたら謎だらけである。やはり、金持ちがすることは意味不明だと改めて感じた。
再び、床に這いつくばるようにして掃除を再開したサチエ。そして、櫻がサチエの掃除箇所を気になってついてきた。二人してしゃがみ込んでいるため、大きなベッドに隠れるようになっている。
「それで?汚れは落ちそう?」
「もちろんです。この洗剤なら汚れは落ちますし、素材も痛みません。ピッカピカです」
「楽しそうだね。元々清掃員だって言ってたけど、掃除が好きなの?」
「好きというか、得意だったといいますか・・・あぁ、嫌いじゃないからですね」
「へぇ・・・意外と消極的な理由だね。好きだからだと思ってた」
「まぁ、好き嫌いより、掃除をし慣れてる為”掃除が嫌だ”と感じないんです。掃除を嫌がる人もいますけど、私はたまたまそうは思わなかったんです。多分、やり方や段取りを覚えると気にならなくなるんでしょうね」
「そういう考えで清掃員か・・・」
「あ、あとは人と喋らなくて———」
———ガチャン
突然、楓の部屋の扉が開いた。




