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神部家のメイド、サチエです。 〜清掃員からメイドになりました〜  作者: 杉崎 朱


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第25話 『・・・では、名探偵サチエの始動ですね』


 サチエは放課後を迎えた。


 まず、バイトに行く前に鞄から取り出したのはお菓子である。学校で、きちんと授業を受けて頭を使ったのだ。ブドウ糖の補給が必要だとラムネを取り出した。


 シリコンの様な柔らかいプラスチックキャップを『ッポン』と開けて振り、中から3粒取り出した。そして口に入れる。

 最初はちょっとしか味がしないが、舌で舐めていると表面が溶け出す。そして次第にラムネの味がどんどんと濃くなっていく。


 ラムネ同士が口の中でぶつかって、できた傷からほろほろと崩れ出した。すると、数秒で口の中にラムネが広がる。


 その瞬間を噛み締めるサチエ。



「あの、秋さん・・・」



 ラムネを堪能しているサチエに声がかかった。屋敷では『サチエ』と呼ばれることが多く、苗字である『(あき)』と久々に呼ばれて一瞬誰だ?と思ったがすぐに自分だとわかった。


「はい、なんでしょう」


 帰りの挨拶も済んだ今、教室から出ていく生徒や残って喋り始める生徒がいる中、クラスメイトの男子がサチエに声を掛けた。その瞬間、教室の時間が止まったかのように、空気が凍りついた。


 普段、サチエに話しかける者は限られているからだ。加えて、男子は誰とも話さない。



「あの・・・秋さんのカバンについてるピンバッジって・・・」


 

 そう言って男子生徒はサチエの鞄を指差した。サチエは鞄にピンバッジをつけた覚えはない。ピンバッジに見間違えられるようなものをつけた覚えもない。疑問に思い、自分の鞄を見る。鞄のポケットに見覚えのないピンバッジが着いていた。


「・・・なんですか?これ?」


 聞かれたサチエが質問者に聞き返した。


「それって、あの金持ちしか行けない有名私立学園の校章ピンバッジだよね・・・?なんで秋さんが・・・?」


 その男子生徒の言葉に、凍りついていた教室の空気だけが変わった。誰も言葉を発していないのに、人の驚きや気持ちでこれほどまでに空気というのは変わるものなのかとサチエは違う方向に驚く。


「ん?ちょっと待て?・・・金持ちしか行けない有名私立学園の校章・・・とは」


 心当たりのあるサチエ。



「嘘っ?!あの学校の?!」

「なんでデブスがっ?!」

「意味わかんない?盗んだんじゃないの?あり得なくない?」

「でも、もしかしたら親戚にいるのかもよ?それでウチらに自慢とか威嚇とかするために借りてきたんじゃないの?!」

「マジあり得ない!それだったらダサくね?」


「でも・・・あの学園の校章を”貸してくれる程の中の良い人がいる”って事でしょ・・?」

「盗んだんだよ!」

「盗む隙とかなくない?大体が送迎付きなんでしょ?スクールバスだってあるって言うじゃん」

「じゃあ・・・」


 周りが勝手に騒ぎ始めた。それってすごくね?え?逆じゃね?うちらやばいんじゃね?と勝手に推測して勝手に不安になったり勝手に嫉妬が始まった。



「金持ち学校の校章・・・!こんな事するのは・・・!!!」



 サチエはラムネをまた口に放り込んでから残りを鞄にしまい、勢いよく走り出した。




・・・———



「双葉さんいますかっ!!!!!」


 珍しく大きな声でサチエが執事室に入ってきた。勿論、自身の鞄を持ってである。


「サチエ!!良かったー!あのさ」


 執事室には椿と双葉がいた。何やら話をしていたらしい。


「双葉さん!!なんっっっっっっって事してくれたんですか!!なぜ私の鞄にあなたの学校の校章を?!気づかない私も私ですが、お陰で男子生徒に話しかけられてしまったじゃないですか!しかも教室の中で!!」


「・・・?あぁ、サチエが持ってたんだね?え?クラスで男子と話したの?みんなの前で?良かったね?」

「全然よくありません。ささ、早くこの忌々しいピンバッジをお取りなさい」


 ズモモモモと効果音がつきそうな迫力でサチエが鞄を双葉に突き出した。


 そして、ピンバッジを外した双葉が校章が掘られている面の反対側をみた。


「Futaba Kambe。うん、間違いなく俺のだ」

「そりゃ双葉さんがしたんでしょうから双葉さんのでしょう。他の人の校章でやるなんてタチの悪い・・・んの?校章に名前掘られてるんですか?やっぱり金持ちのやることは違いますね」


「てか、サチエがこの校章持ち出したんじゃないの?」

「なぜ私がそんな1円にもならないことを・・・?」

「いや、1円以上の価値は・・・・・確かにっ!!」



 聞けば、ここ数日双葉の校章が見当たらなかったらしい。部屋を掃除しているサチエなら見かけたかもしれないという話を椿が双葉にしていたところだった。



「俺が落としたんだと思ってたんだ。でも、サチエの鞄に着いてたのか・・・まぁ、校章のおかげでクラスメイトと仲良くなれたみたいだしサチエからしたラッキー」

「なわけありません。クラス中がどよめいてましたよ。時間が止まったかと思いました。いや、あれは止まってました。今日、あの時間だけ、世界の時間が止まりましたよ。双葉さん、あなたは世界の時間を止める男です」


「待って待って!俺の校章が原因だとしても、やったのは俺じゃないからね!?誰かがサチエの鞄につけたんだよ!」

「誰がそんな1円にもならないことを」

「・・・1円にもならないかも知れないけど、見えないマイナスを減らしたかも知れないじゃん?」


「あぁ、このピンバッジを私がつけないと、見えない負債1億円が発生したかも知れないということですね。そして、私がつけたことによりその人の中では負債1億円が、0円になったと。1円の稼ぎもないですが、負債1億円が相殺されたとしたらそれはかなりのプラスと言えるでしょうね。で?どなたが?」

「俺とサチエのせいじゃないとすると・・・」


 サチエと双葉がその場にいたもう一人を同時に無言で見る。


「えええ!?俺がそんなことするわけないじゃん?!なんでよ?!てかそれ売ったら何万円もするからね?!1円どころじゃないから!!でも売ってもすぐにバレるけどね?!」


 椿は思いっきり否定した。残るは


「楓、櫻、じいや、または・・・薫子の線が濃厚かなぁー。別に校章が無事に手元に残ってきたら良いけどさぁ。これ無くしてたらそこそこに大問題だからね。これ、18金だからね?」

「18金を子供に着けさせる学校側に問題がありますね」



・・・———



「で?知らぬ間につけていて結果どうだったんだ?」


「なんか、気づいたクラスの人たちは怪訝そうな顔してました。ヒソヒソと何か話していたのはわかりますが、攻撃はありませんでした。でも、今日に限らず最近攻撃されること減ってますから、校章だけのおかげかどうかは」


 屋敷から楓を探し出したサチエと双葉。これから経営の講義が行われる部屋に居た。


「じゃぁ結果良かったじゃないか。いじめも減って、他の者がサチエを見る目が変わったんだ。クラスの人間だけが知ったとして、そんな話、明日には学校の半数に伝わるだろう。そのまま何日かつけてれば良いじゃないか?双葉も、無くしたわけじゃないってわかったんだから良いだろ?」


「楓?!?まさかお前がサチエの為に・・・!・・・だったら自分の校章でやりゃ良いだろ?!ってか俺に一言いえば良いだろう?!」

「そう、俺がやるんだったら自分のを使えばいい。サチエにあげたって問題ないしな」


「いや、あげるのは問題あるだろう。お前のは24金だ。ダメだろ」

「双葉のを使うとしても一声掛ければ良い。言わない理由はなんだ?」

「・・・楓でもないかぁ。まぁ薫子だと思うけど決めつけるのは良くないしな。ちょっと偵察するかー。今日で課題も落ち着いたから少し時間もできるし。サチエ、一緒に探そっか」



「・・・では、名探偵サチエの始動ですね」

 サチエの眼鏡が光った。


「それなら『名探偵双葉』の方がいいだろう?良いよ、本気で心読むから!俺の方が探偵っぽくない?」

「それは探偵でも推理でもありません。それに、カタカナの私の方がより名探偵です。『名探偵サチエ』字面だけで騙される人が出てきます」

「なんの話?サチエってカタカナなの?ってか何かの漫画の話?」

「私も来年には彼と一緒の『高校二年生』になりますから」

「わかった。その漫画持ってきてよ」




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