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神部家のメイド、サチエです。 〜清掃員からメイドになりました〜  作者: 杉崎 朱


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第24話 『誰ですか、同級生の女の子って』


 薫子が屋敷に来てから一週間が経った。


 サチエの持ち場は三部屋だ。楓、双葉、そして写真だけでしか見たことのない桔梗(ききょう)の三人だ。同じフロアの櫻の部屋も担当する予定だったが、櫻の部屋に入ることを薫子が拒否をしている。


 わがままを聞く必要はないのだが、あまりにも荒れ狂う為にサチエが櫻の部屋を掃除するのが延期になっている。その間は椿が担当をしている。



 サチエは今週は、部屋の主たちとは誰一人会っていない。少し前までは良く会って話をしていたが、最近は経営の勉強や学校での作業があり、帰りが遅かったりと部屋を空けている時間が多い。


 そのため、部屋の掃除と、あらかじめ設置されたクリーニングする衣服を入れておく籠から出して持っていく作業の繰り返しだ。


「(みなさんと話すのが嫌なわけではないが、居ない方が仕事がサクサク進む。15分の休憩もちゃんと取れてお菓子も食べれる。パートの佐藤さんとも喋れる。そして薫子さんとのエンカウントも少ない。最高)」


 あまりにも順調で、これは嵐の前の静けさなのではないかと思うほど。一瞬、予期した不安に身震いをしたサチエだが、すぐに買ってきたシュークリームに齧り付いた。



・・・———



 休憩を取って仕事に戻ったサチエ。パントリーの掃除でも久々にしようと思ったら、そこに薫子がいた。同じフロアで鉢合わせしないようにと楓が気遣ってくれたものの、薫子は割とその決まりを平気で破る。


 なぜ、そのような面倒な決まりが設けられたのかも、目の前の少女は考えたことがないんだろうな。自分が思う通りに事を進めたいのだなとサチエは少々呆れた。


 10代の女の子なんてわがまま言ってナンボなのだろうが、わがままと傍若無人は全くの別物だと頭で考えながらサチエは来た道を戻った。



 今日の勤務時間終了まであと一時間ある。それならば、通常の掃除よりももっと念入りにしようと思い、楓の部屋へと戻ってきた。爪楊枝や綿棒を手にして、細かい隙間掃除を開始したのである。


 見えない部分に溜まっているゴミが出てきては、綺麗になったとサチエは悦びに浸る。夢中になりすぎていて、部屋に人が入ってきたことにも気づかなかった。



「凄く真面目に仕事してくださるんですね」

「・・っ!」


 夢中になっていたとはいえ、人が自分の真後ろに居た事に気付けなかったサチエは驚いた。これが不審者だったなら自分はもうこの時点で終わっている。という謎の危機管理が発動した。

 そして自分は今、床と壁の間の飾り板の埃をほじくっている最中だ。屈んでいる。戦闘体制を取れない事に焦りを感じた。


「あ、突然声をかけてすみません。驚きましたよね」


 その声に瞬時に振り向いた。


「初めまして、神部 (さくら)と申します。お話しは聞いています。お顔を見たくて来ちゃいました」


 そこには、桜の花がまだ満開かの様な、美しい桃色の髪の毛をした好青年が膝を折ってサチエと同じ目線で自己紹介をした。









 主人が居ない部屋で、コーヒーを飲む櫻。そしてその光景を見ながら掃除をするサチエ。

 

「そっか。まだ俺の部屋は椿がやってるんだ。薫子が来てるのか。知らなかったな。誰もそんな話してくれなかったし」

「薫子さんは、櫻さんと接触をしたい様子です」


「俺は別話すことないんですけどね。あの子ちょっと大変なので」

「そうですか」


「そういえば、楓の体調不良を治してくれたのがサチエさんだと聞きました」

「治しておりません。そして、敬称と敬語は不要です。呼び捨てでかまいません」


「え。でもそれは女性に失礼では?」

「いいえ、むしろむず痒いのでどうか」


 櫻は少し考えるようにした。丁寧な接し方をごく自然としているところを見るに、きっと普段から同級生にもこのように接しているのだろうとサチエは感じた。


「じゃぁ、サチエ。これからよろしく」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします。ですが、薫子さんから櫻さんの部屋を掃除しない様に言われておりますので、接点はあまりないかと思います。それに、新しいメイドを雇うまでの間だけの担当ですから」


「え?新しいメイドが来たらサチエは辞めちゃうの?」

「いえ、清掃員に戻るだけです」

「清掃員?!」


 可愛らしく朗らかな櫻の顔つきが変わった。非常に驚いている。今まで会ったことのあるこの家の人間は全員顔が良い。特に櫻は楓の様な刺々しさが無い。これは相当モテるだろうと関係のないことを思いながらサチエは返答する。


「はい、元は清掃員でした。メイドが続かないと椿さんが嘆いていた時にたまたまその場にいたのが私です。次のメイドが見つかり次第私は清掃員に戻ります」

「もったいないなぁ・・・。あの楓とあの双葉が気に入っているというのに。俺も楽しみなんだけどなぁ。こうやって気軽に同級生の女の子と話すことはないから」



「誰ですか、同級生の女の子って」

「サチエ、君のことだよ」



 クスッと櫻が笑った。最近はこの様にして人の笑顔を見ることが増えたなぁとサチエはしみじみ思う。まぁ椿に関しては馬鹿笑いだが。

 こうやって、櫻との顔合わせを予期せず果たしたサチエだった。



「ところでつかぬ事を伺ってもよろしいですか?」

「ん?」

「事前に櫻さんのお顔をお写真で拝見しておりました。中学校の卒業式の写真なので三ヶ月前のものだと思うのですが・・・」

「あぁ、見たんだ」

「はい。あの、その髪の毛の色はどうされたのでしょうか?黒髪でしたよね?神部の教育の厳しさは主に双葉さんから聞いてます。お家の方がピンク色を許容されるその理由とは・・・?」


「あぁ・・・話すと長いから結論だけ言うと、『賭けに負けた』んだよね」

「それで許してくださるのですか。案外面白いご家庭ですね」






・・・———






 最近ではいじめる方も飽きて来たのか、上履きを切られることも、私物を壊されることも、教科書に落書きをされることも減った。


 しかし、姿を目にしたら一言二言の悪口やヤジが飛んでくるのは相変わらずである。それでもかなり減った事に、サチエは少々不思議に思いながらも快適さを感じていた。


「(攻撃されていた時でさえ、私生活はそれなりに楽しかった。それが減った今、それはもうパラダイスである)」


 そう思いながら今日も登校をする。


 校門を通る頃には、クスクスと笑い声が聞こえる。それは、派手な見た目の普段からいじめる女子だけではない。他人目線で言うと、学校、学年、クラスのそれぞれで”ランク”の様なものがあるらしい。派手な見た目でいじめなどを行うものが上位ランク。


 「(そして、そこまで派手ではないけど、イベントでは一体感を出して上位たちとの境を無くして一緒にはしゃいだり、それなりな見た目だと他者から位置付けられている中級。そして、地味に生きている騒ぎもしない下級。そして私の様な者を下級以下と思う世の中)」


 その、下級すらもサチエを見て笑うのだ。そう、まるでそうやって嘲笑っている自分達は下級ではないと主張するかの如くである。



「(しかし。


 ランクなど無視をし、どの級にも属していない私こそ、”特別”なのだ。自分の価値は自分が決める)」



 サチエはいつもそう思っている。



 この日も、授業を受け、ノートを取り、普段通りに授業を終えた。


 ただ、朝、教室に入った時からサチエは『おかしい』と感じていた。登校時は他のクラスや他の学年がおり、いつも通りに笑われるだけだった。しかし、教室内では普段感じる何かを今日は感じない。おかしいと思った決定打は、”クラスの人間がサチエを見る目が違う”。


 今日は、同じ教室の人間からは嘲笑われることはまだ一回もない。ただ、みんな怪訝そうな顔をしてサチエを見ることはあった。おかしい。なぜ笑わない。ここ最近というより、入学してからサチエの行動はずっと同じである。何かを言ったわけでもしたわけでもない。



 ではなぜ今日?



 不審に思いながらも、サチエは誰かからも攻撃されない快適な一日を過ごした。

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