第21話 『ピンキーです』
執事室に入ってきた女の子がサチエに喰ってかかっている。
そして、その間に双葉が入った。女の子からサチエを庇うようにだ。双方の視界に入れないように立ちはだかる。
「双葉!ちょっと説明してよ!こっちきて!」
「薫子、何しにきたの?」
双葉は目の前で騒ぐ親族の女の子の名前を呼んだ。そして、何しにきたのかと問う。
「別に私がこっちの屋敷に来たって良いでしょ?叔父から聞いたの!!楓の部屋に変なメイドがいたって!」
それを聞きサチエは考えた。楓の部屋に出入りしている人。職員以外で知っているのは執事室の者。あと双葉と壱葉。それに読まれていたとしたらその二人の母親だ。それ以外となると———
「この間のハゲおや・・」
「ゔゔんっ!!この間薫子の叔父さんが楓の部屋に怒鳴り込んだ時の話?」
サチエの失言を双葉が咳払いでかき消した。
「怒鳴り込んだ?その辺は知らないけれど、楓の部屋に入った時にデブで不恰好なメイドが居たって!!すぐクビだろうと言っていたのに、人伝に聞いたらまだ居るって言うし、なんなら仲が良いって聞いたの!嘘でしょ!?今ももう退職の手続きするところでしょ?!」
「・・・お前が何をどう聞いて今日ここに来てそれを言っているのか知らない・・・けど、とにかく人のことを悪く言うな。サチエに失礼だろう」
「知らないわけないでしょ!ちゃんとわかるでしょ!」
薫子はきょるんとした顔でいう。見た目こそ、しっかりと整えられており可愛いが、中身はとんでもない。双葉が察した薫子の心の中はサチエへの誹謗中傷で満たされている。他、とんでもなくドス黒い何かを感じた双葉。
しかし、薫子の言いたいこと自体はわかる。サチエは太っている。着ているメイド服も備品になく改めて注文した大きいサイズだ。確かに面積は今までに雇ったメイドよりも大きいだろうが、醜い訳ではない。ただ、運動量を増やすか間食を減らした方がいいと双葉も思う程ではある。しかし、それを初対面の人間が言うには失礼だと双葉は考えた。
「あのな!自分の物差しだけで他人を測るな!サチエの見た目をお前がどう思おうと、サチエと俺たちには関係ないんだ。この屋敷に住んでない人間なんて特にな。いや、住んでても関係なくない?」
「住んだら関係あるわ!私、そんな見苦しい見た目している人間を屋敷におきたくないもの!」
「だからお前は住んでないんだからもっと関係ない———」
「住むわ!この屋敷に拠点を移すの!」
「は?」
「え”っ?!」
「おや?」
双葉、椿、執事長の順番で声を上げた。
その声でサチエは悟る。多分、彼女の嘘か、もしくは居住を移す話や手続きをするために今日、今ココに来たのだと。
「(マジですか。こりゃ私クビにされますね。痩せてまでここにいたいとは思いませんから次の仕事を探さなくてはですね。接客は面倒だけど、仕方ない。マックのクルーにでも挑戦するか。そうしたら週5でマックに行く理由があるわけで、月曜日はチーズバーガー、火曜日はポテト、水曜日はマックチキ)」
「サチエ切り替え早すぎるから!!クビになんてさせないし?!絶対うちの方が時給高いから!あと痩せるの大変なら俺も手伝うし!!あとなんでマック?!」
「双葉さん、読んだ挙句に人様の前で全部を言わないでください。マック美味しいじゃないですか」
「マックを否定してない!辞めるのを否定!椿もじいやも困るから!」
「じゃあモスにします」
「もうその話じゃないから!」
自分が拠点をこの屋敷に移すと宣言したにもかかわらず、すぐにサチエの話に双葉が喰いついた。薫子は気に食わない。すぐさま口を挟む。
「私の話をしているの!!ここに拠点を移すの!!」
「薫子ちゃん、俺たちそれ聞いてないよ」
「そうですね、私も初耳です」
執事室の部屋の奥、窓側にいた大人二人が扉の方へ歩みを進めながら口を開いた。
その、大人二人が醸し出す少し冷たい空気をサチエは感じた。
「そ、それは、私から説明いたしますっ・・・!」
その空気を感じて口を開いたのは、薫子と一緒に来た付き人である年配の男性だった。
・・・———
「経営者枠?」
「そうよ!」
「多分、その判断力と性格じゃお前務まらないよ」
「な!!双葉や壱葉が経営者枠と違う仕事を選んだから、私がそこに入るの!だからこっちの屋敷に移って楓や桔梗と同じ教育を・・・!」
「誰が言ったのそんなこと。こんな事するお前を誰が推薦したの?」
「・・・推薦はされてないわ。立候補するの。だって、叔父が『楓は仕事が遅い。これなら薫子にだって務まる』って言ってたもの・・・!!だから今日会長に」
「はい、じゃあこの場合、推薦者は叔父さんね。だってさ、椿、じいや」
執事室から移動をし、広間で話は始まった。
無駄に豪華な装飾の部屋で、大きいローテーブル。そして、ふかふかなソファー。そこに、執事室にいた全員がいる。サチエもいる。薫子が話した内容に双葉がまず反応をして、執事たちに振った。
「お話になりませんね。今日、突然いらしてどのように会長に取り継ぐおつもりで?」
執事長が柔らかい口調で、冷たく言い放った。
「楓や桔梗の事、甘く見過ぎだよ。あいつらがどんなことしてるかも知らないのに」
いつも飄々としている椿とは別人のように話す。サチエはいつも戯れている二人はやはり”大人”なのだなと感じた。双葉に至っては割と軽い気持ちで話を振ったのにかなり重い回答が返ってきて少々気まずく感じた。高校生の女の子には圧が強いと思った。
「・・・っ!今から、でも!同じ特別教育を受けされてもらえれば・・・!」
「同じ教育を受ける適性がないからそもそもこの屋敷に住めてないんだよ。まぁ、他の理由でこの屋敷に住んでない者もいるけど」
冷めた目で椿が薫子を見た。
「紅葉なんて家にも帰ってなければ特別教育も受けてないって知ってるわ!それなのになんでまだ経営者枠から外れないの?!あんな遊び回ってるのに!!」
「紅葉の話は今は関係ない。そもそも薫子ちゃんには神部の中核である経営者の適性がないから特別教育を受けてないんだ。わかる?今までの質疑応答や学校での試験も含めて、君は足りてないんだ」
「それでもここで今からでも勉強すれば必要な事とか〜!!」
お嬢様なのだろうが、お嬢様だからだろうか。今まではなんでもかんでも欲しいものを与えられてきたのだろうとサチエは感じた。大の大人二人に説明されても引かない。これはプライドとかではなさそうだと感じた。小さい時の弟が癇癪起こしたのと似た感じだなとぼーっと眺めていた。
「私だって何かできることある!!」
「できることはあるでしょうが、それを決めるのは私や椿さんではありません。そもそもそのような内容と覚悟でしたら会長に取り継ぎはできませんね」
「じゃあどうすればこの屋敷に住めるの!!」
薫子が最後に言い放った。その言葉を聞いてサチエがピンときた。
「双葉さん、双葉さん」
コソッと双葉の近くに寄った。
「あーーー!!ちょっと!双葉に近づかないでよ?!」
薫子の叫びを無視してサチエは双葉に耳打ちをする。
「え?まじ?」
「多分ですが」
言って、サチエは扉の近くに戻る。そして、仕事も進まないこの最悪な状況を少しでも紛らわせようとポケットからタブレット菓子を出し、人に見られないように口に入れた。
「内緒話とか感じ悪いわ!!なんの話よ!!双葉、今の話を言いなさい!」
「薫子に指図される覚えはないね。それに、言わない方がいいと思うけど」
「どんな悪口よ!!」
「・・・はぁー!本当お前の為を思って言うの辞めようと思ったのに。じゃあ良いよ。恥ずかしい思いをしても知らないか」
———コンコン
広間の扉がノックされた。そして返事も聞かずに扉が開いた。
「なんだ、ここにいたのか。今日からサチエは桔梗か櫻の部屋だろ?桔梗が先に帰ってきたんだ。顔合わせを———あれ?お前なんか食べてる?」
「ピンキーです」
楓が部屋に入ってきた。そして、扉の近くにいたサチエを視界に納めた途端に話し出した。そして、普段この屋敷に居ない者がいる事にやっと気づく。
「薫子?」
「楓っ!!」
薫子の顔が明るくなり、楓に媚びを売るような猫撫で声を発した。




