第20話 《神部 双葉という男》
(あ、今この人言ってることと思ってること違う)
(笑ってるけど、心すごく怒ってる)
(あー・・・困ってるんだな)
(またウソついたこの人)
物心つく頃にはすでにこの能力なのか体質なのかわからないモノを”みんな備わっている”と思って俺は生きていた。みんな言っている事と思ってることが違う。バレるのになんでそんなこと言うんだろう。
そう思った。
だから、幼稚園に入る前くらいで双子の片割れである壱葉に俺は言った。
・・・———
「なんで今の子、ウソついたんだろうね」
「なんでウソだって思うの?」
「だって、心の中では、『まだ遊びたい』って感じだったじゃん?それなのに、『早く帰りたい』って言ったじゃん」
「心の中?」
「うん」
「わかるの?」
「え?わかんないの?」
「わかんない」
「母さんと一緒だよ!俺たちがしたいことわかってくれるじゃん!」
「それは母さんだからでしょ?」
「でも!昨日は俺が新しい鉛筆欲しいって思ったら何も言わずにくれたし!壱だっておととい言ってたじゃん!『なふだのピンが壊れちゃったけど、怒られたらどうしようって言えなかったら、母さんが”貸しなさい”って言った』って!なふだ壊れた事言ってないのに母さんは”貸しなさい”っていきなり言ったんだろ?母さんは言わなくてもわかるんだよ!」
「・・・本当だ。・・・なんで?」
「なんでって?わからないの?」
「わからない」
俺と壱葉は顔もそっくりだったが、幼少期の時点で既に大きな違いがあったのだ。
その後、壱葉と俺で母さんの元へ行き、話をした。
人の心の声がわからない壱葉。
人の心の声がなんとなくわかる俺。
母さんは、壱葉はわからない人間で、俺はわかる人間だと既に知っていた。
俺は、人間とは”話している言葉と心の中が別々なのがバレるのにそれでも違うことを言う生き物”なのだと思っていた。母さんは全部思ったことを言うから珍しく言葉と心の相違が少ない人だと言う認識だった。
違った。母さんと俺だけが、世の中と違ったのだ。
「そうよ、貴方は私と同じなの。”良かったね”とも”かわいそう”とも思わないわ。あまり気にしなくて良いのよ」
・・・———
母はそう言った。今思えばサッパリし過ぎているだろう。心配じゃないのだろうか。
でも、母は母で親から貰った訳じゃないこの能力。自分で考えてどうにかしてきて、問題がなかったから『あまり気にしなくて良いのよ』と俺に言ったのだろう。
母は、心を察せる事を人に、”言っても良い”とも”言わない方が良い”とも言わなかった。
しかし、自分が異質で、世の中では怖がられたり気持ち悪がられたりすると言うのは、その日から周りの人間を注意深く観察して段々わかった。
あの時、異質だと言われたのは俺なのに、世の中と違うのは俺の方なのに、壱葉が絶望したような顔をしていた。身内に心の中を読めるような人間が二人もいて怖かったのだろうか。
その胸の内は、色をつけるなら黒か灰色。もやがかかったような感じで、絶句だった。この時の壱葉の感情は混沌とし過ぎていて読み取れなかった。
それからも壱葉とは普通に接してきた。家族とも屋敷で過ごしていた。しかし、小学校四年生の時にお腹の大きい母が屋敷から追い出された。神部の中核である親世代同士は仲が良かったが、人の心が読める、察せる事に外野がずっとうるさかったのだ。引っ越して1〜2ヶ月して俺たちに妹が生まれた。妹は壱葉と一緒で・・・と言うより、俺と母さんとは違って人の心を察せない子だった。つまり、普通の子。それは本当に良かったと思う。
じいやが母の住んでいるアパートに俺と壱葉を連れて行ってくれた事があった。もちろん内密でだ。その時に驚いた。今まで住んでいた屋敷とは比べ物にならない小さい部屋だ。
離れて暮らすならせめて勝手が良く綺麗なホテルじゃダメだったのだろうか?なんでこんなに狭くて小さい場所なんだ。
しかしそれを言ってもいいかどうか一瞬悩んでしまった。しかし、そこは母さんだ。
「この狭さ、私とこの子の二人で暮らすには十分よ。一人暮らしの人はみんなこういう場所に最初は住むのよ。かわいそうなんて思う必要はないわ。可愛い建物じゃない?」
その言葉を聞いて俺が思った事をいまだに覚えてる。全然関係ないことだけど、母さんのこと『この人、人の心がわかるくせに物事をあまり悪く言わない人だな』と思った。
それから、俺たちの世代に将来の話が早くも来た。正直、俺と壱葉は追い出された母さんの子供だから神部の教育から外されると思った。しかし、父さんの人望が厚く、その子供ならと外野が渋々納得した。しかし、流石に重役は選択肢になく、手に職をつけろという事だった。こちらとしても重役レベルは面倒なので助かった。
母さんは妹とずっと同じアパートに住んでいる。だから、選択肢の中に建築士があった時には、『母さんに家を建ててあげられる』と思った。他にもシステムエンジニアとか色々あったけど、あまり興味がなかったから。
そして、自分の将来を決める頃から壱葉が俺から離れ始めた。まぁ元々そこまでベッタリだったわけじゃないんだけど。将来の社長は楓か桔梗、としばらく言われてたのが、楓だと決まったのと同時期だ。
「俺は、医者になる」
「医者?そんなの選択肢にあった?」
壱葉が自分の将来を医者と決めた。医者は選択肢になかったはずだ。しかし、他に医者になると言う奴もいなかった。それから壱葉は楓と一緒にいることが多くなった。多分、あの二人は何かしら手を組んでる。でもまぁ、俺や周りに悪い事は無いだろう。あと、多分楓と組んだのは母さんと妹の為の確率が高い。
そう、俺が『母さんに家を建ててあげられる』と思ったのと同じように。
・・・———
人の心を察せると言うのは、良いことだけではない。わかってしまうから”何かしなければいけない”と考える。そして、それが当たり前になる。だが、これは”俺に与えられた力だから”とか正義を振りかざすわけではない。純粋に自分の思うようにならない人がいて機嫌を悪くされてるのが、俺が面倒で嫌だったんだ。
みんな自分の思い通りに行かないとすぐ機嫌が悪くなったりして他者に当たる。団体行動を乱す。まぁとにかくそれによりまた別の人が嫌な思いをするのが面倒なんだ。
その人の思い通りにならなくても、気持ちに寄り添ったり、代わりに説明するだけでも機嫌がよくなる人もいる。俺はなるべくそうやって自分の周りに平穏をもたらそうとしてやってきた。自分の為だと思ってた。自分が、少しでも空気の良い。居心地の良い場所にいたい。
だから俺は今日も自分の近くに居る人の機嫌や願いを叶える。そうすると、険悪な空気は俺から遠ざかるから。
めっちゃ面倒で疲れるけど。
それが自分にとって一番の思いやりにもなると思ってたのだ。
・・・———
そんな風に生きてきて、自分の価値観を壊してくれる人間がいた。それがサチエだ。
はっきり言う、サチエは特殊だ。人生何周かやってるんじゃないかと疑うほどに意見が全くと言って良いほど子供じゃない。俺たちですら、子供っぽくないだなんだとよく言われる。まぁそれは生活が一般の人たちと水準や感覚が違うからと言うのもある。
しかし、サチエのものの見方のそれはまるで”成人した大人”から諭されているような感覚に陥る。あいつ絶対前世の記憶持ちとかだよ。なんかそういう漫画とかないのか?あるなら作者と語りたいくらいだ。
そんなサチエは学校ではいじめられているらしい。みんなサチエの面白さに気づいてないんだよ。 気づくと面白くて仕方ないから気づかないままで良いっちゃ良いけど。
でもサチエがいじめられるのはなぁ・・・と思ってたら本人は全く気にしてないらしい。
まぁ、屋敷と自宅ではサチエを悪く言うやつはいないからいっか!と思ってたらここで他の神部の屋敷から厄介者の女の子が来てしまった。
さて・・・
あぁ、人のことばっかり考えるなってサチエに言われたな。
でも、俺にそれを教えてくれたサチエを悪く言うやつは流石に許しちゃいけないよな?大事な人だからね。大事って、別に恋愛感情とかではない。もはやサチエの居心地の良さは壱葉を凌ぐほどだ。
そう思い、俺は女の子とサチエの間に入り、サチエの盾になった。




