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神部家のメイド、サチエです。 〜清掃員からメイドになりました〜  作者: 杉崎 朱


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第19話 『トロです 』


「お名前は聞いたことがありました。しかし、双子だったのですね。なるほど。お声は違いますが、確かに見た目では判別できないくらいそっくりですね。髪型が違って下さって助かりました」


「・・・最近、主人の調子が良い。貴女が目をかけて下さっているからと聞きました。何をしたんですか?」


 主人?目をかける?調子が良い?誰の話だ?

 サチエは考えた。しかし、サチエが話したことがあるのは楓と双葉だ。主人とはこのどちらかだろう。そもそも主人とは?と思考は巡る。


「楓さんなら、話をしたり、コーヒーとかハーブティーとかスポーツ飲料を差し入れてるだけです。あと寝ろと言いました。双葉さんなら話したり破れた制服を縫いました。それくらいです」


 決してお菓子や食べ物の話はしないサチエ。


「飲み物と睡眠?それであれほどまでに?いや、そんなはずは・・・栄養面ではなく精神的なものだったのだろうか。同い年と話して精神的に軽くなる・・・?無いだろう。食生活は変化していないのだから顔色の良さの理由が———」


 目の前で顎に手を当てて壱葉が考え始めてしまった。

「(これ何、私仕事して良いのだろうか)」


 では、失礼します。と言って、壱葉の横をすり抜けようとしたサチエ。しかし腕を掴まれてしまい、つんのめったしまった。


「待ってくれ、話はまだ終わってない。主人の様子の変化の理由がわからないんだ。なぜ同じ食事量と栄養状況が続いているはずなのにこの間までは怒り狂ったり不調だったのが、人が変わったかの様に調子も機嫌も良い。その理由が貴女なのではないかと思ったのだが———」

「主人って・・・楓さんのことですか。楓さん、ピークの時は食事摂ってませんでしたよ。多分少なくとも1日くらいでしょうけど。で、飲み物も足りてなかったでしょうから取り急ぎのスポーツ飲料です。あとあの人全然寝てませんでしたから。っというか、なぜ同い年で主従関係?なのかわかりませんが、そう言った関係なら寝てないのか食べてないのとかわかりませんか?」


「私は・・・任命された事があって・・・そんなにずっとはそばにいられないんだ」


「だから屋敷で楓さんと一緒に居るところを私が一度も見たことが無いのですね。その任命が誰からの指示なのかは知りませんが、ずっと一緒にいないなら知らないことがあっても仕方ないですよ。そもそも他人のことなんて全部把握しようとしたって一生無理ですから。はい、回答は『楓さんは、寝てない、食べてない、飲んでない』です。だから忙しさもあって不調だったんです。それをしたら回復です以上です」

「いや、今までだって同じような時もあった!!飲み食いや寝不足が続いたこともあった・・・!しかし今回ほどではなかった!」

「じゃあ今回は任された事がすごく大変だったのでは?なんか知らないハゲたオッサンが楓さんの部屋まで怒鳴り込んできましたから」

「・・・!怒鳴り込んできただと・・・?!誰がだ?!」

 壱葉に掴まれていた腕の力が強くなった。壱葉の楓に対しての執着が凄いと感じ顔を歪めた。


(いち)、その辺にしなよ!サチエが困るって!」


 双葉が壱葉の後ろからやってきた。そして声をかけてやっと壱葉の力が抜けた。


「———っ!申し訳ない。つい、ムキになってしまった」

「いいえ、大丈夫です。肉厚の腕ですので」

「・・・弾力、筋力量共に素敵な腕ですね」

「素敵に言い換えてくださりありがとうございます」




・・・———




 ありきたりな一言二言の挨拶を交わして壱葉は自室に戻った。メイドが必要ならば伺うとサチエが壱葉に打診をした。しかし、壱葉はメイドを部屋には入れない主義だと断られた。そういえばなんか双葉がそんなことを言っていた様な気がしたなと記憶の片隅をほじくり返した。


「壱はさ、楓を主人としてくっついてるんだよ。なーんでだかわからんけど。中学校の半ば辺りから俺と距離をあけて楓と一緒にいるようになり出してね。別にずっと壱と一緒に居たい訳じゃないんだけど、なんか避けられてるっていうか、隠してることがある感じでさ。ほら、俺そういうの気づいちゃうからさ」


「あぁー。確かに双子の片割れが心の中に土足で上がり込んだら・・・というか、双子って以心伝心の様に感性が似てるからそもそも心を読むという必要はないのでは?」

「いやいや!世の中の双子が全てそうな訳じゃないから!学校のクラスが違えば話す人が変わる。それだけでちょっとずつ考え方とか変わってくるもんよ」


「ですが、神部の皆さんは小さい頃から一緒だったのでは?何か気が付かなかったのですか?」


「それが、俺を避けて何かをやってる楓に、壱葉がくっ付いてるんだろう。まぁ、壱の事だから、俺や周りの人間に悪いようにしないだろうから隠したいなら隠したままで良いって思ってるし」


「信頼は変わらず・・・と言う事ですね」

「信頼・・・そうか、これが信頼ってやつなのか?」




 二人で廊下を歩く。サチエの行き先は執事室だ。双葉の行き先は不明だが、同じ道を歩く。




「・・・といか、双葉さんいつから見てました?」

「大量のホットスナック買ってきたんでしょ?ねぇ、今から一緒に食べようよ、冷める前に!」

「そっから聞いてたならもっと早くに出てきてくださいよ。覗き見とは良い趣味ですね」


「で?今日はどんなの買ってきたの?」

「ポテトとフランクフルトとアメリカンドッグに・・・その辺の沢山です。あとお菓子です」

「俺、腹減ってるから全部いけるよ」

「罰としてお預けです」



・・・———




「お!もう二人分の部屋を終わったの?サチコちゃん流石だね!仕事早いね!じゃあ今日から三人目の部屋をお願いしよう!」


 執事室で書類を書いたり、何かのパンフレットやカタログを見ていた椿。

 目線は手元のまま、声のトーンは明るく話をする。その姿を見て、たまにはこの人も仕事することあるんだなとサチエは思った。 


「はい、よろしくお願いします」

「次、誰の部屋やるの?」

桔梗(ききょう)(さくら)の部屋。どっちでも良いんだよね。二人にはもう話はつけてるから本人不在でも勝手に入って良いって」

「そっか、その二人ならどっちからでもいいね」

「その御二方のお部屋が近いのなら、一気に2部屋出来そうですけど」


 サチエが時計を見ながら椿に行った。一部屋にかかる時間は最近では30分程度だ。今は17時30分だ。部屋が近いならクリーニングはまとめて持っていけるし、掃除も段取りを組んで早くできる様に仕上がってきている。18時30分には終わるなら時間的にもちょうど良い。そんな事を考えていた時だった。



 ———バタンッ!!



 勢いよく執事室の扉が開いた。


「お嬢様!いけません!落ち着いて下さい!」


 全員驚いて扉を見ると、黒髪のロングヘアーのモデルのような線の細い女性が扉の前に仁王立ちしていた。

 制服を着ているから中学生か高校生。しかし、楓や双葉とはまた違うでデザインの制服だ。


「(この屋敷には女性は今は居ないと言ってた。他の神部の屋敷だろうか?制服も楓さんと違う。女子は全く違うデザインなのだろうか?)」

 サチエの思考に、双葉が反応した。

「あ、女子のデザインは違うには違うんだけど、この人は——————」


「あああああ!!どうして双葉がただのメイドと意思疎通してるのよ!!なんで?!神部の中でも知ってる人以外には隠してたでしょ?!なんであっさりその女にその事言っちゃうのよ?!」


 女性が騒ぎ出した。彼女の言葉にこの場のサチエを除く全員が眉を顰めた。


「こんなデブを雇ってどう言うつもりなのよ!目の毒じゃない!?意味わかんないんだけど!なんで楓がこんなのに執心な訳?!意味わかんない!頭の先から足の爪先まで何一つ納得できないんだけど!」


 女の子が思う、サチエの見た目を批難した。

 そして今度は、サチエのメイド服のポケットから出ている子機のストラップに目をつけた。


「てか何よそのネコみたいな人形とかつけちゃって!!それで可愛いアピールでもしてるつもり?!どう言うつもりよ!なんなのよそのネコ!!」


「トロです」

「魚の話してんじゃないのよ!!」

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