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神部家のメイド、サチエです。 〜清掃員からメイドになりました〜  作者: 杉崎 朱


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第18話 『黙らっしゃいです』


「なんか!!もうちょっとで分かりそうなんだよ!サチエ!今日俺の部屋泊まって一晩しっかり話そう?!」

「馬鹿ですか?ご自身が何口走ったかわかってますか?5分後に私をミンチにしたいんですか?」

「何っ?!双葉とサチコちゃんてそういう関係?!ってか双葉から?!じいやぁああ!!」

「フォッフォッ。双葉さんは、何か心の枷が取れそうなのですね?」

「そうそう!そんな感じ!これ、サチエ抜きで一晩考えたらなんかまた方向性間違えそうだから!じいやなんとかならない?!」

「無理ですね」

「だよねー」

「良いからこれ、制服直したんで着てみてください」


 そう言って、サチエが綺麗に手縫いし直してアイロンをかけた夏服のシャツを手渡した。


「マジで?!めっちゃ綺麗じゃん?!」

 元通りの制服に双葉が驚く。そしてその光景をみた椿が疑問を口にした。

「何?どうしたの?」

「もう直ったので言いますが、双葉さん制服破いたんです。なので直しました。これが証拠です」


 カチャっと、二つ折り携帯の蝶番の部分のボタンを押して画面を開いた。そして、修繕前に証拠写真を撮っておいたのだ。


「惨事じゃんよっ?!なんで?!ってかこれを直したの?!」

「直しました。ほぼ問題ないでしょう」


 双葉が部屋着の上から着てみる。今朝、初めて袖を通した時と変わらない感触に感心した。


「マジですげぇ・・・」

「サチエさんは、裁縫がお上手なんですね。じいやも感心です」

「習ってましたから」

「ねぇサチエ!俺と話そうって?!」


 

・・・———


 サチエは双葉を話す時間は設けず、淡々と仕事をこなす。

 パントリーでコーヒーの補充を行い、やかんやポットを洗って綺麗にした。あとは少し片付けたら退勤だ。最後、楓の所にもう一度寄り、飲み物の準備がないかだけ聞いていこうと思い廊下を歩き出した。


「俺の、その人への気づいかいのどこかだめなのかもう一回!」

「しつこいですね。だから、人に気を遣いすぎているんですよ。義理もないのに、その辺の大して知らない人の心まで読んで何かしてあげるなんて辞めた方が良いですよ。それをするなら、ご自身が食べたいものとかやりたいことに注目した方がいいです」

「俺がやりたいのは、今はたくさんの建造物を観たいって事だから、かならず誰かの手を借りなくちゃいけない。一人で外出は極力禁止だから。そうすると迷惑がかかるじゃん!」

「だからそれが人のこと考えすぎって言ってるんですよ!一緒に行く人がなんで建造物は観たくないのが前提なんですか?同じような趣味や、もしかしたら屋敷にずっと居るのが飽きて仕方なくて外に出たい人いるかも知れないじゃないですか?」



「・・・いるか?そんな人」

「一度もその希望を口に出してないから、人の心に”その思考”が生まれないんですよ。生まれない思考は読めないのでは?勿体無い。口に出せば良いんですよ。そしたら誰かがそれについて考えます。一緒に行きたいって思った人を見つけて、それとなくその人を同行人として推薦すればいいじゃないですか」


「・・・お前っ?!それはずる」

「ずるいんじゃありません!これは双葉さんの特権です!こう言うふうに使わないでどうするんですか!一石二鳥でしょう!誰も嫌な思いはしません!」

「心を読まれたって知ったら」

「そこはバレないようにあなたが上手く言い回すんです!さ!これも経営のお勉強のうちですよ!多分!」

「サチエめっちゃ適当・・!!でも・・・!そう言ってくれて



 めっちゃ嬉しい」



 双葉が物凄く嬉しそうに笑った。言葉通りだ。

 なんだ、この人背がデカくて可愛げを見出すのが大変だったがこんなに子供・・・というか年相応に笑えるんだとサチエは思った。


「え?なに?俺そんなに可愛い?」

「黙らっしゃいです」




・・・ーーー



「では、何もないようでしたら今日は上がります。また明日」

「助かった。今日もありがとう。明日は俺はいないが部屋の換気を頼む。雨が降ってたら少しで構わないから」

「かしこまりました。失礼致します」

「じゃ、俺も戻るねー」

「待て双葉」


 結局、双葉は楓の部屋までサチエについて行った。楓から飲み物の注文はなく、サチエはやることを終えて退勤をする。そのサチエにまだくっついていこうとした双葉が楓に止められた。


「何?サチエが行っちゃうんだけど?」

 サチエは双葉をまだずにそのまま執事室へとスタスタ向かう。


「いいだろう。もう上がりの時間なんだ。それよりお前、制服破いたのをサチエに直してもらったんだって?」

「え?ヤキモチ?」

「違う。何処で、誰に、何で絡まれた?」


「・・・俺は相手の学校も知らない。年も知らない。ただ、制服見て突っ掛かられただけだから」

「学生相手か。売られた喧嘩をわざわざ買ったのか」

「無視してたら怒らせちゃったみたい。制服破られるまでは防戦一方だよ。破られちゃったからちょーーーっとだけね!ほんのちょっと伸しただけだって!」

「今は防犯カメラが少ないが、今後は街中のカメラの数も増えるだろう。あまり目立つことをするなよ。今回の件はどれほど怒られるか知らないが」

「・・・やっぱり怒られるかな?」


「送迎の係が執事室だけでなく親達に連絡してたらな」

「絶対連絡するじゃん!もう確実にアウトじゃん!」





・・・ーーー






 サチエが翌日出勤して、楓の部屋から掃除を始めて双葉の部屋も完了した。

 そして、双葉の部屋から出たところで人とぶつかった。



「っつ、失礼いたしました。注意力散漫してました。申し訳ございません」

 とりあえず相手の顔も見ずに腰を曲げて深々と謝罪した。そして顔を上げた時に驚いた。


「・・・執事室だけで丸く収まったと思ったのですがやはりお咎めがありましたか。髪まで切られたんですね」


 目の前に立っていた双葉の長髪がバッサリと切られていたのだ。

 短髪のスポーツ青年となっていた。いつものような態度ではなく、少し冷たさが伺える顔つきだ。


「髪の毛切ったら人格まで変わってしまいましたか?それともショックで言葉も出ませんか?」

 自分を視界に収めてはいるものの、一向に話さない双葉にサチエは疑問に思った。まるで別人のようだ。何かあったのだろうか?試してみるか?と心の中で一つの事を思った。


「(今日、ホットスナック大量に買ってきました。分けても差し上げても良いですよ)」


 最近、椿同様サチエの持ち込む食べ物に興味があり嬉しそうにしていた双葉だ。これを察せたら少しは元気が出るかと思ったのだが———無反応だ。


「・・・なんと、双葉さんがそこまで落ち込むほどに叱られたのですね。でもまぁお気になさらないでくださいよ。紅葉さんと違い、今まで真面目だった双葉さんです。周りの方も驚かれて最初はキツくお灸を据えたのでしょう。続ければ『あぁ、こいつもか。仕方ないな』くらいにだんだん緩くなっていくかも知れませんよ?」


「そうやって周りの人間を取り込むのか」


「んの?」


 双葉から出た声だろうか?いや、そうだろう。目の前の人は髪の毛を切られた双葉だ。あれ?でも声が違くないか?とサチエはまたも脳をフル回転させる。


「(怒られて悔しくて一晩中泣いたのだろうか?声が・・・低い。ん?低いっていうかやっぱり声質が違わないか?え?ここで第二の声変わりだろうか?つか今『そうやって周りの人間を取り込むのか』って言った?取り込むって何?私はスキャナーではないぞ)」


「どんな人かと思えば・・・」


 そう言って、メガネを中指の腹でクイっとポジションを直した。双葉はメガネを直す時、人差し指の第二関節で上げ直す癖がある。


 ここでサチエは気づいた。この人は双葉ではない。別人だ。


「初めまして、メイドのサチエと申します」

「初めまして。神部 壱葉(いちは)と申します。楓と同じ年、双葉の兄弟です」


 楓と同い年。双葉の兄弟。つまり———


「4月生まれと翌年の3月生まれとかの兄弟ですか」

「双子だ」




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