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神部家のメイド、サチエです。 〜清掃員からメイドになりました〜  作者: 杉崎 朱


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第17話 『 ”タコ玉”ですので無理ですね』


 サチエは帰ってから夕飯の支度をしなければならない。それに今は勤務時間外である。更衣室を出てから屋敷の裏玄関に向かう間に双葉が話しをする。



「さっきの紅葉の言動をさ、サチエは”好感が持てる”って言ったでしょ?女の子ってああ言うの”怖い”って思ったりしないの?」

「知らない人が近くで怒って暴れたらそりゃ怖くて嫌ですね。紅葉さんの場合、私は楓さんと双葉さんの二人だけですけど、この屋敷の教育とかちょっと話を聞きました。私からしたらあり得ない環境ですけど、でも二人には当たり前で。納得はしてないとは思いますけど、でもご自身たちの生まれとか状況を考えて”神部から出るわけにはいかない”って思ってるんですよね。出ない方がみんなの為でしょうけど、でもそれって、”自分の意見は無視”してる可能性があるんです」


「せざるを得ないじゃん?」


「うーん、ちょっと説明ができませんね・・・」

 サチエは唸った。この間と同じ状況だ。双葉から何かを感じるのだが、何せ自分の中でもその考えがはっきりしない。名前のない感情だ。これが明確に『これだ!』と思えれば説明しなくても勝手に読み取ってくれそうなのにと考えた。



・・・———




 翌日夕方、屋敷内がざわついている。

 何か事件だろうか?この家の人間は大したことなくても事件と捉える節がある。サチエは出勤して執事室へ向かった。そこにちょうど椿が居た。聞こうとした矢先、椿の方から緊迫した表情で話された。


「サチコちゃん!!なんか双葉が送迎に乗らないで自分で帰ってきてるらしいんだよ!!」

「・・・まぁ、神部の方からしたら大事件だと思います。ですが、私からしたら普通です」

「え?・・・あ・・・そうか」

「電車やバスの乗り方を知らないわけではありませんでしょう。知らなくても双葉さんなら考えればわかるでしょうし、面倒になったら人に聞きそうですし。確かに、決まりを破ったわけですから一大事かも知れませんが、学生が一人で家に帰る事自体は何も問題ないですよ」

「まぁ、防犯として送迎つけてるだけで、確かに一人で出歩くこと自体は・・・いや、でもコンビニに寄っていけないもの買っちゃうかも知れないしっ?!やっぱり大事件だよ!!」


 サチエは無視をして楓の部屋から掃除を始めた。



・・・———


「どうしたんですかこれ」


 サチエの目の前には、昨日手渡した新しい夏服を着た双葉がいた。しかし、その夏服の至る所の縫い目が破けている。そして半袖の袖口から傷が見えている。


「ちょっと外出歩いたら、絡まれちゃった」

 語尾にハートマークをつけて言った双葉。


「なんでですか?!なぜ送迎を断ったらすぐにこんな事になるのですか」

「いやー!昨日の紅葉とサチエの言葉を聞いて、俺も自分が思った事やってみようと思って?」

「人のせいにしないでください。私、本当にミンチにされます」


 双葉の制服をまじまじと見た。縫い糸が切れてはいるが、生地が破けているわけではない。他の場所は掴まれてしわくちゃになっているだけで破れも汚れもない。これなら縫い直してアイロンかければ明日も着れるだろう。



「この屋敷には修繕してくださる方がいらっしゃるのですか?」

「いや、流石にそれは外部に依頼してるって!大体服がこんな惨事になる場面に遭遇しないようにしてるんだからさぁー!あーあ、届いたばっかりなのになー」

「制服はいいですよ。双葉さんの傷が———」

「俺はかすり傷だから良いよ、でも制服が———」


 その言葉にピンと来た。


『せざるを得ないじゃん?』

『いやいや、人の気持ちがわかりやすいんだから俺の事はどうでも良くない?———』

『俺はかすり傷だから良いよ、でも制服が———』



 これだ。とここ最近の双葉の言葉を聞いてサチエは的を絞った。



「人は、どうしようもない場面に遭遇します。そして、自分の望む方に物事が進まなくて、悔しかったり、残念がったり、不完全燃焼?的な?感情になることだってあります。

 でも、双葉さんはそうじゃないんです。最初から自分を諦めてるんです。自分の感情を無視してるんです。」

「え?サチエ急にどうしたの?自分の感情無視してないよ。漫画読んでみたいとか、バーガー食べてみたかったとかあるし」


「違うんです。そう言う”欲”の話ではないんです、双葉さんは、()()()()()()()()んです。


 どうして、そんなに自分の事に無関心なんですか?」


「俺・・・自分に無関心?」

「はい、二言目には自分以外の心配です」

「そうだった・・・かな」

「多分、人の気持ちがわかってしまうのが要因の大半を占めるのかも知れません。でも、双葉さんの様に他人の心がわからないのに気にする人もいます。”人の顔色ばかり伺ってる”人。

 要は”優しい”にも分類される人たちですよね。そして、双葉さんはそういった方と似ているって思いました。思っただけでこれ以上の説明はできません。私にはその思いやりというか優しさというか思考がないからです。あったら、多分こんなにはっきり言いません」


「え?でもさ、人の役に」


「双葉さんも楓さんもすっとこどっこいですね?難しく考えないでください。確かにそれは素晴らしいことですし社訓だか家訓だかを守るのは大いに結構です。ですけど、それじゃ、”神部 双葉”の中身って『神部家』や『世の中の意見』とか『周りの人間の希望』じゃないですか?”神部 双葉”が()()()()()()()()()()()じゃないじゃないですか。”神部 双葉”はどこ行ったんですか?」


「ここに居るって!」


「ほとんど居ません」


「えぇー・・・」


「すっとこどっこいですね、じゃあ分かりやすく言います。考えたことが有るか無いか知りませんが、『神部』の家に生まれてなかったらどう生きたいですか?ほとんど将来に制約がない状態です」


「神部に生まれてなかったら・・・?」


「制約がない代わりに、将来安泰の確約もないでしょうけど。でも、それがこの日本で大体の人が背負う”将来への希望と期待と不安”ですよ。神部家じゃなかったらどう生きたいですか?」

「サチエごめん。俺たち”もしも”みたいな現実から著しく離れたifの考えは持たないように昔から言われて———」

「そんな簡単な呪縛にいつまで掛かってるつもりですか?」



 ———呪縛。



 その言葉に双葉は何かを感じた。これが呪縛?何か分かりそうで、閃きそうで、何かから脱出できそうでできない。とてももどかしい気持ちだ。


「洗脳ですよ!!神部で生まれたからこう生きなければならない!!確かに神部に生まれた以上はそうかも知れない!でも想像は自由です!神部に人格や頭の中まで操作されないでください!双葉さんみたいに、人の気持ちがわかりやすい人は尚更です!!多分同調が過ぎるんですよ!!

 人の気持ちがわかって『あぁ、この人はそうなのか』は大層立派です!でも、自分の意見が他人と違ったからいけないなんて思わなくて良いんです!

 人の意見が心に入ってきた時に、嫌だと思ったら突っぱねて良いんです!!」


「な?!突っぱねるとか可哀想だろう?!」

「今みたいに突っぱねれば良いんです」

「だから突っぱねたら相手が可哀想」

「じゃぁ、相手に同調して、自分の意見を無視され続けてる双葉さんは可哀想じゃないんですか?」

「だから、それは()()()()別に———」

「だから、そこが違うって言ってるんです!神部 双葉の本体から神部 双葉を追い出してるのは、双葉さん自身なんです!!はー?!わからないですかね?!簡単なのに面倒な呪縛ですこと!」


「・・・」


「双葉さん。あなたは神部家の前に、この日本に生まれたただの男です。

 本当は、紅葉さんみたいに好きにして良いんですよ。荒れ狂えって言ってるんじゃないんです。人の気持ちがわかるからって同調する義務も義理も人情もありません。他人なんて放っておいて良いんです」

「でもそれじゃぁ、助けてもらえなかった人は」

「じゃぁ、誰か今まで双葉さんを助けたり庇ったりしてくれたんですか?身内は省きます。シンキングタイムスタートです。カチカチカチカチ・・・」



 サチエが秒カウントを口で始めた。

 その秒針の口音が気になるが記憶を探ってみた双葉。


「・・・誰も、助けてはくれなかった・・かな」

「そうでしょう。『人の気持ちがわかる双葉くんはとっても大人!』『なんでも助けてくれる大人っぽい人!』そんなこと言われて、頼られて、でも双葉さんが辛い時には誰も話を聞いてくれないでしょう。だって『双葉くんみたいな人が悩むなんて、僕たち私たちには到底どうにもできない!』とみんな思うでしょうから。想像ですけど」

「いや、なんか、そんな感じ。『大変そうだね』ってみんな言ってくれてたけど、『でもこの人なら大丈夫でしょう』とか『自分達じゃ助けにならないし』ってみんな思ってた・・・顔してた・・のがちょっと冷たくて嫌だったんだろうね俺。多分」


「はい、そうです。他人なんてそんなもんなんです。だから、常に人の心の叫びが聞こえて助け方も慰め方もわかる双葉さんですが、同じように()()()()()()()()()()()()はいないんです。自分が辛い時にも人の助けをずっとしてるんですか?したいんですか?」

「流石にきついって」

「だから、そんなことやめれば良いんですよ。さっきも言いました。人の気持ちがわかったからって、助けなければならないわけではないんです。放っておいて良いんです。特に、()()()()()()()()()()()()()()


「!?」


「どうせ、言われてもないのに読み取って助けていたのでしょう。情けは人のためにならずってやつですよ。多分、よく意味知りませんけどね」



 そう言って、夏服を手にしたサチエは部屋を出ようとした。



「あれ?今日は部屋の掃除してくれないの?」

「こんな制服を外部に修理依頼出したらバレますでしょ?ただでさえ送迎を無視して帰ってきただけでもこの後怒られるでしょうに。喧嘩売られてかすり傷負ったなんてバレたらもっと怒られますよ」

「え?じゃあどうするの?」

「私が縫います」

「マジでか?!サチエマジで神!!」

「その前にストレスでどうにかなりそうなのでお菓子を食べます」

「何食べるの!分けられる?俺も食べたい!」

「”タコ玉”ですので無理ですね」


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