23話
あの時はまだ、涼が生きていると思っていたからいつか病気が治った時に帰っ
てこれる場所を作っておきたいと思っての事だった。
だが、それも怜の脱退を機会に全てが崩れた。
「俺らだけじゃ続けられなかったんだ。もう一般人だしな〜俺ら」
「そうそう、今はバイトでなんとかかな〜」
「俺はCMに出させてもらった会社に入ったぞ?」
バイト三昧な聖に比べ樹はCMで知り合った人に頼んで会社に入れてもらった
らしい。
春はというと、まだ芸能界にしがみついているらしい。
あまり使われる事はないが、それでも地方ロケくらいには使われているらしい。
「春なんてまだ芸能界に残ってるしな〜、それに後で聞いたんだけど〜俺らの曲
作詞や先輩達の作詞やってたのって涼だったんだな?歌詞がいつも好きでさ〜
もっと早く教えて欲しかったぜ〜」
聖が知ったのは涼が眠った後だった。
旅行企画を最後に怜が閉じ込めてしまったせいで、LINEでのやり取りになってし
まったが、それもすぐに不通になった。
それは怜が辞めるきっかけになった時だった。
涼が自殺を図った折に、全てが崩れていったのだ。
怜はみんなに『涼は死んだ』と伝えた。
そして自分はアメリカへと渡ると言い出した。
いきなりで、止める言葉も見つからなかったらしい。
それからしばらくして全世界に向けて発信されたのだった。
そこでメンバー全員が初めて涼の病気の事や、すでに眠ってしまっている事を
知らされたのだった。
「俺たちになんの連絡もなしだぜ?いきなり死んだって言われたら驚くだろ?」
「俺なんか病気の事は知ってたけど、死んだって聞かされた時は心臓止まるか
と思っだぞ?」
春の葛藤は本当に後を追うか迷った程だという。
聖を宥める樹は、あの時ほど苦労した事はなかったと振り返った。
「だからさ〜こうやって生きて帰ってきてくれて、すげー嬉しいんだぜ?」
「そうだぞ。聖の騒ぎようと言ったら大変だったんだからな。生きててよかった」
そうやって自分の事を待っててくれた人がいることに目頭が熱くなった。
遠慮しがちに涼の手を握ると春にも暖かさが伝わってきた。
「ごめん、抱き締めさせて…生きてるって実感させて…」
みんなの目の前で抱きしめられると春の匂いがした。
いつも使っている香水の香り。
ほのかに香る匂い。
いつも家に遊びに行った時に嗅いだ匂いだった。
昔のままだ…。
楽しい時間はあっという間に過ぎて、みんなが帰って行くと春だけが寂しそうに
最後まで眺めていた。
「あいつら、この先もずっと一緒にいるのかな?」
「そりゃそうだろ?ずっと好きだったんだろ?春も涼の事…思ってたんだろ?よ
かったのか?」
樹の質問に首を振ると歩き出した。
「今の俺にどうしろって?涼が幸せならそれでいいよ。俺には涼の為に行動する
勇気はないよ。」
そう、きっと一緒に死ぬ運命を受け入れていただろう。
未来に託すなんて絶対に出来なかった。
それをやってのけたのは怜だからだろう。
部屋に二人っきりになると、少し恥ずかしくて悩んだ。
いつもなら、何気ない話を振るのだが、ここにいるのが昔の怜と分かると、一体何
を話していいのか分からなくなった。
20年という月日が経ってしまうと話題だって変わる。
「涼…どうした?俺だって分かって気まずいか?」
『さっきの…別にエッチだって言ったのは…』
「あぁ、そう言えばそんな事書いてたな?ならいっそエッチな事するか?」
『別にそんな事…望んでなんかないから!』
走り書きをすると部屋を出ていく。
かつて自分の部屋だったところへ入ると電気を点けた。
まるで時間が経っていないかのような錯覚を覚えた。
後ろから入ってきた怜が涼を抱き寄せると強く握り締めてきた。
「あの時のままなんだ。いつか帰って来るって信じてたから。実家に連れ
て行った時も荷物持って行かなかっただろう?お前を…涼を無くしたく
なかったんだ。どう思われてもいい。俺だけに繋ぎ止めておきたかった。
引退だって嘘だ…涼が止めてくれるって分かってたから、もしかしたら
俺だけのモノになってくれるかもって思って言ったんだ。」
「…」
「心まで繋ぎ止めれるなんて思ってないけど、せめて身体だけでも俺の事
を忘れられないくらいに依存させてやりたかった。ごめん…」
依存していたのは自分だけではなかったんだ…。
そんな風に思っていたなんて思わなかったから余計に熱くなっていく。
腕を振り解くと怜を正面に見上げた。
頬に両手を当てると温かさが伝わってくる。
メモを床に落とすとそっと口づけたのだった。




